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- ナノ -
「名前は、空島ってどんな所だと思う??」


船に乗せてから5日が経った。
チョッパーさんの治療のおかげで、怪我はかなり回復し、残るは頬に残る大きなガーゼのみとなっている。食事も2日前からみんなと同じものを食べており、毎回毎回サンジさんが作る美味しい料理は、テーブルの上で争奪戦を繰り広げている。もっとも、サンジさんはとても紳士(ナミさんは紳士じゃなくて女好きと言うけれど、)らしく、女の子には女性用に料理を取り分けてくれている。

美味しいなあ。と今日も彼の料理を楽しんでいると、伸ばした腕で手に入れた最後のお肉を口の中に吸い込むようにして食べたルフィさんが不意に問を投げかけてきた。この光景にも漸く慣れたところだ。最初にルフィさんの腕が伸びるのを見た時は、心臓が口から飛び出るんじゃないかと言うほど驚いたのだ。その時にウソップさんからルフィさんは“悪魔の実”の“ゴムゴムの実”を食べたゴム人間なのだと言うことを聞いた。エースさんから聞かされた時も思ったけれど、ほんと、ファンタジーが過ぎる。ちなみに、チョッパーさんが人の言葉を話したり出来るのも悪魔の実の力で、あとは、ロビンさんも悪魔の実の“能力者”というものらしい。本当に摩訶不思議な世界である。
急だなあと思いつつ、食べていたものを飲み込んで質問の答えを考えていると、やはり浮かぶ答えは1つだろう。


『…雲に、乗れそうですよね』

「だよなー!やっぱ空島って言ったら雲の上の国だよなあ!!」

『もし乗れたら、フカフカしてそうですよね』

「フカフカかあ!いいなあ!それ!」

『そうですね。そんな島があったら楽しそうですよね』


現在の目的地であるという空島に思いを馳せるルフィさんの姿はとても可愛らしい。1度それを伝えると、「男に可愛いって言うな!」と彼とチョッパーさんを怒らせてしまったので口にはしないけれど。
「雲に乗れるっていいなー!」「確かに!夢があるよなー!」とルフィさんに続くように空島について思い描き始めたチョッパーさんとウソップさん。そんな3人にナミさんが呆れたようにため息をはいた。


「空島について考えるのはいいけど、ジャヤで情報を集めない限り、そもそもたどり着くことすら出来ないんだからね?」

「分かってるって!」


ジャヤ。そうだ、彼らはそこに向かっているのだ。もしそこに海軍がいるのなら、私は保護して貰わなければ。「あの、ナミさん、」と声をかけると、「なに?」とデザートを食べようとしていた手を止めるナミさん。女性用らしいそれに不満の声があがるのを聞きながら苦笑いを浮かべていると、「どうしたんだい名前ちゃん?」とサンジさんも首を傾げる。


『あの、ジャヤってどんな所なんですかね?』

「さあ…行ってみないと分からないけど…」

『じゃあ、海軍がいるかどうかも行ってみないとわからないんですね…』

「まあ…そうね、」

『…もし海軍の常駐所が無かったら、そこから他の島に行くにはお金がいるんですかね?だとしたら、貯めないと…』


そう訪ねたところで、先程まで不満の声を上げていたルフィさんがやけに静かになっていることに気づく。どうしたのだろう、とそちらを見ると、不思議そうに首を捻ったルフィさんが口を開く。


「??なんで金貯めるんだよ??」

『え?なんでって…海軍がいなかったら、ジャヤから別の島に行くために…』

「??海軍の所まで俺たちの船に乗る約束だろ?なら、ジャヤに海軍いねえんなら、一緒に空島まで行きゃあいいじゃん」


え。と言葉を失くす。
「!それいい考えだな!ルフィ!!」「おー!確かに!」と声を上げるチョッパーさんとウソップさんに、「おいおい、お前らなあ」とサンジさんが諌めるように声をかける。


『あ、あの、それは、ちょっと……』

「?なんだよ?」

『む、無理です、そんな、空島に行くなんて、絶対無理です、』

「はあ!?なんでだよ!!!名前、楽しそうだって言ってたじゃねえか!」


…確かに、さっきの話の流れで楽しそうだとは言ったけれど、楽しそうイコール行きたいではない。彼の中ではその方程式が成り立っているのだろうか。「た、楽しそうとは言いましたけど、」と言い淀む私に、「なら一緒に行こうぜ!」とやけにいい笑顔を向けられるものだから、うっと言葉を詰まらせてしまう。


『む、無理です。私には、無理、』

「だから、なんで!!」

『……空島に行くってことは、冒険に行くってこと、ですよね……!』

「おう!楽しいぞ!!」

『…そりゃ、確かに、ウソップさんから皆の冒険の話を聞いた時はすごく楽しそうだとも思いましたけど…』

「なら!」

『でも、同じくらい、……怖そうだとも、思ったんです、』


今度はルフィさんが言葉を詰まらせる。
ウソップさんの話はとても魅力的だ。ハラハラドキドキの冒険ストーリーを実際に体験した彼らの物語は、実に不思議でとても面白い。そして、楽しそうだ。けれど、彼が語る話の中には、必ずと言っていいほど、“敵”との戦いが語られる場面がある。勇姿を語ろうとしてくれるウソップさんの手前、やめてくれ、とは口が裂けても言えなかったけれど、例えばボロボロになりながら戦うルフィさんの話だとか、足を切り落とそうとしたゾロさんだとか、血だらけになってもなお、諦めずに敵に向かっていったウソップさんの話だとか。とにかく様々だった。
戦う彼らを悪いとは思わない。この世界において海賊をやっている以上、きっと“戦う”ことは彼らの一部なのだろう。でも。


『戦う術も、勇気もない私がついて行くのは、ただのあしでまといなるだけです、』


きゅっと膝の上で握った拳が震える。「名前ちゃん、」と気遣わしげにサンジさんが名前を呼んでくれているけれど、それに応える余裕もない。しばらくの沈黙の後、ルフィさんから零された「分かった」という言葉。分かってくれたのかとほっと胸をなでおろして彼を見ると、先程と同じように、いやそれ以上に満面の笑みを浮かべたルフィさんはあっけらかんとした様子で言う。


「なら、俺が守ってやるから心配すんな!」

『……いや、だからそういう問題じゃ…』


さっきの“分かった”という言葉はなんだったのだろう。ニコニコとしながら、「だいじょーぶ!なんとかなるって」と言う彼に、肩を落とす。そんな私を流石に不憫に思ったのか、背を撫でてくれたナミさんから助け舟が。


「まあ、一先ずはジャヤに行ってみましょうよ。そこに海軍がいれば、そもそも名前はそこで保護して貰うんでしょう?」

「何言ってんだナミ!名前は一緒に空島に行くんだぞ!!」

「根本から話すり替えてんじゃないの!!海軍の所まで送ってあげる約束でしょうが!!」


「困らせないの!!」と言ってルフィさんの頭に拳を振るったナミさん。そんな彼女の拳をきっかけに、昼食の時間はお開きとなった。
プロローグ 11

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