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レクリエーションが始まる。借り物競争に参加している峰田たちを観客席から眺めていると、視界の端に尾白と話す苗字が映った。
何やら談笑しているらしい2人。時折クスクスと笑う苗字はいつも通りだ。


“……強いヒーローになってね”

“ゴミカスな結果にならないよう、頑張ってね”

“トーナメント、頑張ってね”


苗字はたまに、他人事のような言い方をする。自分だってヒーローを目指してここにいるはずなのに、まるで、“自分は違う”と言うように。


「……わかんねえ……」


ポツリと呟いた声は苗字には聞こえていない。いつもは俺達と同じように笑っている筈なのに、どうして苗字は時折、俺たちから一歩離れようとしているのだろうか。
借り物競争を終えたメンバーが帰ってくる。「背脂なんて課題どうやってクリアするんだよ!!」と愚痴りながら現れた峰田は、ふと苗字の姿を目に入れると、丸瞳をすぐ様キッと目を吊りあげ苗字の元へ。


「おい!苗字!!!お前なんでもう着替えてるんだよ!?!?他の女子見習えよ!?ただでさえヒーロースーツは露出少ねえし!制服の時は黒タイツで脚も出てねえんだから!!こういう時くらい肌出し、グホッ」

「やめろって!峰田!!!」


欲望丸出しな峰田の口を上鳴が塞ぐ。「峰田、お前なあ…」と尾白でさえも呆れたように息を吐いている。言われた本人はと言うと、眉を下げて不思議そうに首を傾げた。


『…峰田くんって、性別が女子ならなんでもいいの??』

「んなわけあるか!!オイラにだって好みはあるわ!!」

『じゃあそう言うのは好みの女の子に……あ、いや、それも良くないか……。でも、私なんかのチアガール姿で“飢え”を凌ごうとしないでよ』


「ねえ?」と同意を求めてくる苗字に、その場にいる男子陣は言葉を詰まらせる。なんか、と卑下するほど苗字はチアガール姿が似合ってなかったわけじゃない。むしろ、


「(いや、いやいや!!何思い出そうとしてんだ!おれ!!!)」


さっきまでの苗字の姿を思い浮かべそうになり、慌てて頭を振る。「?切島くん??どうしたの?」と首を傾げる苗字に「な、なんでも!なんでもねえ!!」と答えれば、瞬きを数回繰り返した苗字が、またレクリエーションへと視線を戻そうとした時、「あ、」と何かに気づいたように声をあげた苗字が席を立った。


『爆豪くん、』

「あ?」


ガタッと荒っぽく席についた爆豪。レクリエーションがそろそろ終わると知ったのか、戻ってきたようだ。座っていた場所から離れた苗字が爆豪の元へと向かう。「これ、ありがとう」と言って綺麗に畳まれたジャージを差し出された爆豪は、無言のままそれを受け取った。


『あの…ごめん、本当は洗って返した方がいいかとも思ったんだけど……トーナメント戦では着るかなっておもって、』

「……っせえ!!!いいから早よ自分の席戻れや!!!」

『あ、はい……』


爆豪の怒鳴り声にほぼ反射的に謝った苗字は、大人しく席へと戻る。気を使った苗字に、何もそんなに言い方しなくても。
「大丈夫か?」「あ、うん」と尾白が苗字に声を掛けているのを横目にしながら、ジャージを着直している爆豪を見る。ほんとコイツ、どういうつもりで苗字にジャージ貸したんだ。


「そう言えば、苗字の初戦の相手って青山だっけ?」

『そう、青山くん。へそビームの』

「アイツもよく分かんない奴だよなあ……」

『確かに、』


周りを見てみると、どうやら青山はまだ観客席に戻ってきてないらしい。レクリエーションにも出てねえし、アイツどこ行ってんだ?「さっきとトイレでずっと鏡見てたぜ」と苦笑いする上鳴に、「自分のことが好きなんだねえ」と苗字が呑気な声を出す。
自分が好きって。いや、まあ悪いことではねえだろうけど。


『爆豪くんはお茶子ちゃん、上鳴くんはB組の……塩崎さんって子、それに、切島くんはB組の鉄哲くん、って人とだったよね?』

「え、あ、おう!!そう!!」


突然話を振られ、少し上擦った声を返す。
鉄哲徹鐵。個性ダダかぶりの相手だ。恐らく殴り合いになるだろう。「個性モロ被りだったよな」と笑う上鳴をジト目で見る。これでも。ちょっと気にしてんだぞ!


『被ってるって……』

「なんか鉄みたいに硬くなれる個性だよな??B組のやつ、」

「…そうだよ」


ムッとしながら返事をすれば、そういう事かと納得したらしい苗字の視線がこちらへ。やべえ、苗字もモロ被りだって笑ってくるのか?と少し構えていると、ふっと柔らかな笑みを浮かべた苗字に小さく目を見開く。


『じゃあ、やり甲斐がある戦いだね』

「え、」

『似てる個性相手なら、お互い手の内を知ってるみたいなものだし……今後の戦い方にもきっと生かせるよ』


「応援してるね」と笑う苗字に、胸の奥がじわじわと温かくなる。なんだろ、これ。なんか、むず痒い。
「お、おう!!苗字も頑張れよ!!」と少し大袈裟に返すと、少し曖昧に笑った苗字も「ありがとう」と返してくれた。


「あ、セメントス先生出てきた」

「ホントだ。会場設営してんのか」


目下のグラウンドでは、いつの間にかレクリエーションが終わり、最終種目の為のステージが造られている。
この体育祭の結果次第でプロからの指名が貰えるかが決まる。プロのお眼鏡に叶い指名を貰えれば、それだけでヒーローになるという夢にグッと近づける。
「完成するみたいだぞ、」と障子が言う通り、あっという間に出来上がったステージ。そこへ待ってました!とばかりに響き渡るプレゼント・マイクの声。


「ヘイガイズれアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!

頼れるのは己のみ!
ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!

心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!」


歓声に包まれる中、入場口から緑谷たちの姿が現れる。


雄英高校体育祭。
最終種目。


「レディィィィィイイイ……START!!!」


トーナメント戦が、始まった。
MY HERO 14

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