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体育祭から一夜明け翌日。体育祭の疲れを労うためか、今日明日は学校が休みだ。

雄英高校1年目の体育祭。
結果は、三位に飯田くんと常闇くん。二位に轟くん。そして一位が爆豪くん。という、爆豪くんの宣誓通りのものとなった。しかし、表彰式の際、決勝の内容に納得の行かなかった爆豪くんは暴れに暴れ、表彰台の上で縛り付けられていた。あんな表彰式前代未聞である。

ともあれ、無事に体育祭を終えられたことには変わりない。今日明日は折角の休みなのだから惰眠を貪ろうとしていると、「名前、」と優(ゆう)兄ちゃんが部屋に現れる。


『あ、おはよう、優兄ちゃん、』

「はよ!あと、昨日はお疲れさん。母ちゃんすげぇ慌ててたんだぞ?お前が倒れ時!!」

『あはは…心姉ちゃんには悪いことしたかな…』

「けど、あんなスゲえ奴らの中でベスト8に残っただけでも凄いだろ。………母ちゃんはあんまり嬉しくなさそうだったけど………」

『ん………だろうね』


優兄ちゃんの言葉に苦く笑う。
優兄ちゃんは、私の本当の兄ではなく、従兄弟だ。そして、優兄ちゃんのお母さんである心姉ちゃんは、私の叔母にあたる。
雄英のヒーロー科を受験すると決めた際、心姉ちゃんにはすごく反対されていたので、体育祭の結果に彼女がいい顔をしないのも納得だ。「俺は応援してるからな」と優兄ちゃんは笑顔で雄英に送り出してくれたけれど、彼もどうして私がヒーローになろうとしているのかは深く聞こうとはしてこない。きっと気を使ってくれているのだろう。


『あ、そういえば、何か用事??』

「ん?ああ、そうそう!実はさ、これお前にやろうと思って」

『これ???』


優兄ちゃんに渡されたのは県内にある水族館の割引券だった。「どうしたの、これ??」と首を傾げると、「バイト先の店長に貰ったんだ」と笑う優兄ちゃん。


「結構貰ってさー、なんか水族館で働いてる知り合いがいるんだと。で、俺はもうこの前行ったから、余った分はお前にやろうかなって」

『ああ、それで、』

「今日と明日は休みなんだろ??なら、友達誘っていってこいよ」


「んじゃ、また後でな」と軽く手を挙げて出ていく優兄ちゃん。「ありがとう」と声を掛け、自室の扉が閉まるのを見つめる。
水族館かあ。もう長らく行ってないなあ。小さい頃に父と母と行ったっきりだ。
渡されたチケットの数は5枚。中学の友達に声を掛けようかとも思ったけれど、通常であれば明日は平日。中学の友人たちは学校だろう。となると、今のクラスメイトに声を掛ける方がいいのだけれど、如何せん枚数が足りない。女子だけに声をかけようと思ってもあと2枚は必要だ。
まあ、とりあえず女の子たちに声をかけてみよう。行けない子も居るかもしれない。とトークアプリの1A女子グループに声をかけると、数分もしないうちに返事が返ってきた。しかし、


『うそ、まさかの全滅……』


全員予定があるため行けないとのこと。謝ってくる皆に、気にしないでくれという旨の返事を打ちながら、どうしたものかとチケットを見つめる。
有効期限も迫っている。今日今からは難しいし、行けるとしたら明日だろう。仕方ない、と今度はクラス全員のトーク画面を開く。

“誰か、明日暇な人。水族館行かない??”

「先着4名」と付け足して、それを投下すると、10分もしないうちに、明日のメンバーが決定された。



***



「おーっす!苗字!!」

『あ、おはよう、上鳴くん。瀬呂くんに、切島くんも、』

「おう!」

「はよっす!苗字!!」


翌日。待ち合わせ場所の水族館前につくと、既に上鳴くん達が揃っていた。待たせちゃったかな?
「待たせた??ごめんね」と謝ると、「いや、全然待ってねえよ!」と上鳴くんが笑い、瀬呂くんと切島くんもうんうんと頷き返してくれる。
昨日、トークアプリで呼びかけた際、真っ先に反応したのが上鳴くんだった。次いで、瀬呂くんの順に切島くん返信が帰ってきて、あと一人、となった所で意外な人物から返信が返ってきた。


「わり、俺最後だったか?」

「お!来たな!!轟!」


最後に到着したのは、“意外な人物”轟くんだった。
まさか彼から、「行ってもいいか?」と返事が来るとは思わなかったのだ。ちなみに、轟くんのすぐ後に返信が届いたのは峰田くんだった。「代われよ!上鳴!!瀬呂!!!」と上鳴くんと瀬呂くんには個別で峰田くんからメッセージが届いていたらしい。
「これで全員だよな?」という切島くんに頷き返し、揃って受付へと向かう。割引券を提示すると、入場料が5000円から2000円となった。凄いなこの割引券。優兄ちゃんに感謝しつつ、料金を払おうとすると、「あ、ちょい待ち苗字、」と言う上鳴くんに財布を出そうとした手が止まる。


