夢小説 完結 | ナノ
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15 霧崎第一の主将と2


今日はいつもより人が多いな…。

電車に乗っている間はぼんやりとしか考えてなかったけれど、降りるとなるとそれは大きな問題となった。


『(お、降りたいのに…)』


ギュウギュウと締め付けるように周りにいる人達のおかげで、降りようにも上手く身動きがとれない。
「降ります!」と一言言えれば少しは変わるのかもしれないけど、私にはそれができない。

もう少し、とドアが見えるところまで来て、なんとか出ようとするけれど、それでも力が足りないのか上手く通り抜けられない。
アナウンスがなって、とうとうドアが閉まりそうになったとき


「おっと」

『!!』


人混みの中から辛うじて出ていた手を誰かが引っ張ってくれたおかげでなんとか電車から降りることに成功した。
ほっと安心して目の前の人に頭を下げると「気にせんでええで」と高校だろうか、眼鏡の人はポンポンと私の頭を撫でるとそのまま行ってしまった。








「…お前か、」

『〈また来ちゃいました〉』

「…そうかよ」


ふいっと視線を私から持っていた本に移したその人は花宮真さん。
初めて会ったのはこの公園で、今日は三回目である。

さぁっと気持ちのいい風が流れる中、前と同じように花宮さんの隣に腰かけると、花宮さんはチラリとこちらを見たあと、何も言わずにまた本を読む。

会話はあんまりしない。
初めて会ったときも、そのあとに会ったときも花宮さんは終始本を読んでいた。
「何の本を読んでいるんですか?」と前に聞いた所、よく分からない題名が返ってきて、首を傾げると花宮さんは鼻で笑っていた。

それから、本のなまえは聞かなくなった。
聞いても多分知らない難しい物だと思うから。
あと、花宮さんの読書の邪魔は極力しないようにしたかったから。



ざぁっと木々の葉が揺れる音と一緒に私たちを包む影が揺れた。
風の音が凄く気持ちよくて、瞼が重くなるのを感じる。
あ、前にも「ここに来て寝るなら帰って寝ろ!」って怒られたばかりなのに、
そう思ってんとかめ目を開こうとごしごしと擦ると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
でもそれは前に聞いた鼻で笑うような声ではなくて、なんだか、少し、優しいものだった。




「(…またか)」


隣から聞こえる小さな寝息にため息をついた。
初めて会ったときも、そのあともそして今日もこいつはここに来ると何故か寝る。

グラグラと不安定に揺れる頭が視界の端にちらついて集中できない。


「ちっ、」


小さく舌打ちをして、隣にいる小さいのに手を伸ばすと、その肩を少しこちらに傾けると、ソイツは重力に逆らうことなくストンと俺の肩に落ちてきた。


「…軽ぃな…」


ふと、隣で寝ている顔を見ると最初に会ったときの泣き顔を思い出した。
そういえば、泣いていたのは初めだけだ。


『〈苗字名前です〉』


二度目に会ったときに教えられた名前。
そういえば、まだ呼んだことはなかったなとどうでもいいことが頭を過った。


「…おい、」

『…』

「起きろ」

『…』

「…苗字、」


初めて名前を呼ぶと、寝ているはずの苗字が少し身動ぎをして、小せぇ口が静かに動いた。


“おにいちゃん”


閉じた瞳から二度目の涙がこぼれた。



他人の領域には踏み込まないと決めていた。
そんな面倒なこと自分は絶対にしないと思っていた。
でも、今、俺は初めて、


「…名前、」


こいつの領域に踏み込んでしまいたいと思ってしまった。

小さく寝息をたてる苗字の額を指で小突く。
それでも起きない苗字は無意識なのか、俺の方にさらに寄ってきた。

なんともめんどくさい女に捕まってしまったものだ。
とりあえず起きるまでは待ってやるか、と読みかけの本を開く。



起きた苗字が顔を赤くしながら何度も頭を下げてきたのは、その数十分後だった。

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