19 秀徳と海常と
『(しゅうとく高校)』
目の前の学校の名前を見てほっと胸を撫で下ろす。
この前買った緑色のリストバンドを渡そうと訪れたのは緑間くんの通う秀徳高校。
もちろん緑間くんの許可はとってある。
今日は練習試合で午前中には終わるらしく、じゃあそのあと一緒にお昼でも食べようと言う話しになったので、こうして校門前で待ち合わせ。
チラホラと通る秀徳生の視線に気まずく思いながら、そのまま5分程待っているとぞろぞろとオレンジ色の集団がこちらに向かってきた。
その集団から1人だけ早足でくるのは、緑間くんだ。
「すまない、待たせたのだよ」
『〈大丈夫、全然待ってないよ〉』
申し訳なさそうに眉を下げる緑間くんに首をふっていると、彼の後ろにいた他のオレンジの人たちが追い付いてきた。
「ああっ!!」
「おまっ!苗字!?」
『(あっ…!)』
大きな声に振り向くと、口を大きく開けて驚く宮地さんと高尾くんの姿が。
「知り合いか?」と聞いてくる緑間くんに数回頷いて返すと、ハッとしたように我にかえった二人が詰めよってきた。
「うわっ!マジ嬉しいんだけど!!
もぅ会えねえって思ってたんだぜ!?」
「お前、こんなとこで何してんでよ!?
てか、なんで緑間と…」
一気に二人に話しかけられて、おろおろと対応に困っていると、オレンジ色の集団の中でも特に背の高い人が苦笑いしながら二人の肩に手をおいた。
「ほら、困らしているだろ?」
「あ…」
「わりっ、」
大きな人の言葉に少し距離をおいてくれた二人に笑って首をふった所で、「ああー!!」と今度は叫ぶような声が聞こえてきた。
「名前っちいいいいいいい!!」
『っ!』
ガバッと抱きついて来たのは黄瀬くんで、その姿はまるで犬みたい。
ギューっと抱きしめられみ身動きが取れずにいると、「てめえ、何勝手に行動してんだ!黄瀬!!」という怒鳴り声と共に離れていった黄瀬くん。
「ああ!何するんスか!!」
「お前の頭には集団行動って言葉がないのか!?」
「バカたれ!」と黄瀬くんの頭に拳骨を一つ落としたその人は何処かで見覚えがある。
どこだったかな?とその人を見ていると、それに気づいたその人もこちらを見て目があった。
そこで、ようやく気づいた。
『(神奈川で会った…)』
「み、みみみみ見るな!」
ばっと視線を反らされて、しかしてな何かをしてしまっただろうか、と不安に思っていると今度は誰かに手をとられた。
「運命だ!!」
『?』
「神は俺にこんなに可愛らしい天使との出会いを与えられた!!」
「神様ありがとう!!」と手をつかみながら言ってくる人にポカーンと口を開けて固まっていると、それに気づいてくれた黄瀬くんが間に入って、手を離させた。
「ダメっスよ、森山先輩!
名前っちは俺のっス」
「「「「はあ!?」」」」
「黄瀬、馬鹿も休み休み言うのだよ!」「おいこら、金髪、埋めるぞ!」「てか、黄瀬と苗字ちゃん知り合いなの!?」といろいろと言われて、再び困っていると、誰かの手が肩に置かれた。
「なんかごめんな?」
「黄瀬がわ(る)かった!」
「ああ!小堀先輩と早川先輩まで何してるんスか!」
眉を下げて謝ってくる人は小堀さんと早川さんというらしく、その二人に慌てて首をふると柔らかな笑顔を返された。
なんだか、とっても優しい人だなぁっと私もつられて笑っていると「ああ、なんて美しい笑顔!!」とさっきの人がまた目の前に現れた。
「森山由孝です!!」
「俺は小堀だ」
「…笠松幸男だ、」
「早川だ!!」
四人の自己紹介に頷いて返すと、「君の名前は?」と森山さんに聞かれたので、脇に抱えたボードを出した。
『〈苗字名前です〉』
「ああ!名前ちゃんって言うのか!!
名前まで素敵だ…!!」
少し驚いた顔をする早川さんや小堀さん、それにオレンジ色のジャージの人(まだ名前が分からない坊主の人とツンツン頭の人)とは反対の反応をしてくる森山さん。
こんな人は初めてだ。
「…あれ?でも、なんで名前っちがここに?」
『〈今から、緑間くんとお昼を食べに行くの!〉』
〈楽しみ!〉とボードに書いてみせると、「は!?」と言って緑間くんを見た黄瀬くん。
そういえば、どうして黄瀬くんはここにいるんだろう?
「ちょっ!なんで緑間っち!?」
「なんでとはなんなのだよ、黄瀬
何か文句でもあるのか?」
「文句しかないっスー!
だいたいなんで緑間っちが名前っち知ってるんスか?」
「お前に言う必要はない」
フンッと鼻を鳴らした緑間くんに怒る黄瀬くん。
この二人は仲良しさんなのかな、と見ていると、緑間くんと目があった。
「苗字、こんなヤツはほっといて行くぞ」
ぎゅっと腕を捕まれて、引っ張られる形でついていく私。
でも数歩歩いた所で緑間くんの足が止まってしまった。
「…何故全員着いてくる…」
「真ちゃんばっか苗字ちゃんとお昼とかずりいじゃんか」
「先輩に文句あんのか?焼くぞ」
「名前っちは俺のっス!!」
なんだかよく分からないけれど、とりあえず皆一緒にご飯を食べたいみたい。
くいっと控えめに緑間くんのジャージを引くと、緑色の瞳がこちらに向いた。
『〈皆で、食べよう?〉』
「ダメ?」と付け足すように首を傾げると、少し眉を寄せた緑間くんがため息をはいた。
それからすぐに頭の上に綺麗にテーピングが巻かれた指の手が乗ってきた。
「…しょうがないのだよ」
「よっしゃ!!」
ということで、今日のお昼は緑間くんと二人から、オレンジ色のジャージと青色ジャージの皆さんと食べることになりました。
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