『?なに?』

「苗字の分は俺らで払うから!」

『え!?なんで!?』

「なんでって、苗字の割引券のおかげこんなに安く来れた訳だし…それに、女子に払わせるなんてかっこ悪ぃだろ??」

『で、でも、悪いよ…!折角の休日を潰して、こうして付き合って貰ってる側なのに、』

「いいからいいから!ほら、苗字のチケット!」


「ほい!」と瀬呂くんから手渡されたチケット。みんなの顔とチケットを数回見比べ、渋々それを受け取ることに。なんだか気を使わせて申し訳ない。
「……ありがとう、」と小さく頭を下げると、「気にすんなって!」「むしろ誘ってくれたサンキュ!」と笑い返された。


「いやー!俺この水族館スゲえ気になってたんだよなあ!」

「……有名なのか?」

「え!?轟知らねえの??去年出来た時めちゃくちゃ話題になってたじゃん!日本で1番展示数が多い上に、体験型のアトラクションみたいな乗り物もあって、ショーもすげえイイって!」

「悪い、そういうの疎くて」


興奮気味に水族館の説明をする上鳴くんに、轟くんが瞬きを繰り返している。確かに轟くんはこういうの興味無さそうだ。なら、なんで来てくれたんだろ?と疑問に思いつつ、5人揃って入場ゲートへと向かう。
「いらっしゃいませ!!」と笑顔で迎えてくれるスタッフさんにチケットを見せると、手首にバンドを巻かれる。パスの役割をしてくれるこのバンドでアトラクションも体験出来るようだ。「行ってらっしゃーい!」とスタッフのお姉さんに見送られながら館内へ進むと、私たちを最初に迎えたのは、一面が透明な壁に覆われた空間だった。


「うお!スゲえ!!360℃水槽だ!!!」


「おお!」と目を輝かせる皆。右も左も、前も後ろも、上も下も、全てが水槽だ。「すごいね、」と隣にいる轟くんに話しかける、「ああ、初めて見た」と頷き返される。
ん?初めてって…。


『…轟くん、もしかして水族館初めてなの?』

「ああ、来たことねえ」

「え!?マジで!?!?」

「轟、今日が水族館デビュー!?」

「?おう、そうだ」


へえ!と意外そうに目を丸くする私たち。不思議そうに首を傾げる轟くんを気遣ってか、「でも、俺も久しぶりだわ」「あ、俺も!」と続ける切島くんと瀬呂くんに、倣うように「私も小さい頃来たきりだな」と言うと、「彼氏と来たりしてねえの?」と上鳴くんが問いかけてきた。


『ないない。そういう上鳴くんこそ、“彼女”と来たことあるの?』

「ないって分かってて言ってるだろ苗字コノヤロー!!」

『あはは、ごめんごめん』


少しムッとする上鳴くんに笑いながら謝ると、「高校でこそ可愛い彼女を作ってみせる!!」と鼻息を鳴らす上鳴くん。彼女ってそんなに欲しいものなのか?と内心疑問に思っていると、「その気持ちはわからなく無い」と瀬呂くんが同意している。そういうものなのか。


『じゃあ、次は彼女と来れるといいね』

「もちよ!……あ!ちなみに、苗字的に俺ってどう??あり?なし??」

『そういう質問をしてくる所はナシかな』

「ひでえ!!!」


ガーン!とショックを受けている上鳴くんは置いておいて、次の場所に向かうために順路に沿って歩き出す。平日という事もあって思ったよりも人が少ない。やっぱり今日来て正解だった。


『峰田くんもだけどさ、二人とも“女の子”に対して見境なさすぎない??ちゃんと“好きな子”見つけなよ』

「言われてるぞ上鳴」

「うぐっ………そ、そりゃあ、好きな子が出来たら俺だって?その子一途になりますけど??けど、今はまだその…この子だ!って思える相手を探してる所っつーか…」


ゴニョゴニョと口篭る上鳴くん。彼の言い分も分からなくもないけれど、だからといって、見境なく可愛いだのなんだの言ってたら、“好きな子”に本気だと思われなくなってしまうんじゃないだろうか??


『女の子からしたら、誰にでも可愛いって言う人に褒められるより、普段可愛いって言わない人に言われた方が嬉しいと思うよ?』

「せ、正論………」

『だからさ、普段は、上鳴くんの“可愛い”って台詞はしまっておきなよ。それでさ、もし、本当に上鳴くんにとって大切な子が出来た時……その時は、心を込めて言ってあげたら?』


足を止めて上鳴くんを振り返る。キョトンとしている彼の胸をトンっと指でつくと、他のみんなの足も止まった。


『“君が誰よりも可愛い”“大好きです”って』

「っ、」

『そうしたほうが“可愛い”とか“好き”って言葉の威力が出ると思うよ??なんて、』


へらっと笑って指を上鳴くんから離すと、なぜか上鳴くんは固まって、頬が少し赤くなっている。「?上鳴くん?」と呼びかけて、ヒラヒラと目の前で手を振ると、ハッとした上鳴くんがブンブンと何かを振り払うように首を振った。


「そ、そうだなー!!確かにそうだよな!!!さ、参考にするわ!!!おれ!!」

『え、あ、うん。それより、なんか顔が、』

「ほら!次!!早く次行こうぜ!!あんまのんびりしてっと、ここ広いから回りきれなくなっちまうぞ!!」


何やら焦っている上鳴くんに背中を押される。まだ頬っぺたはほんのり赤いままだけれど、もしかすると少し暑いだけなのかもしれない。「そうだね」と笑って歩き出すと、背中を押していた手が離れていく。
「行こうか、」と順路に従って次へと向かった私に、上鳴くんは微妙な表情で頷き返したのだった。
MY HERO 17

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