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「それ、一応読んでんだな」

『…まあ、わざわざ持ってきてもらったしな』


黄瀬くんに生徒手帳を届けた翌日の今日、なぜか朝から黄瀬くんが教室にきた。「おはようございますっス」なんて軽く笑いながら現れた彼に、総吾くんの顔がこれでもかと言うほど歪んでいた。
どうしたの?と首を傾げると、黄瀬くんは笑顔で一冊のメンズ物の雑誌を差し出してきた。


「これ、俺載ってるんで!」

『…え?』


えっと、それが?そんな顔で首を傾げると、黄瀬くんが「だから!」と少しムッとした顔をする。


「先輩がモデルの俺を知らないみたいだったんで、わざわざ持ってきたんスよ!?」

『…あー……ありがとう?』

「どういたしましてっス!」


あまり気持ちの込もっていないお礼を言うと、黄瀬くんは嬉しそうに笑った。…その頭に犬の耳が見えたのは気のせいだろう。

それからすぐチャイムがなって黄瀬くんは教室を出ていき、この雑誌だけが手元に残された。
「捨てちまえぃ」と呟く総吾くんに苦笑いしながら読み進めていると、「名前ー」とサクラちゃんが教室にきた。「どうしたの?」と首を傾げていると、サクラちゃんの視線が机の上で開かれている雑誌にうつった。


「あら?これ黄瀬くんね」

『あ、サクラちゃんも知ってるんだね。好き?』

「んー…確かに綺麗な顔だけど…私はサスケくん一筋ね」


流石。小さく笑っていると、「そういや春野、どうしなんだよ?」と今度は黒崎くんがサクラちゃんに尋ねた。それに何かを思い出したようにサクラちゃんは「あ、」と口を動かした。


「名前、今日も一人で帰るつもり?」

『うん。そのつもりだけど…?』

「今日は誰かと帰った方がいいかもしれないわ。最近変質者が出るらしいし」

「『変質者?』」


黒崎くんと声を揃わせると、「そう」サクラちゃんが大きく頷いた。


「この辺りを彷徨いてるらしいわよ?なんでも、変な着ぐるみと長髪の二人組だって」

『…着ぐるみ…』

「ソイツらなんかしたのか?」

「んー…直接何かをしてくるわけじゃないみたいだけど…なんかお金がどうとかって言ってくるらしいわよ」

『それってカツアゲ?』


「そんな感じね」と頷くサクラちゃん。
今日はあまり手持ちもないし、とられて困る物もないから大丈夫かな。「教えてくれてありがとう」と笑うと、サクラちゃんも「どういたしまして」と笑った。










放課後。
結局一人で帰ることにした私は、いつも通り下校している。
黒崎くんや総吾くんが送ると言ってくれたけれど、申し訳ないので断らせてもらった。
まあ、大丈夫でしょ。
なんて軽く考えながら曲がり角を曲がった瞬間。


『いたっ!』


何かとぶつかって座り込んでしまった。
あれ、なんかこれってあのときと似てる。
まさか。そう思って顔をあげると


「む!?エリザベスどうした!?」

『…は』


目の前にいたのは指名手配犯の高杉さんではなく、よく分からない白い物体。というか、着ぐるみ?その後ろから綺麗な顔立ちをした男の人も現れた。なんなんだこの人たち。怪訝そうに相手を見ていると、そんな視線に気づいた男の人が此方を向いた。


「…お主…」

『な、なんですか?』


ジッと見てくるその人につい肩を竦めたとき、ハッとしする。

“なんでも、変な着ぐるみと長髪の二人組だって”

脳内で響いたサクラちゃんの言葉。
着ぐるみ。長髪。


『(まさにこの人たちじゃない!!)』


顔面蒼白になっているであろう私を、相も変わらず見つめてくる(仮)カツアゲ犯。
「金を出せ」と言われたら、有り金全部出すしかないと、ギュッと拳を握ったそのとき。


「お金を恵んで下さいっ!!!」

『……はい?』


何故か、座り込んでいる私よりもカツアゲ犯の二人が深く頭を下げた。
所謂土下座。
ポカーンとしながらその二人を見て固まっていると、着ぐるみの方が何か板を取り出してそこに「お願いします」と書いてみせてきた。
この人たち、カツアゲ犯ではないのだろうか?
とりあえず頭を上げてもらおうとしたとき。


「見つけたぞ!!この食い逃げ共が!!」

『…食い逃げ?』


さっきの曲がり角からよくラーメン屋で見る格好をしたおじさんが現れた。
すると、陸上選手もビックリな速さでカツアゲ犯?の二人は私を盾にするように後ろへやってきた。


「おいこら!!さっきの飯代払ってもらおうか!!」

『食い逃げしたんですか?この人たち』

「おうよ!ラーメン屋に来て蕎麦食わせろなんて言った挙げ句、文句言いながらうちのラーメン食いやがって終いにゃ食い逃げしやがった!」


うわあ、この人たち物凄く頭が弱いのかな。
なんだかよく分からないけれど、後ろで蹲っている二人が不憫にお前てきた。
大きなため息をついて、「分かりました」と立ち上がるとラーメン屋さんが少し驚いた顔をした。


『この人たちが食べた分、私が払いますよ』

「え?けどよ…」

『…なんだか、この人たちがとっても不憫になってきたので…』

「…あー…それじゃあ、悪いね嬢ちゃん。恩にきるよ」


財布から言われた金額(二人でどれだけ食ったんだ)を出して渡すとおじさんは「ありがとよ」なんて言いながら帰って行った。
そんなおじさんに小さく手をふって後ろを見ると、カツアゲ犯…否食い逃げ犯の二人は再び土下座をしていた。


「どこのどなたか存じ上げぬが、かたじけない!!」

『あの、これに懲りたらもう食い逃げなんてしない方がいいですよ、お兄さん』

「む…お兄さん……何故だろう、なんだか物凄くいい響きに聞こえるな…」


…この人、聞いているのだろうか?
嬉しそうに花を撒き散らしているその人に小さくため息をついて「それでは」と軽く頭を下げて、もう帰ることにしたのだった。
結局、例のカツアゲ犯は彼らだったのだろうか?
40 ヅラと着ぐるみの二人組

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