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総吾くんのお姉さんと黒崎くんのお母さんのお墓参りをした週末が過ぎ、再び学校が始まった。
テストも終わってもうすぐ夏休みということで、皆が浮き足だって見える。

昼休み、サクラちゃんやいのちゃんも楽しそうに夏の予定をたてているのを聞きながら急いでお弁当を食べ終えると、二人が不思議そうに首を傾げた。


「名前?そんな急いでどうしてのよ?」

『ごめん、ちょっと用事があるから行ってくるね』

「用事?」


不思議そうにする二人に笑って誤魔化して教室を出て、向かったのは裏門。
確かこの時間、いつもならここにいるはず。
目的の場所を見つけると、そこにはちょうどお目当ての人がいた。


『土方先生、』

「あ?…なんだ、お前か」


ポケットを探って何かを探していた先生に声をかけると、不機嫌そうな返事が返ってきた。
そんな先生に苦笑いを溢してから、「お探しのものはこれですか?」と、あの日ミツバさんのお墓で見つけたマヨネーズ型のライターを差し出した。
それを見て驚いた顔をした先生は、なんだか罰が悪そうな顔をしてからそれを手に取った。


「…どこで見つけたんだ?」

『総吾くんのお姉さん…ミツバさんのお墓で見つけました』

「……そうか」

『土方先生もお知り合いだったんですね。ミツバさんと』


先生を見上げながらそう言うと、土方先生は慣れた手つきでタバコに火をつけて吸い始めた。
あまり、聞かない方がいいことだったのかな。
目線を先生から下げて、なんとなくうつむくと土方先生が徐に口を開いた。


「あいつら姉弟とは、もう十年近くの付き合いになる」

『十年…長いですね…』

「ああ…たくっ、嫌になるほど長え付き合いだ」


そう言って煙をはきながらも、嬉しそうに…でもほんの少し愛しそうに目を細めた土方先生。
もしかすると、土方先生は。
気づいてしまった先生の淡くて綺麗な想いに、内心驚いていると、先生が「これ、ありがとな」ライターを見せてきた。


『あ、いえ……あの、実はそれ、見つけたの私じゃないんです』

「なんだ?じゃあ総吾か?」

『いえ、総吾くんでもなくて……多分、ミツバさんだと思います』

「……は?」


ポカンと口を開けて固まる先生はレアだ。
小さく笑ってから「私、戻りますね」と軽くお辞儀をして踵を返すと「あ、おい!」先生に呼び止められた。


『言っておきますけど、嘘じゃ…「元気そう、だったか?」え?』

「アイツ、元気そうだったか?」


真剣な表情で問いかけて来た土方先生に、今度は私が一瞬固まってしまった。
てっきり、嘘をつけ、なんて言われるかと思ってたのに。
「どうなんだ?」と更に聞いてくる土方先生になんだか嬉しくなって「元気そうでしたよ」と笑ってみせると、土方先生が柔らかく微笑んだ。


「…そうか」


たった一言、そう呟いただけだったのに、土方先生がどれだけミツバさんを大切に思っているのかが伝わってきた。
もう届くことのない先生の恋心に、ミツバさんは気づいていたのかな。
気にはなるけれど、これ以上はやめておこうともう一度お辞儀をしてから教室へと歩き出す。

沖田ミツバさんという人は、きっとスゴく素敵な人だったに違いない。
今度、彼女に会いに行ける機会があれば教えてあげたいな。
ミツバさんの事を話すとき、土方先生の表情がいつもより柔らかくなるということを。

見たことはないけれど、二人並んで歩く姿はすごく容易に想像できて、ちょっとだけ笑ってしまった。
42 土方先生とミツバさん

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