2
勇義はジャラジャラ安っぽい割には重い腕を上げて、必死に指を差す。その指さえ暗くて良く見えない。
「あのビル、見ててみどりの。上のほうね、ね」
あのビルと言っても回りは明かりもなく暗い。しゅうじは記憶を頼りに勇義の向けているだろう方へ瞳を動かした。
「なんかあんの?」
欠伸をしようと思うも、ギシギシと蹴られたての腹と顔面が軋んで体が悲鳴を上げているが、気せず欠伸をした。そのせいで口の端が切れ、顎にまでそれは伝ったが払うのも面倒だ。
二階下でビール瓶の割れる音が大きくなる。
「たぶんもうちょっとのはず」
そう壁向こうの言葉に、一体こんな場所で何を待っているんだと少し滑稽に思える場面だが、しゅうじは「へぇ」とそれ以上は聞かずここら辺では一番高いであろうビルを見上げた。
「あ」
その驚きは一体
どちらが言ったのか。
顔を見合わせた。
当たり前に勇義の眼前には壁があるけれど、きっと彼も見たんではないだろうかなんて心を踊らせてみた。
続く続く爆発音!
ドーン!ドーン!ドーン!バーン!
音も豪快に踊っている。きっと今の心臓の音と火薬の音は一緒だ。
なんて。
「ほぼ見えねぇじゃん」と言いながら思わずといったように誰かが笑いだす。
爆薬の音の響きで言葉を逃してしまった勇義は、でも彼の笑い声につられて満足げに更に笑った。
チラチラ舞い上がる火の粉の残滓が黒く佇むビルから飛びだして、まるで木みたいだ。
色んな色を咲かす魔法の木だ。
毎年毎年これを見るのは勇義の日課だ。
火花の音が空を裂いて、それだけになる。
あのビルの向こうには
いったいどんな、と思って声を張った。
「たーまーごーっ!ってほんとはさけぶのよ!」
しゅうじは昨日の握り飯の具が咄嗟に浮ぶ。
「きーこーえーてーるー?」
「なーにがそんなに楽しのかねー」
「ね!しゅーにぃー!」
「聞こえてる聞こえてる」
去年はひとり、今日はふたり。夏のイベント。
prev next