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甲板から聞こえる小さな寝息。
上からそっと覗き見れば、座ったまま眠る名前とその膝の上に頭を乗せて眠るチョッパーの姿が。どうやら今日の陽気は彼女の眠気を誘ったらしい。クソ羨ましいなチョッパー。そこ代われ。
船室から毛布を取って甲板へと降りると、船首の方ではルフィが寝ているらしく鼾が聞こえてくる。良くもまああんなところで眠れるな、と感心半分呆れ半分に息をつきながら、眠る名前ちゃんの肩に毛布をかけると、ふと目に映る彼女の頬を覆う白いガーゼにすっと目を細める。


「名前のそばってすげえ落ち着くんだ」


つい先日、そう言っていたチョッパーの言葉に、そな場にいた全員が思わず頷いた。


「あったかくて、柔らかくて、優しい陽だまりみてえな匂いがするんだよ」

「匂い、は分からないけど、あの子のそばって、ほっと息を吐けるのよね。肩肘張らずに済むっていうか」


チョッパーの言葉に船首の方で、ルフィとともにウソップの“発明”に目を輝かせる名前ちゃんを見つめるナミさん。その目が普段よりも優しく細まっているのは、気の所為ではない。2人の会話を聞いていたロビンちゃんも「そうね」と美しく微笑むと、持っていた本をパタリと閉じ、名前ちゃんへと視線を向ける。


「あの子は、本当に平和な国で生きてきたのね」

「…平和な国?」

「ええ。きっと、あの子の中にはないのよ。誰かを恨んだり、憎んだりする気持ちが、」


「だから、彼女はあんなにあたたかいのね」そう言って目尻を下げるロビンちゃんに、なるほどと納得したようにチョッパーとナミさんが頷く。

平和な、国。

一体どれだけ平和な場所で生まれれば、あんな風になれるのだろう。こんな“大海賊時代”だ。生きていれば、人を殺した殺されたなんてものが、すぐ隣に転がっている。けれど、名前ちゃんはまるでそんな世界なんて知らないとでも言うように、優しく、とても穏やかだ。

思わず伸ばした手で、不似合いな白いガーゼを撫でる。“戦い”や“争い”なんてものに慣れていない彼女の身体は、怪我の治りも随分と遅い。ルフィに見つけられた時の姿からすれば、随分と元通り綺麗な肌になってはいるけれど、やはりあの海賊たちは許せそうにない。海の藻屑にして正解だった。
怒りを落ち着かせるようにふうっと息を吐くと、眠っていた名前ちゃんが小さく身じろぐ。ゆっくりと瞼を開けた名前ちゃんは、少しぼーっとした様子で俺を見ると、「さんじさん…?」と少し寝惚けた様子の声に名前を呼ばれ、つい笑ってしまいそうになる。


「ごめんよ、起こしちまったね」

『いえ、私…いつの間にか寝ちゃってたんですね』

「こんな陽気だ。眠くもなるさ、」

『…毛布、サンジさんですよね?ありがとうございます』


眠気眼を擦りながら、肩に掛かった毛布に気づいて嬉しそうに笑ってお礼を言う名前ちゃん。「女の子の身体に冷えは大敵だろう?」と言って、当然だと笑えば、何が面白いのかくすくすと名前ちゃんに笑われてしまう。


『サンジさんほど、“女の子”に優しい人、初めて会いました』

「そうかい?レディに優しくするのは、男として当然ことだろう?」

『でも、ナミさんやロビンさんみたいに素敵な女性にならともかく、私みたいな平凡な女の子にも分け隔てなく接してくれる人は、そうは居ないと思いますよ』


なんてことのないようにそう言った名前ちゃんに、一瞬はたと目を瞬く。いまだにくすくすと笑う彼女に手を伸ばし、そっと前髪を掬うように触れると、笑っていた名前ちゃんの目が驚いたように丸くなる。


「名前ちゃんだって、十分素敵だと思うよ」


ふっと笑んで紡いだ言葉に、じわじわと彼女の頬に熱が集まる。あ、とか、う、とか、言葉にならない声を発する名前ちゃんは、赤くなった頬を隠すように俯いて、膝の上で眠るチョッパーに手を伸ばす。クソ、やっぱりチョッパー、そこ代われ。


『か、からかわないで、下さい、』

「からかってなんかねえさ。俺はいつでも本気だ」

『…更にタチが悪いですね…』


きゅっと唇を引きむすぶ名前ちゃんは、耳まで赤い。思わず笑ってしまえば、それに気づいた名前ちゃんが漸く顔を上げ、少し不満そうに眉根を寄せる。


『…やっぱり、からかってますよね』

「いいや、本当に本心だよ?」

『…でも、私、自分が素敵だなんて思ったことないし……普通だし……ましてそんなふうに褒められたことだって……』

「そりゃまた、名前ちゃんの周りにいた野郎どもは随分と見る目のねえ奴らばかりだな」


本当に、なんて見る目のないやつばかりなのだろう。「私の国では、サンジさんみたいな人の方が稀です」と頬を赤く染めたまま眉を下げる彼女はこんなにも可愛らしいのに。


「名前ちゃんの国の野郎どもの性根を1度叩き直さねえとなんねえな」

『た、叩き直すって、そんな…』

「そういや、名前ちゃんの国はどんな所なんだい?」


何気なくした問いかけに、名前ちゃんは空を仰ぎ、「そうですね、」と思い出すように呟く。そっと目を閉じ、故郷を思い描いているのであろうその姿は、何故か少し悲しげだ。


『平和な、国です。誰かと戦ったり、武器を持ったりすることなんてありえない。そんな、平和な、場所です』

「そいつはまた…そんな国本当にあるのかい?海賊が攻めてきたら、一溜りもねえんじゃ、」

『…私の国には海賊はいないので、』


海賊が、いない?この大海賊時代に?
そんなことがあるのだろうかと目を見開く俺を他所に、空に向けていた瞳を俺へと下ろした名前ちゃんは、やはり寂しそうだ。


「…早く、帰る方法が分かるといいね」

『…はい』


頷いた名前ちゃんは、そっと目を伏せて再びチョッパーを撫で始める。彼女の国がどこにあって、一体どんな所なのか。色々と聞きたいことがあったはずが、あまりに寂しそうな名前ちゃんに、それ以上は何も聞くことは出来なかった。
プロローグ 10

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