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30 花宮が捕らえた


ねえ、おばあちゃん。
わたしが居なくなったら、おばあちゃんはどうする?
変なんだ、わたし。
泣かせたくないのに、泣いてほしいと思ってしまうのはなんでかな。

わたしが居るとおばあちゃんも、皆も不幸にしてしまう。
でもね、1人で生きるのはわたしにはできないから、だから、だからね、おばあちゃん。
わたしね、決めたよ。
…お父さんもお母さんもそしてお兄ちゃんもきっと…きっとわたしを、迎えに来てくれるよね。






目の前を横切るのは車車車車車車車車車車。
たくさんの車が次から次に通っていく。

ここだ。ちょうどこの道で…わたしは家族を失った。

ゴクリと唾を飲んだ。
手のひらが汗で濡れる。
可笑しいな、ちゃんと決めたのに。
大丈夫、きっと家族が迎えに来てくれるから、だから…。

一歩、また一歩と足を踏み出すと、音や色がドンドン消えていく。
おばあちゃん、これが最後の迷惑だよ。


“ごめんなさい”


そう、小さく呟いて、足をあげようとしたとき


「待て」

『!』


聞こえた声に上げようとした足が降りた。
振り向くことが出来ずにそのまま立ちすくんでいると、カツンと足音が一歩こちらに近づいてきた。


「…はっ、自分が死ねばそれで全部終わりってか?誰にも迷惑かけないですむってか?
随分いい子ちゃんじゃねえ」

『…っ』

「いいぜ、死ねよ」


吐き出された言葉に何かが頬を伝った。
わたしなんか「死ね」ってい言われるくらい当たり前なのに、なのになんで


『(こんなに、っ、悲しいの…?)』


ガクガクと膝が震える。
あと、あと一歩動くだけでいい。
それだけで、全部終わりなんだ。


『(動け、動け動け動け動け!!)』


ボロボロとこぼれる涙を拭って、言うことを聞いてくれない足をゆっくりと、ゆっくりと前に動かす。


『っ!』


バッと車道に飛び出すと、横から大きなトラックが来るのが分かる。
そういえば、誰かがこういうときはスローモーションに見えると言っていた。
耳に聞こえるクラクションがこれで最後だ、と言っているように聞こえた。

ギュッと目を閉じて衝撃を待っていると、


「名前!!」

『!』


凄い勢いで自分の体が横に倒れる。
車とは違う柔らかくて暖かい何かが自分を包みながら地面を飛び込むと、「危ねえだろうがあああ!!!」と誰かの声がした。


「っ、まさか…本当に飛び込むとはな…」

『(はな、みや…さん)』

「…はっ、こんだけ度胸があれば十分だ」


顔だけあげて周りをみると、ガヤガヤと人が集まってきている。

スッと立ち上がった花宮さんは無理やりわたしも引き起こした。
地面に飛び込んだせいか、制服は汚れているし、顔にも擦り傷ができている。


『“なんで…”』

「…人に死ねって言われて泣くくらいなら、死のうとなんかするんじゃねえ!」

『っ、』

「ガクガクブルブル震えるくせに、死にたいだ?そんなもん誰が信じるか、…俺には、”死にたくない”って言ってる馬鹿にしか見えねえよ」


驚きで止まっていた涙が再び流れてきた。
そうだ、その通りだ。花宮さんの言う通り、わたしは本当は死にたくなんて…。


「死ぬな」

『っ!!』

「苗字、死ぬな」


花宮さんの言葉が頭の中で響いた。
たった一言。
このたった一言をわたしは聞きたかったのかもしれない。
おそらく、涙でグチャグチャになっている顔。
精一杯の思いを伝えようと、久しぶりに顔の筋肉を使う。


『“花宮さん、”』


“ありがとう”


遠退く意識の中、下手くそな笑顔でなんとかそう口を動かすと、最後に見えたのはふっと柔らかくて笑った顔だった。

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