26 三校主将が話す
どうしてこうなってんだ、と数分前の自分に舌打ちしたくなる。
半ば強制的に連れていかれたファミレスには俺と桐皇の三人と洛山の赤司と実渕が2つのテーブルを囲って座っている。
「…」
「なんや花宮、そないな顔しても無駄やで、お前が何聞いたんか言わんと帰さへんで」
「俺からもお願いします花宮さん、苗字さんが心配なんです」
「はっ、キセキの世代のキャプテンで名家の次期当主がたかだか女一人の情報が手に入らないわけなだろ、それに…」
チラリと目を向けた先は桐皇のマネージャー。
ビクリと体を震わせたソイツを庇うように今度は色黒のデカイやつがこっちを睨んでくる。
「桐皇のマネージャーは情報収集に長けていると聞いたが?お前、本当に何にも知らないのか?」
「…それは…」
唇を噛んで俯いた桐皇マネージャーに赤司が「桃井、」と呼び掛けると、桐皇マネージャーはゆっくりと顔をあげた。
「…名前ちゃんがいなくって数日してから、行方を探そうと情報を集めました」
「…で?」
続きを言えと促すように首を動かすと、青峰も桃井と呼ばれたソイツに目を向ける。
少し迷ったように目を泳がせたソイツは何かを決めたようにゆっくりと口を開いた。
「…名前ちゃんの事を調べてからすぐに、いくつか分かったことがあったんです。
それは……名前ちゃんの家族は今はおばあさんしかいなくて、他の家族は…皆事故でなくなっていらっしゃいました」
絶句、そんな言葉が似合いそうなほど全員が口をつぐんだ。
まぁ、予想通りの反応だと内心思いながら、もう一つの疑問を口にした。
「それで?その他に分かったことはねぇのか?」
「…わたしは…わたしはそこで調べるのをやめました……これ以上、名前ちゃんの事を勝手に調べてしまったら、それを知っとき名前ちゃんが傷つくんじゃないかと思うと…それから先には進めませんでした…」
「ごめんなさい、」と少し掠れた声で桐皇のマネージャーが謝ると青峰がもういいだろう、というように再び俺を睨んできた。
「ほんで?花宮は何知っとるん?」
「…俺が聞いたのは、今ソイツが言ったこととあとはそのショックのせいで声が出なくなったってことと…唯一の肉親だったばあさんが1ヶ月前に倒れたってことだ」
「…そういうことか、」
俺の言葉の意味を理解した赤司が目線を下げた。
その横で実渕も小さく息を吐いている。
「は?んだよ、なにがそういうことなんだよ?」
「…おそらく、彼女の中でそういう方程式ができてしまったんだろう」
「方程式?」
「…自分と一緒にいる人が立て続けにドンドン不幸に見舞われとるんや、多分苗字さんは思ってしまったんや、…自分と一緒にいると大切な人を失ってまう、てな」
「そんなっ!!」
「そんなわけないじゃないですか!」と声をあげた桐皇のマネージャーに「せやな、」と頷いた今吉さんはそのあとすぐに「けど、 」とつけ足した。
「思い込みっちゅうんは一回思ってしまうと、頭から抜けなくなる、頭のなかで何度も反芻してまうんや、自分のせいやと」
「じゃあ、名前ちゃんは…いまどこに…?」
「…さぁな、」と実渕に答えると、実渕は絶望したように目を見開いた。
他のやつらもただただ黙っていて、そんか空気のせいか、頭のなかにいつかの苗字の泣き顔が現れた。
なんでこんなときにこんなこと思い出してんのか自分に腹が立った。
アイツが俺と会った数回のうちに見せたのはほとんどが腑抜けた笑顔だった。
それなのに、
「(なんで泣き顔なんだよ…!)」
ガタッと音をたてて立ち上がると、全員の視線が俺に集まった。
「どうするつもりなんや?」
「…さぁ、どこにいるか分かんねぇのに動けるわけないじゃないですか。」
「…何もしないんですか?」
「…それが得策だろうな、…だが……」
“一発殴ってやらなきゃ気がすまねぇ”
勝手に植え付けられたアイツの泣き顔。
どうせなら、こんな顔じゃなくて、もっとマシな顔残せ。
鞄を引っ付かんで出口に向かうと、後ろから「せやなぁ」と意地の悪い先輩の声がしていたが、気にせず前を向いた。
「(俺からにげれるなんて思うなよ、バカ)」
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