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「うう……ドキドキする…」

『大丈夫?麗日さん?』

「う、うん………」


胸を抑える麗日さんの背中を擦る。「ありがとう、苗字さん……あ!あと、お茶子でええよ」と朗らかに笑ってくれた麗日さん、もといお茶子ちゃんには、「私も名前でいいよ」と返しておいた。

雄英高校入学二日目。
本日の午前授業は、英語などの必修科目。つまりは、普通の高校でもあるような一般的な授業だ。そして、午後。
これから私たちは、“戦闘訓練”を行なう。


「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」


広い空間によく響くオールマイトの声。
今年から雄英高校で教鞭を執っている彼は、“ヒーロー基礎学”の担当になるらしい。

平和の象徴、オールマイト。
ヒーローに詳しくない私でも知っている、ヒーローチャート1位をひた走るNO.1ヒーロー。どんな事件や事故でも彼が現れればすぐ様解決させてしまう。そんな素晴らしいヒーローの授業に皆目を輝かせている。


『(平和の、象徴………)』


授業を説明を聞きながら、目の前のオールマイト先生をじっと見つめる。
彼は誰がなんと言おうと素晴らしいヒーローだ。この人のおかげで救われた人がこの世界どれだけいる事か。
かく言う私も、この人に、オールマイトに命を救われた事がある。きっとオールマイト本人は覚えていない。そもそも、彼はこれまで沢山の人を助けて来たのだから、救った人間の顔なんていちいち覚えてられないだろう。

でも、私は忘れない。


“私が来た!!!観念しろ!!!”

“大丈夫かい?お嬢ちゃん、”


差し出された大きな手。その手を私は掴むことが出来なかった。だって、あの時思ってしまったのだ。どうして、


どうして私を助けたの?って。



「さあ!AコンビとDコンビ!早速用意するんだ!!」


オールマイトの説明が終わり、各々がくじを引いてコンビを組んでいく。最初の組み合わせは、お茶子ちゃん、緑谷くんのAコンビと爆豪くん、飯田くんのDコンビの対決だった。
緊張しているお茶子ちゃんを見送り、モニタールームで訓練の様子を見守ることに。


「何か言い合ってるみたいだけど……何を話してるのかしら?」

『さあ…?』


カエルの個性を持った蛙水さんの呟きに思わず答えてしまう。随分と派手にやり合ったAコンビとDコンビの訓練は、ヒーロー側Aコンビの勝利という結果になったけれど、そのAコンビの1人である緑谷くんは、爆豪くんとの衝突でボロボロななり、早々に退席してしまった。
今回と言い体力測定の時と言い、一体緑谷くんの個性はなんなんだ。


「さて、では次の訓練は………Hコンビがヒーロー!Jコンビがヴィランだ!!」


あ、私の番だ。同じHチームである蛙水さんと常闇くんの2人に「よろしくね」と声をかければ、「ああ、」「よろしくね、名前ちゃん」と二人とも頷き返してくれる。敵チームはと言うと、硬くなる個性の切島くんと、テープの個性の瀬呂くんと言う人のコンビ。まさか早速切島くんに個性をお披露目する時が来るなんて。

準備のために切島くんと瀬呂くんがビルの中へと姿を消した事を確認し、蛙水さんと常闇くんの二人に早速「作戦は?」と尋ねる。


「そうね…まず、個性について把握しましょう」

「ああ。俺の個性は“ダークシャドウ”。己の中に住まうソイツを操ることが出来る」

「私は見ての通り“カエル”の個性よ。舌を伸ばしたり、壁に張り付いたり、跳躍する事が得意ね」

『二人の個性なら、切島くん達に近づけさえすれば、2人を捕らえて核を奪取出来そうだね』

「だが、そもそもその核にたどり着く前に邪魔が入る場合がある。見たところ、切島は“硬化”、瀬呂は“テープ”の個性だ。不意をつかれて瀬呂に捕まっては一溜りもないぞ」

『うん。だから、核の元までは私が二人を連れていく』

「なに…?」


常闇くんと蛙水さんが顔を見合わせる。
今回演習に使うビルは、見たところ5階建てといった所だ。奥行もそれほどない。なら、走れば1分で最上階まで辿り着く事は可能だろう。


