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「さあさあ、お待ちかね!!続いては2回戦第三試合!!!A組苗字と、同じくA組常闇の試合だぜ!!!!」


「Are you ready!?」というプレゼント・マイクの声に、観客席から大きな歓声が湧く。盛り上げ上手な人だと呆れ半分に息を吐くと、「苗字、」と常闇くんに名前を呼ばれ、視線をそちらへ。


「本気で来い。俺もそれに応えよう」

『…りょーかい、』

「それでは、2回戦第三試合!……START!!!!!!」


主審ミッドナイトの声で試合が始まった瞬間、常闇くんのダークシャドウが真っ直ぐに襲いかかってきた。予想通りだ。息を吸い込んで呼吸を止めると、直前でダークシャドウの手が止まる。間一髪だった。
すかさず間合いに入って竹刀を振りかぶる。竹刀が当たる直前、「“解除!!”」と個性を解除させると、竹刀が常闇くんのお腹にヒットし、彼の身体が後ろ飛ぶ。


「っ、ダークシャドウ!!!」

“あいよ!!”


場外になる前に、ダークシャドウの爪を地面に突き刺して、勢いを殺す常闇くん。やはり、青山くんの時とは違い、竹刀でぶっ叩いただけじゃそんなに勢いがつかない。青山くんの時は、彼のビームの勢いも利用したからなあ。
ツッと頬を伝う汗。体制を整えた常闇くんは、再びダークシャドウを使って攻撃を仕掛けてくる。


「いけ!ダークシャドウ!!」

『っ“発動!!!!”』


ダークシャドウが向かってくる前に、もう一度個性を使って時間を止める。今度は時間を止めたままの状態で竹刀を常闇くんではなく、ダークシャドウに向けて振り下ろす。


『“解除!!”』

“ギャアアアア!!!”

「くそ……厄介な………!!」

『それは、こっちの、セリフっ…!!!』


ダークシャドウ自体への攻撃は効いてはいるものの、ダメージが残っているのかの確認は出来ない。やはり、ダークシャドウの方を攻撃するよりも、常闇くんを狙った方が得策かもしれない。

少し息が上がっていく。予選の障害物競走。その後の騎馬戦、そして、青山くんとの1回戦。全ての発動時間を合わせれば、そろそろ“一日の発動時間”の制限、5分を超えてしまうかもしれない。
それに、短いインターバルの中でこんなにも個性を使ったのは初めてだ。ドッドッドッと胸を打つ心臓の音が大きく聞こえる。動悸がかなり激しい。


「お前の個性には時間制限があった筈だ。ならば、そこを攻めるまで!!!!」

『っ、“発動!!!”』


時間制限の事を知っている彼からすれば、常套手段だ。長期戦に持ち込まれればどう足掻いても不利なのは私。

考えろ。
考えろ考えろ考えろ。
どうする、どう動く。竹刀で殴った勢いじゃ、常闇くんを場外させるだけの勢いが足りない。かと言って、ダークシャドウの攻撃の度に個性を発動させていたら身が持たない。
常闇くんを戦闘不能には出来ない。やはり狙うとしたら場外だ。足りないのは押し出すだけの力。なら、私の力でも押し出せる位置に常闇くんを移動させるしかない。


『っ“解除!!”』

「がっ……!!!」


ズザザザザッと常闇くんの身体が数メートル後ろへ引き下がる。キッと顔を上げた彼がダークシャドウ体勢を整える前に、またすかさず個性を発動させる。


『“発動!!!”』


常闇くんが立ち上がった瞬間を狙い、時間を止める。3度目の竹刀を常闇くんに向かって振り下ろし、また個性を解除させる。


「っ、くそ……!!ダークシャ」

『っ“発、動っ!!!!”』


常闇くんの声を遮りながら個性を使う。
ダークシャドウを使う間を与えないように、発動と解除を繰り返す。震える足でなんとか踏ん張り、振り上げた竹刀で常闇くんの腹部に狙いを定める。


