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「せんせー、俺が一位になる」


体育祭当日。壇上で行われた選手宣誓。選手宣誓って言えるの?これ??「絶対やると思った!」と言う切島くんに苦く笑っていると、B組や他の科の生徒たちからブーイングの嵐が。爆豪くんは、自ら敵を作っていくスタイルなのだろうか。この前も、敵情視察に教室に来ていた生徒たちを煽るだけ煽っていたし。

ふん、と鼻を鳴らした爆豪くんが列に戻ると、今年の主審だというミッドナイト先生が「早速第一種目に行きましょう!」と競技の説明へ。「雄英ってなんでも早速だね」というお茶子ちゃんに思わず頷いた。


「さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」

『…障害物競走…?』


体育祭。第一種目は障害物競走らしい。もちろんただの障害物競走とは違う。このレースでは、コースさえ守れば何をしてもOKなのだ。
全員がスタート位置へと移動する。サポート科、経営科、普通科、そしてヒーロー科の計11クラスの生徒がごっちゃになって集められる。この大人数。スタートしたとしても先ずはこの集団を抜けなければ脱落必至だ。ここで落ちるのなら、それはそれで私的には構わないのだけれど、


“真面目に参加しろよ”


ここで無意味な反抗精神を見せ、除籍なんてされたら溜まったもんじゃない。
スタート地点のランプに目を向ける。ランプの色が変わった瞬間、「スタート!!!」とミッドナイト先生の声が響き渡った。


『“発動!!”』


始まった瞬間、息を止める。周りが動かなくなった事を確認して、集団から抜け出すために人の間を縫っていく。1番前まで出ると、頭1つ抜け出した轟くんがいて、彼の足元からは地面を覆うように氷が出始めている。きっと最初の段階で、轟くんの氷でかなりの人数が脱落するだろう。
氷が来ない位置につき、止めていた呼吸を再開させる。


『“解除!”』

「!?苗字!?」


誰も居なかった筈の自分の前。そこに突然現れた私に、轟くんの驚いた声が聞こえてくる。そのまま振り返らずに走り出したのは良いものの、すぐ様追いついてきた轟くんや爆豪くん、百ちゃん達に追い抜かれてしまった。
そのうえ、目の間には入試の時に見た超巨大仮想ヴィランの姿が。なにこの量。と顔を顰める私を他所に、ロボの一体を凍らした轟くんはあっという間に通り抜けて行く。
この競技で個性を使うなら、せいぜいあと1回、という所か。第二種目や第三種目の事も考えると、出来るだけ個性は温存しておきたい。他の人が上手くロボを避けているのを見て、死角を通ってロボ地帯を抜けた時には、かなり順位が落ちてからだった。


「おいおい、第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二関門はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!


ザ・フォ―――――――――――ル!!!」


いくつも立ち並ぶ岩場たち。その隙間に広がるのは、深く暗い闇だ。落ちたら死ぬ、なんてことは無いだろうけど、落ちるのは流石に怖い。
ここでも個性は使えない。というか、使ったところで意味が無い。慎重に慎重に綱を渡っていくしかない。お茶子ちゃんや三奈ちゃんに続くように綱を握って渡っていく。出来る限り下は見ないようにしたけれど、吹き上げてくる風にじっとりとした汗が背中に流れる。


『は、は、っ……よかった、なんとか抜けた………』


さあ。次はなんだ。ザ・フォールを抜けた先に待っていた最終関門は、一面の地雷原。先頭の轟くん、爆豪くんは既に随分と先にいる。地雷に気をつけながら、一歩足を踏み出そうとしたその時、


ドカアアアアアアアアアン!!!!


『っ!?なに!?』


すぐ背後から聞こえてきた爆発音。爆豪くんは前にいる。なら、この爆発音は一体。
頭上を通り過ぎていく“何か”。それが緑谷くんだと気づいた時、脳裏を過ったのは開会式前の彼の言葉。


“僕も本気で、獲りに行く!”


確かな意志を持った緑谷くんのあの台詞。あの時は、突然宣戦布告をしてきた轟くんに対する“買い言葉”なのかもしれないと思っていた。でも、違う。
轟くんの言う通り、実力は彼の方がうえ。緑谷くんの個性は未だその詳細は不明のままだし、使う度に彼は大怪我をしている。けれど、それでもなお、緑谷くんは挑もうとしている。


最高のヒーローになるために。


緑谷くんを先頭に、轟くん、爆豪くんの順にゴールしていく。
不思議だ。
私はヒーローに憧れなんてない。目的達成のための手段として、ヒーローになれればそれでいい。体育祭の結果なんてどうでもいい。そう思っていた筈なのに、それなのに、


彼らを見ていると、“何かしなければ”と、突き動かされる。


『っ“発動!”』


8位の瀬呂くんがゴールしたところで、再び個性を発動させる。
時が、止まる。どよめく観客も、ゴールを狙う選手たちも、全てが動かなくなる。能力が発動している事を確認し、地雷原をそのまま真っ直ぐ突き進む。“時間”が止まっているのだから地雷原なんて関係ない。危険な地雷地帯を通り抜けたことを確認、漸く個性を解く準備をする。


『っ解除!!!』

「!?な、なんだ!?何が起きたんだ!?!?ていうか、苗字!お前いつの間に前に……!!」


切島くんの驚きの声を受けながら、そのままゴールする。結果は9位。まずまずだろう。荒い呼吸を整えながら後ろを振り返ると、他のみんなも続々どゴールしていく。A組は全員が予選通過だ。よかった。
落ち着かせようと胸を手で押えながら、クラスメイト達の姿を確認すると、「苗字!」と私の直後にゴールしていた切島くんが駆け寄ってきた。


『あ、……き、、きりしま、くん、』

「いつの間に抜いて……っていうか、大丈夫か??スゲえ息上がってね??」

『う、うん。ちょっと個性の影響で……』


ぜえぜえと肩で息をしていると、切島くんが背中を撫でてくれる。息を止めているのはもちろん辛いのだけれど、それ以上に、この“副作用”はもっと辛い。
私の個性“時間停止”は許容時間以上を使うと、その反動でかなり呼吸が苦しくなる。過呼吸や喘息ののような状態になった事もあるし、最悪、呼吸自体出来なくなる場合がある。と、個性専門の病院の先生に注意を受けた。
は、は、と浅い呼吸を繰り返す私に、切島くんが心配そうに顔を覗き込んでくる。「リカバリーガールんとこ行くか??」と尋ねてくる彼に、小さく首を振ってみせる。


『だ、……だい、じょぶ……もう少ししたら、落ち着く、からっ………』

「本当かよ??」

『う、うん………』


背中をさすってくれる手の温度が心地いい。徐々に落ち着きを取り戻してきた身体に、ゆっくり、ゆっくりと息を吸い込む。よかった。大丈夫そうだ。
呼吸のリズムが戻ったことを確認し、「ありがとう、切島くん」と笑いかければ、ホッと胸を撫でおろした切島くんが「気にすんな。何もしてねえし」と笑ってくれる。

そんなやり取りをしているうちに、他の生徒たちもゴールをし、気づけば予選通過者全員が集まっていた。いつの間に。「次はなんだ?」と気合いを入れ直すように頬を叩いた切島くん。そんな彼の隣で、主審のミッドナイト先生を見上げると、生き生きとした表情をした彼女が、「コレよ!」とモニターを指し示した。


雄英高校体育祭。
第二種目は、騎馬戦だ。
MY HERO 11

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