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「苗字、これありがとな」

『ううん、気にしないで』


昼休み、倉持くんと御幸くんの二人が倉持が借りていたノートを返しに来てくれた。
なんで御幸くんも?と首を傾げると「苗字の顔が見たくて」と御幸がどこか意地悪く笑った。
そんな彼に苦笑いを返した所で、「倉持、御幸」二人を呼ぶ声がした。


「亮さん!?それに哲さんと純さんも!ちわっす!」

「こんちはっす、先輩方どうしてここに?2年の階にいるなんて珍しいっすね」

「ああ、急遽グラウンドが使えなくなってな。今日は室内でトレーニング中心のメニューになったことを伝えにきた」

「他の2年にも回しとけよ」


どうやら、御幸くんと倉持くんの部活の先輩方らしい。
二人も体育会系なんだなあ、とその様子を見ていると、「あれ?君は…」一番小柄な人が私の存在に気づいた。


「ん!?こいつ、確か…」

「この前のあの悪趣味な嫌がらせの標的だよね?」

『ひょ、標的?』

「そう。まあ、その嫌がらせの犯人はさっさと転校しちゃったけどね」


「正確には転校“させられた”んだけど」そう言って笑みを深めるその人に、一瞬肩を揺らすと「亮介」黒髪の凛々しい顔つきの人が咎めるように、多分その人の名前を呼んだ。


「分かってるよ。からかい過ぎたね」

「確か…苗字、だったな?」

『あ、はい。は、初めまして』

「ああ、結城哲也だ。よろしくな」


ふっと笑った結城先輩は大きな手を差し出してきた。
それをゆっくりと握ると、結城先輩が柔らかく笑った。
なんか、スゴくいい人そう。
ほうっと、ついその笑顔に見惚れていると、「いつまでそうしてんだ!」真っ赤な顔をした髭のある先輩に叫ばれて、慌てて手を離した。
「なんで純が赤くなってるの?」「う、うるせえ!!」
なんていうやり取りを見ていると、ふいに小柄な先輩がこちらを向いた。


「俺、小湊亮介ね」

『え、あ、よ、よろしくお願いします』

「あはは、そんなに緊張しなくても、とって食ったりはしないよ」


なんだか冗談が冗談に聞こえない。
つい苦笑いを溢していると、「純も挨拶しなよ」小湊先輩が髭先輩に促した。


「…伊佐敷純だ」

『伊佐敷先輩、ですね。よろしくお願いします』


少しだけぶっきらぼうな言い方の自己紹介に、小さくお辞儀をして返すと、「おう」と意外にも優しげな声が返ってきた。
人は見かけによらないとはこのことだ。


「それじゃあ、俺たちはそろそろ戻ろうか」

「ああ、それじゃあまたな、苗字」


離れていく3人の背中を見ながら、小湊先輩の明るい茶色の髪を見て、さっきの彼の言葉が頭を過る。


“その嫌がらせの犯人はさっさと転校しちゃったけどね”


私の、せいなのだろうか。
きっとそうに違いない。
先輩たちが見えなくなっても、ぼんやりと廊下の先を見ていると、ポンっと頭に御幸くんの手が乗せられた。


「気にすんなよ、苗字のせいじゃねえから」

『御幸くん…』

「亮さんだって、少しからかうためにあんな風に言っただけだぜ?別に苗字にそんな顔させたいなんて思ってないからな」


ヒャハっと独特の笑い声で、その場を明るくしようとする倉持くん。
優しいなあ。
二人の言葉に「ありがとう」と笑うと、二人もまた笑顔を返してくれたのだった。
43 野球部3年生

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