×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
スマホのスピーカーから聞こえてくる声に相槌を打つ。

できるだけ早く帰ってきなさい。
帰り道には気をつけるのよ。
遅くなる前に駅には向かいなさい。

並べられる言葉に苦く笑いつつ、「分かってるよ」と電話越しに頷き返せば、電話の相手は小さく息を吐いた。
戦闘訓練が終わり、制服に着替え終えて教室へと戻れば、誰から言い出したのか反省会をしようと言う流れになった。参加するのなら、一度家に連絡を入れなくて行けないからと、スマホを片手に一旦教室を出ようとした際、「苗字の母ちゃん心配性なんだな」と上鳴くんに笑われててしまった。心配性だよ。“母ちゃん”ではないけれど。さすがに校内で電話をすることは阻かれたので、校門の外まで出ることに。
そこで漸く電話を掛けられたのは良いものの、少し帰るのが遅くなる。という旨の電話に、電話の相手が顔色を悪くしたのが見えなくてもわかった。


『大丈夫だよ、少し遅くなるだけだから』

“本当に気をつけるのよ?なんなら、優(ゆう)に迎えに行かせようか??”

『いいよいいよ。本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう、心姉ちゃん』


「じゃあ、切るね」と一言断ってから通話を終了させる。心配してくれる人が居るというのはとても幸せなことだ。だから、心姉ちゃんの言葉を無下には出来ない。これ以上、彼女にも辛い思いはして欲しくないし。
スマホをポケットへ入れ、教室に戻ろうと校門を潜れば、ふと前から歩いてくる人物に目がいく。あれって、爆豪くんじゃ…?制服の袖口で目をゴシゴシと擦る彼を思わず見つめていると、どうやら私に気づいたらしい爆豪くんの視線がこちらへ。


あ、爆豪くん、目が、赤い。
もしかして、泣いて、


「…見てんじゃねえ!クソモブ女!!!!」

『もっ……!?』


クワッと目を釣りあげて声を荒らげる爆豪くんに、ギョッと目を丸くしてしまう。モブって、クソモブって、仮にもクラスメイトをそんな風に呼ぶ人いる?いや、今目の前にいるんだけれど。
戦闘訓練を終えてから、どこか元気がなかったし、今も泣いていたようだったので、ちょっとだけ心配した私の気持ちを返して欲しい。
チッッッッッ!!!と盛大な舌打ちを零し、横を通り過ぎていった爆豪くん。彼は本当にヒーロー志望なのか疑ってしまう程の粗暴さである。



***



「あ!名前ちゃん戻ってきた!!」

「おかえり!」

『あ、うん。ただいま』


教室に戻った私に、いち早く気づいた葉隠さんと芦戸さんが声を掛けてくれる。「母ちゃん大丈夫だったか?」と少し揶揄うように言ってくる上鳴くんに、「大丈夫だったよ」と少し苦笑いで頷き返す。


「あ、あの、苗字さん!」

『うん?…あ、緑谷くん。腕大丈夫??』

「あ!は、はい!それは大丈夫なんだけど……その……」


何か言い淀む緑谷くんに首を傾げる。何か言いたい事があるのだろう彼の言葉を待っていると、忙しなく視線を動かしながら、緑谷くんは少し重たそうに漸く口を開いた。


「かっ、……ちゃんと、さっき、すれ違ってなかった…?」

『え?……ああ、爆豪くん?うん、すれ違ったよ』

「っやっぱり!!!だ、大丈夫だった!?何かされなかった!?今かっちゃん、凄く気が立ってたけど……!!」

『……と、特には……。盛大な舌打ちを一度されたくらいかな…』

「よ、良かった……。かっちゃんが怒ったのって、僕のせいだから……」


そういえば訓練の時も何やら言い合いをしていたようだし、この2人って初対面じゃないのかな?そう思ったのは私だけではないらしく、「緑谷と爆豪ってどういう関係なんだ?」と皆を代表するように瀬呂くんが緑谷くんに問いかけた。


「一応……幼馴染……かな?」

「のわりには、あんま仲良さそうには見えねえけど??」

「あはははは……仲はよくないね。腐れ縁みたいなものだし、」

「ふーん」


幼馴染イコール仲がいい。そういうイメージを持ってしまうけれど、案外そうでもないのかもしれない。長い付き合いと言えど、気の合う合わないはあるだろうし。
「いろいろあるんだね」と他人事のように返せば、へにゃりと笑った緑谷くんは、少し困ったように頬を掻いた。


「あ…!そうだ、僕、苗字さんの個性について聞いてみたくて、」

『私の?……ああ、そう言えば緑谷くんあの時居なかったのか』

「う、うん。それで、苗字さんがどんな個性なのか僕なりに考察してみたんだけど、もしかしてワープ系の移動ができる個性かな??体力測定の時、50m走で気づいたらゴールしてたし、目には見えないスピードで動けるってことはワープとか瞬間移動とかかなって思ったんだ。残念ながら戦闘訓練は見れなかったけど、蛙水さんと常闇くんが言うには、苗字さんの個性が大活躍だったって言ってたし、あの勝利条件ならワープや瞬間移動系の個性なら凄く打って付けだよね??なら、やっぱり、そういう移動系の…」

「待て待て待て待て!」

『怖い怖い怖い怖い』


最初は普通に話していたのに、だんだんとブツブツと独り言のようになって行くのはどうしてだ。あまりの勢いに思わず一歩後退ると、はっと気を取り戻した緑谷くんが、「ご、ごめん」と申し訳なさそうに眉を下げる。


『いや、謝ることじゃ………。緑谷くん、“個性”について詳しいんだね…』

「え、いや、個性についてと言うか……その……僕、昔からヒーローに凄く憧れてて、ヒーローの研究をしてるうちに“個性”の方にも目が行くようになったっていうか……」

『………ヒーロー、好きなんだ?』

「え?あ、う、うん!そりゃもちろん!!一番の憧れはオールマイトだけど、他のヒーローも皆凄くカッコイイし………」


緑谷くんの言葉にクラスメイト達から「分かる!」と賛同の声が上がる。そりゃヒーローを志すくらいなのだから、憧れのヒーローの1人や2人居て当然だろう。むしろ、それが“ない”私の方がきっと異常だ。でも。


『……確かにオールマイト先生は凄いヒーローだよね。ヒーローにあんまり詳しくない私でも知ってるくらいだし。でも……』

「?でも?」



『皆が皆オールマイトみたいな、“完璧”なヒーローじゃないんじゃないかな?』



自分でも驚くほど冷たい声だった。
騒がしかった教室がしんと静まる。目の前の緑谷くんが固まっているのが分かる。「苗字…?」と恐る恐る声を掛けてきた切島くんにハッと我に返った。
何やってんだろ、私。皆に、これからヒーローになろうとしている彼らに、こんなこと言ってどうするんだ。
「ごめん、変なこと言ったね」と笑ってみせると、ホッと息を吐いた緑谷くんが「ううん、」と首を振ってくれる。空気が和らいだ事に気づいたのか、他のみんなも何処か安心したように息を吐く。


きっと彼らには分からない。いや、分からない方がいい。

ヒーローを憎んで、ヒーローになろうとしている。

そんな馬鹿な人間の気持ちなんて。
MY HERO 4

prev | next