14 誠凛と
『(…広い…)』
差し入れに持ってきたアイスとこの間買ったタオルを届けるために黒子くんと火神くんのいる誠凛に来たものの、思っていたよりも広いそこに困ってしまった。
誰かに聞こうかとキョロキョロと回りを見渡すと、エナメルをからった男の人が横を通りすぎた。
慌てて引き留めようとその人の服を掴むと「え?」と驚いた顔をしたその人はあたしを見るとさらに驚いた顔をした。
「えっと…君は…」
『〈いきなりごめんなさい
あの、バスケ部に友人がいるんですけど…体育館はどこでしょうか?〉』
そっと服から手を離してボードを見せると、一瞬目を見開いた男の人はすぐに優しく微笑みを返してくれた。
「体育館へなら一緒に行こうか、俺もバスケ部なんだ」
バスケ部、というまさかの言葉に目を見開いてみせると、男の人が小さく笑ったのに気づいて少し恥ずかしくなった。
『〈あの、お願いします〉』
「うん、行こうか」
ふんわりと柔らかな笑みを向けてきたその人は伊月俊さんというらしい。
「黒子、火神、お前らにお客さんだぞ」
「客?」
伊月さんの言葉に反応したのは火神くんで、ヒョッコリと伊月さんの背中から顔をだすと、「苗字!?」と大きな声で叫ばれた。
「なんで、お前、ここに…」
眉を寄せながら聞いてくる火神くんに、もしかしたら来てはいけなかったのだろうか、とボードに書いて尋ねると、火神くんの目が大きく開いた。
「や、そうじゃなくて…」
「火神くんは驚いているだけですよ、気にしないで下さい」
ボードを掲げたまま火神くんを見ていると、そっと隣に気配を感じたので、見ると黒子くんが立っていて柔らかな笑みを向けてくれた。
黒子くんの言葉にそうなの?と言う風に火神くんを見ると、罰が悪そうな顔をした彼は「…デケェ声だして悪かった」と謝ってきたので、慌てて首をふっていると、「ねぇ、」とこの中で唯一の女の人が声をかけてきた。
「その…そろそろ説明してもらってもいいかしら?」
少しだけ眉を下げて笑って聞いてきたその人に、コクコクと頷くと、女の人はありがとう、と笑顔を向けてくれた。
『〈A女子高校の苗字名前です〉』
「名前ちゃんね、どうしてここに?」
『〈黒子くんと火神くんのバスケを見たくて…
あの、もしお邪魔でしたら言って下さい。
すぐに帰ります。〉』
「え?ううん、邪魔なんかじゃないわよ、練習なんかでいいなら、いくらでも見てって」
ね?と安心させるようにいってきた女の人に嬉しくなって笑顔を返すと、一瞬キョトンとしたような顔をしたその人は、次の瞬間ガバリと抱きついてきた。
「な、なんて可愛いの!!」
『!!』
「ちょ、か、監督!」
抱きついている女の人に困っていると眼鏡をかけた人が助けてくれた。
『〈あの…ところでお名前は?〉』
「え?ああ、言ってなかったわね
相田リコ、ここの2年でバスケ部の監督よ」
「よろしくね」とウインクしてきた相田さんに「監督なんてカッコいいです!」と言うとまたも抱きつかれて、眼鏡の人に助けてもらった。
ちなみにこの眼鏡の人は日向順平さんというらしい。
一通り名前を教えてもらってから、そういえばと自分の腕に下げている袋に気づいて、近くの黒子くんにそれを渡すと、黒子くんが首を傾げた。
「…これは…」
『〈差し入れのアイスだよ
溶けてないといいんだけど…〉』
「ありがとうございます、監督に渡してきますね」
ふんわりと笑った黒子くんは私と頭を人なですると、そのまま相田さんの方へ歩いていった。
黒子くんからアイスを受け取った相田さんは私に「ありがとう」と言ってから、皆さんに休憩だと言ってアイスを配った。
「苗字っていったか?アイス、ありがとな!」
『〈いえ、そんな…〉』
「俺の名前覚えてるか?」
『〈えっと…木吉さんですよね〉』
「おう!よろしくな!」
差し出された大きな手を掴むとガッシリと掴み返された。
人の良さそうな笑顔の木吉さんにつられて笑顔を向けた。
そこで、はっとしてもう1つの紙袋の存在を思い出した。
キョロキョロと回りを見ると、ちょうど黒子くんと火神くんが一緒にいたので、木吉さんに一礼してから二人に駆け寄ると、両方の視線がこっちを向いた。
「ん?どうした?」
『〈これは、二人に差し入れ〉』
「僕らに、ですか?」
黒子くんの言葉に大きくうなずいて、紙袋から2つのタオルを出すと、二人の目が大きく開いた。
「タオル、ですか?」
『〈何か役に立つものをあげたくて、安易な発想だけど、やっぱりこれかなって〉』
赤い方を火神くん、水色の方を黒子くんに渡すと二人が顔を見合わせた。
それから、ふっと笑った二人が「ありがとうございます」「ありがとな!」と言ってくれたので、それに笑顔で返したのだった。
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