『っか……い、じょ………!!!』

「ぐっ……!!くそ!!!」

『ハッ、ハッ、ハッ、は、“はつ、どう!!!!!!”』


場外まであと少し。あと一撃を与えれば、常闇くんの身体は場外に出るはず。最後の力を振り絞るように竹刀を構える。
苦しい。心臓の音が早すぎる。全身の血が冷たくなっている気さえする。
あと一回。あと一回だけ攻撃すれば、きっと、勝てる。
構えた竹刀を振り下ろす。「“かいじょ………!”」と霞む視界の中で個性を解くと、目を見開いたまま固まる常闇くんと目が合う。竹刀が、常闇くんにぶつかった。彼の靴底が地面に擦れる音がする。常闇くんは、どうなった?場外に出た??それを確認しようと顔を上げた時、目の前が真っ暗になり、私は意識を手放した。



***



『……………こ、こは…………』

「おや、起きたかい?」


次に目を覚ました時、私はベッドの上にいた。なんでここに。私、常闇くんと戦っていたはずじゃ…。
重たい身体を起こし、まだどこかぼんやりとした視界で辺りを見回すと、「あんまり急に動くんじゃないよ!」と怒る声が。あ、この人は、


『……………りかばりーがーる、せんせい、』

「あんた、運ばれてきた時呼吸が止まってたんだよ???」

『呼吸が…………』

「“個性”の多用は身体への“副作用”に繋がりやすい。知らなかったのかもしれないけど、自分の身体からのSOSには気づいてあげられるようにしなさいな」


「全くもう」と少し呆れたように漏らしたリカバリーガール先生。起き抜けの意識では、先生の言葉を理解するのに少し時間が掛かってしまった。
「……すみません、」と謝る私に、しょうがなさそうに眉を下げたリカバリーガール先生。…この人の事は、私でも知っている。雄英の養護教諭として働いているけれど、その一方で様々な病院を周り、患者たちへの治療にも手を貸している彼女の話を、小さい頃、私は母からよく聞かされていた。


“リカバリーガール先生のお手伝いをして、病気や怪我で苦しんでいる人を助けられるなんて、凄く誇らしいわ”


幼い頃の記憶の中で、母はそう嬉しそうに笑っていた。


『………あの、試合は、』

「あんたの試合の結果かい?……常闇を場外にしたのは覚えてるかい?」

『……いえ、その直前で意識が飛んで……』

「そうかい……。常闇が場外になったのとほぼ同時にあんたがぶっ倒れた。呼吸が止まっている事に気づいたミッドナイトの判断で、その後の試合は不可能とされ、三回戦には常闇踏陰が進出したよ」

『……そうですか、』

「……あんまり悔しそうじゃないね?そんなになってまで勝とうとしてたのに」


リカバリーガール先生の言葉に、視線を下げる。
勝とうとした。というよりは、全力を尽くそうとした。と言うのが正しい。全力を出す彼らに失礼のないように、私も全力で立ち向かうべきだと思ったから。
だから、彼女の言うとおり、悔しさはそんなにない。今自分が出せる全力を尽くせたのだから。


『……精一杯戦えたので、勝ち負けは別に、』

「珍しい子だねえ。結果よりも過程を重視するなんて」


「ヒーロー科の子とは思えないねえ」と呟かれた声に、「そうですか?」と誤魔化すように笑う。雄英の先生たちの中では、苦手意識の低い相手だけれど、それでもやはりあまり長居はしたくない。彼女を見ていると、どうしても“母”の姿を思い浮かべてしまう。
「皆のところに戻ります」とベッドから降りれば、「まだ寝てなさい!」と引き止めるられる。


「あんたの場合、あたしの個性で治癒出来た訳じゃないんだよ!身体は回復してないだろ??」

『…でも、これからもっと重症の生徒が運ばれて来るかもしれないし、無理に動いたりはしないので、大丈夫です』

「あ、こら!苗字!!!」


引き止める声を背に扉を閉める。心配してくれているのは分かるけれど、その心配を素直に受け止めることが出来ないのだ。
重い足で観客席を目指す。少しフラつくけれど、歩けない程じゃない。随分とゆっくりとした足取りで階段を上り終えた時、ステージに立っていたのは、轟くんと爆豪くんの二人だった。
MY HERO 16

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