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「麗日お茶子。ハンドボール投げ、測定不可」


おお!!と皆から歓声があがる。どうやら彼女の個性は無重力(ゼログラビティ)らしい。なるほど、それなら、記録:無限と納得だ。

入学初日。現在私たちはヒーロー科の初授業となる体力測定を行っている。もちろんただの体力測定ではなく、個性使用可能なかなり突飛な体力測定である。
「最下位は除籍」なんてとんでもない提案をした担任、相澤先生。彼もおそらくはプロヒーローなのだろうけれど、そもそもヒーローに詳しくないため、彼がどんな活動をしているのか不明だ。まあ、知りたくもないのだけれど。
次の測定に入ろうとする相澤先生の背中に目を細める。握った拳に更に力を加えようとした時、


「なあ、大丈夫か?」

『っえ?』

「なんか体調悪そうだけど……?」

「え?マジで?苗字大丈夫??」


声を掛けてきたのは、ツンツンした赤い髪の男の子と上鳴くんだった。そんなに険しい表情をしていただろうか。「大丈夫だよ、」と笑って見せたけれど、「けどよ」と心配そうに二人は眉を下げる。確かに気分は良くないけれど、体調が悪いわけではないのだ。


『本当に大丈夫。ちょっと眩しくて……』

「確かに今日はちょっと日差し強えもんな」

『心配してくれてありがとう。上鳴くんと……』

「切島な。切島鋭児郎」

『あ、うん。切島くん、ありがとう』


「大丈夫なら良かったよ」と笑ってくれる切島くん。その笑顔に少し胸が痛んで、逸らすように視線を相澤先生へと戻すと、バチッと先生と目が合ってしまった。どうやら私たちのやり取りを見ていたらしい。
じっとかち合ったままの視線。相澤先生の見定めるような瞳にまた顔を顰めそうになる。分かっていたことだ。この学校にはプロのヒーローが沢山いることなんて分かっていた。なのに、なぜ、抑えられないのだろう。

腹の底からフツフツと湧き上がる、どす黒い感情が。

落ち着くように長く細い息を吐き、先生から視線を下へと落とす。すると、そんな私に興味を削いだのか、「……次、緑谷」と相澤先生が緑谷くんへ目を向ける。


「あ、は、はいっ……!」


随分と緊張した面持ちで前に出る緑谷くん。彼は今のところ目立った成績は出していない。個性についても不明。けれど、どうやらこのハンドボール投げで何か狙いがあるらしい。きっと前を向いた緑谷くんが助走を付けて大きく振りかぶった。しかし。


「46m」

「な……今、確かに使おうって………」

「“個性”を消した」

『……個性を、消す……?』


長い前髪がふわりと浮き立つ。ギラりと赤く光った瞳。その目に映された緑谷くんは、はっと何かに気づいたように目を開く。


「消した……!!あのゴーグル…そうか……!


抹消ヒーロー イレイザーヘッド!!!」


ほらね、やっぱり。流石は雄英高校。担任もプロヒーロー“様”に決まってる。
「イレイザー…俺…知らない」「名前だけは見たことある!アングラ系ヒーローだよ!」と少しザワつくクラスメイト達を後目に先生と緑谷くんのやり取りを見つめる。何やら“指導”をしているようだけれど、緑谷くんの顔が段々と強ばって行くのが分かる。

ふっと、先生の髪が元に戻った。どうやら個性を解いたらしい。「“個性”は戻した…ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」そう言って緑谷くんから距離を取った先生。残された緑谷くんはと言うと、ボールを握り締めて何やらブツブツと呟いている。彼はどうするのだろう、と全員が緑谷くんに視線を集めた時、漸く緑谷くんが動いた。


SMASH!!!!


『わっ……!』

「おお!飛んだなあ!」


今度こそ勢いよく放たれたボールは遠くの空へと消えていく。多分最初の爆豪くんと同じくらい飛んでいる筈だ。涙目になった緑谷くんが先生を振り向き拳を握る。
え、何その指。なんでそんなグロい色になってるの?
目に涙を浮かべながら不敵に笑う緑谷くんは、先生に向かって真っ直ぐに声を投げた。


「まだ………動けます」

「こいつ………!!」


緑谷くん。緑谷出久くん。
使用すると自らも怪我をしてしまう様なおかしな個性を持つ彼は、その後もなんとか体力測定を続行。途中、爆豪くんが緑谷くんに飛びかかろうとし、先生が仲裁に入ったりと色々ありながらも、なんとか体力測定は終了。そして、結果は。


「…まさか嘘だなんて思わねえよなあ」

『あはは…。まあ、“先生”の口から言われると本当だと思っちゃうよね』


下駄箱で靴を履き替え校門へと向かう。
「それなあ!」と拗ねたように唇を尖らせる上鳴くんに同意するように、切島くんが頷いている。

結論から言えば、体力測定で最下位となった緑谷くんは除籍とはならなかった。相澤先生曰く、最大限を引き出す為の“合理的虚偽”らしい。先生がそんな風に嘘をついていいのだろうか。

たまたま教室を出るタイミングが同じだった上鳴くんと切島くんと3人で駅へと向かう。「けど面白かったよな!体力測定!」と思い出したように声を上げた切島くんに、確かに!と上鳴くんも目を輝かせる。


「個性ありの体力測定なんて普通有り得ねえもんな!」

「おう!なんつーかこう…ヒーロー科!って感じだったぜ!!」

「それな!……あれ?けど、苗字ってなんか個性使ってたっけ??50mでものすげえ記録出てたけど……」

「あ!確かに!!てか気づいたらゴールしてたよな??」


体力測定の時の私の様子を思い出したらしい2人が不思議そうに首を傾げる。そりゃ、見ている人からしたら、切島くんの言う通り“気づいたらゴールしていた”と言う表現がピッタリだろう。


『見てる人からしたらそう見えるんだろうね』

「どんな個性なんだよ?」

「瞬間移動とか?」

『違う違う。……まあ、そのうち嫌でも分かるよ。これから一緒に訓練して行くんだからさ』

「あ、はぐらかした!!」


「ズリい!」と声を上げる上鳴くんに笑って返す。別に教えて困るものでもない。さっきも言った通り、どうせそのうち分かるのだから。「授業で分かるよ」と返し、少し歩く速度を早めると、「あ!ちょ、待てよ苗字!」と慌てて二人が追いかけてくる。


上鳴くんも切島くんもとてもいい人たちだ。
だから、二人にはどうか間違わないで欲しい。
“正しい”ヒーローに、なって欲しい。


そんな思いを込めて2人を振り返る。「早く駅行こうよ」と悪戯っぽく笑って見せれば、一瞬目を丸くした二人は「「おう!」」と直ぐに笑って頷いてくれたのだった。
MY HERO 2

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