『時間制限があるから、二人とも一緒に走ってもらうことになるけど……手だけ離さないでね』


そう言ってにっと口角を上げた私に、常闇くんと蛙水さんの目が僅かに見開いた。



***



「だー!!くそ!!負けたあ!!!!」

「え、ちょ、え!?今のなに!?何が起こったんだ!?」


悔しがる切島くんと瀬呂くんを前に私たちはハイタッチを交わす。「名前ちゃんのおかげね」と蛙水さん、もとい、梅雨ちゃんは言ってくれるけれど、そんな事はない。ここに辿り着いて直ぐに個性を解いてしまった事を考えると、切島くん、瀬呂くんと正面から対峙した二人のおかげと言えるだろう。


「お前らいつの間にこの部屋に居たんだよ…!?」

「入ってきたことに全然気づかなかったんだが…?」

「それは、苗字の個性の力だ」

「え?苗字の??」


講評をする為にモニター室に戻ると、納得出来なさそうに眉を寄せる瀬呂くんと切島くんに常闇くんが答える。
「見ている俺達も一瞬何が起きたか分からくなったんだが…?」と怪訝そうに首を捻る飯田くんに、眉を下げて笑いながらモニターへと視線を移す。


「皆どこまで覚えてる?」

「常闇くん達がビルに入ったのは見えてたやけど…」

『そのすぐ後に私が“個性”を使ったの』

「個性……もしかして、瞬間移動とか??」

『ううん、私の個性は、“時間停止”だよ』


瀬呂くんの声にゆるく首を振る。

時間停止。それが私の個性だ。
この個性、実は母と父のどちらとも似ていない。母方の祖母と、父方の祖母の個性の複合型で、所謂隔世遺伝によるものである。


『私が息を止めてる間は、私以外の“時間”が止まるの。もう1回息をすると解けちゃうから、そんなに長くは持たないけど……あと、時間を止める時に私に触れている人も同じように止まった“時間”の中を動くことが出来る』

「おお!なんかすげえ!!!」

「なるほど……だから、50mも気づいたらゴールしてたのか…」

『でも、一日に発動できる限度もあるし、一回の持続時間も今の私じゃ1分が限界』

「あ、じゃあ名前ちゃんのコスチュームに時計が付いとるのはそういう…?」

『うん、まあ、そんな感じ』


お茶子ちゃんの声にコスチュームの両腕についた時計に視線が集まる。
私のコスチュームはとてもシンプルだ。時間を止めて動けると言っても、息を止めていられる時間には限度があるので、動きやすい格好であること。そして、一日の発動制限5分を測ることが出来るように見やすい場所に時計があること。この2つが最低条件だった。そのため、それ以外の要望はあまり出さなかったせいか、お茶子ちゃんと同様にわりと身体にフィットしたヒーロースーツとなってしまった。まあ、今後改良はしていくだろうし、今は仕方ない。恥ずかしいけれど。


「苗字少女の個性はもちろんだが、蛙水少女と常闇少年の個性も上手く生かされていた。今回もヒーロー側の勝利だな!」

「やったわね、名前ちゃん」

『うん。やったね、蛙水さ……じゃなくて梅雨ちゃん』

「ケロケロ」


嬉しそうに笑う梅雨ちゃんともう一度ハイタッチをする。今回の訓練は私にしては上出来だろう。

その後も他コンビの訓練に入り、それを見学して講評する、という流れが続き、全てのコンビの演習が終わったのとほぼ同時にチャイムが聞こえてくる。オールマイト先生の解散の声に、着替えるために更衣室へと向かう際、ふと爆豪くんの姿が目に入った。そう言えば、彼は自分の演習が終わってからというものずっと黙ったままである。
どこか呆然としている爆豪くんを見つめていると、「名前ちゃん?どうしたん?」とお茶子ちゃんに声掛けられ、慌てて彼女たちを追いかけることに。


その時、視界の端に映ったのは、悔しそうに歯を食いしばる爆豪くんの姿。彼は一体何に対してそんなにも焦っているのだろうか。


答えはきっと、彼自身、わかっていないのかもしれない。
MY HERO 3

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