25 桐皇が動く
「ちっ」
「なんや青峰、お前が体育館に携帯持ってきてるなんて珍しいな」
「…別にいいだろう」
「…もしかして苗字さん関係か?」
てめぇはサトリか、と言いたくなったのをなんとか堪えて「だったらなんだよ?」と睨みをきかせる。
苗字と連絡が取れなくなって1ヶ月、さつきに聞いても返ってくるのは「分からない」の一言だけだった。
「なんや、もっと隠すかと思ったんやけどなぁ」
「あんたにゃ、無駄だろ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべてくる腹ん中真っ黒な先輩に息をはいた所で、さつきが暗い表情で近寄ってきた。
「…何もないといいんだけど…」
「そうやなぁ、…せや、だったらこっちから尋ねてみたらええんちゃう?」
「は?尋ねるって…どこにだよ」
「ワシが前に見たとき、あの子A女子校の制服きとったで?」
「せやろ?」とさつきに同意を求める今吉さん。
するとさつきも慌てたように数度首を縦にふった。
「…でも、急に尋ねたら名前ちゃんに迷惑なんじゃ…」
「せやけど、このままやったら、一生音信不通もありえるんちゃう?」
「どないする?」と楽しげに聞いてくるこの人には、多分答えなんて分かってるのだろう。
ちっ、と舌打ちを一つしてから「行くに決まってんだろ」と返すと今吉さんはいつもよりも深い笑みを見せてきた。
「で、やっぱあんたも来るのかよ」
「ワシかて、一応心配なんやで?」
どうだか、と内心思いながらも口には出さず、眉を寄せる。
さつきが言うには、今日は土曜だが、A女子校は土曜授業という、なんともめんどうそうなものがあるらしく、普通なら登校してるらしい。
「でも、あたしが調べたときは、学校には行ってないって聞いたんですけど…」
「桃井の情報を疑っとるわけちゃうで?
ただ、行けばなんか分かることもあるんやないか、ってことやん」
今吉さんの言葉に「なるほど、」と小さく頷いたさつき。
その表情はやっぱなんか暗い気がしたが、もし言いたい事があるなら自分から行ってくるだろうと、何も聞かないことにした。
「…あ、ここがその女子校なんですけど…あれ?あそこにいるのって…」
女子校に着くと、さつきが目を丸くして校門のあたりを見ている。
それにつられて自分もそっちを見るとあまりにも意外な人物がいて、目を見開いた。
「…花宮真…?」
「おもろいことになったなぁ」
女子校生と話す花宮を見る今吉さんは心底面白いものを見つけたというような笑みを浮かべた。
俺たちに気づかず、バスケのときのゲスい笑みはどこに行ったんだ、と聞きたくなるようないい子ちゃんな笑顔で話をしていた花宮だったが、それからすぐに女どもと別れたかと思うとこちらを向いた。
「げっ!」
「なんや、“先輩”に対して失礼やなぁ」
「…なんでいるんすか…」
あからさまに嫌そうに顔をした花宮に今吉さんはニヤリとした笑みを向けた。
「…自分、ここでなにしてたん?誰か探してるんか?」
「…あんたにゃ関係ねぇだろ…」
「もしかして、…苗字さんか?」
「っ」
ピクリと眉を動かした花宮に満足そうに笑う今吉さん。
こいつ本当に妖怪なんじゃねぇか、と疑いたくなったのは多分俺だけじゃないだろう。
「…さぁな」
「おい、さっきここの女どもに苗字のこと聞いてたんだろうが、教えろ」
「はっ、なんで俺がてめぇの言うこと聞かなきゃなんねぇんだよ」
「ふざけてんのか」と心底腹立たしい笑みを返してきた花宮に眉を寄せて「あ?」と言うと、慌てたようにさつきが間に入ってきた。
「…ほんなら、先輩の言うことは聞いてもらおか」
「今はあんたは俺の先輩でもなんでもねぇだろ」
「俺も加えさせてもらっていいですか?」
「「「「!?」」」」
花宮を睨み付けていると突然聞こえた声はひどく聞き覚えのあるもので、その声の方を向くと、目にはいったのは真っ赤な髪。
「お前…」
「久しぶりだな、青峰、桃井」
現れたのは俺たちキセキの世代のキャプテン、赤司だった。
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