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12 海常の黄色エースと


「うぜぇ」


青峰っちから返ってきたなんとも辛辣な言葉に肩を落とす。
たまたま東京で仕事があったからどこにいるのか聞いただけでこの返事はかなり酷いと思う。

仕方がないから青峰っちは諦めて、今度は黒子っちにメールを送ることにした。


“黒子っち!青峰っちが酷いんス!”

“青峰くんが酷いのは相手が君だからです”

“てめぇ黄瀬!テツにちくってんじゃねぇ!!”


「…はい?」


なんで青峰っちが黒子っちにメールを送ったことを知っているのだろう?
二人は一緒にいるのだろうか?
なんだか仲間外れにされたような気がしてムッとしながらも今度は桃っちにメールを送る。


“今どこにいるんスか?”

“ストバスだよー!”


ストバス、ということは青峰っちく黒子っちと一緒にいる可能性が高い。
桃っちに場所を聞いて、携帯を閉じると足早にそこへ向かう。とりあえず文句の1つでも言ってやろう。




「ちょ、青峰!今のファールだろ!!」

「は?んなわけあるか!」


目的地につくと聞こえてきたのは青峰っちと火神っちの声。
なんだ、火神っちもいたのか、と考えながらベンチに座る黒子っち達を見ると、目に入ったのは黒子っちと桃っちの間に座る小さな女の子。


「あ!きーちゃん!」


最初に俺に気づいた桃っちの声に全員の視線が俺に集まった。


「なんだよさつき、マジで教えたのかよ」

「もぅ、仲間外れなんて可哀想じゃない」

「お久しぶりです、黄瀬くん」

「あ…久しぶりっス」


相も変わらずな様子の青峰っちと桃っちをよそ目に、黒子っちが俺に挨拶をしてきたので、慌ててそれに返すと、黒子っちの隣にいた女の子は立ち上がって頭を下げてきた。


「おい苗字、こいつに頭下げる価値なんてねーぞ」

「ちょ、それどういう意味っスか!!」

「ごめんね、きーちゃん
青峰くんはきーちゃんに名前ちゃんを見せたくなかったんだよ」

「なっっ!ちげーっつの!!馬鹿言ってんじゃねーよ!」

「…“名前”?」


真っ赤になっている青峰っちを無視して聞きなれない名前に首をかしげると、「こいつだよ、」と火神っちがさっきの女の子を指差した。


「火神くん、人を指差してはいけませんよ」

「あ、わり、苗字」


火神っちの謝罪に首を横に降った女の子は、次に俺に目を向けてきた。


「あー…コンニチハ」

『〈初めまして〉』


「え、」と思わず小さく声を漏らしてしまった。
だってまさか、ホワイトボードで返事が返ってくるなんて思いもしなかった。

固まったままの俺をよそ目に女の子は慣れた様子でボードに何かを書いていく。


『〈モデルの黄瀬さんですよね?〉』

「…なんだよ苗字、お前こんなクソモデルが好きなのかよ?」

『〈好きっていうか…尊敬かな?〉』

「へ、?」


尊敬、なんて女の子に初めて言われた。
すると、今度は青峰っちだけでなく、黒子っちや火神っち、おまけに桃っちまで眉を寄せた。


「黄瀬くんを尊敬?」

「きーちゃん、なんだかズルい」

「こいつに尊敬するとこなんかあるか?」

「あるわけねぇだろ」


なんだか今日は皆機嫌が悪いのだろうか?
俺は何かをしてしまったのだろうか?
向けられる厳しい視線に戸惑っていると、か小さな手によって掲げられたボードによってその視線は俺から外れた。


『〈だってモデルとスポーツ選手の両立って凄いよ!〉』

「…なんでこいつがスポーツ選手なんて知ってんだよ?」


さっきよりも数倍イラついたよつに眉を寄せて女の子に聞く青峰っち。
視線は女の子に向いてるはずなのに、何故だか俺が睨まれてる気がする…。


『〈青峰くんも黒子くんも火神くんもバスケするって聞いて、バスケ雑誌を見てみたら黄瀬くんが載ってたんだよ。
あ、でもちゃんと青峰くんも見つけたよ、かっこよかった!!〉』

「っ…そーかよ…」


女の子の答えに照れたように返した青峰っち。
こういう顔をする青峰っちはなんだか新鮮だ、なんて思っていると、女の子がまた俺に視線を向けてきた。


『〈苗字名前です。よろしくお願いしますね〉』

「え、あー…黄瀬涼太っス」


「ども、」と言ってかるーく頭を下げると、苗字さんは笑いながらてを差し出してきた。

正直握手とかサインとかうんざりしてるから、こーゆーのは好きじゃないけれど、どうやら黒子っち達はそーとー気に入ってるようなので断ることもできない。

仕方なく差し出された手に自分の手を乗せると、苗字さんはフンワリ笑って


『〈あ・り・が・と・う〉』


と口パクをしてきた。
それから彼女は俺が手を離す前に先に手の力を抜いてきたので、ソッと力を抜くとなんの問題もなく手を離していった。


「…オンナノコから先に手を離されたの、初めてっス…」

『?』


ボソリと呟くように溢した言葉はどうやら、名前さんにはき聞こえていなかったようなので、「なんでもないっス」と返すと、苗字さんは1つ頷いてから桃っちの方へ歩いていった。





「これが、きーちゃんだよ」


火神っちと黒子っちと青峰っちの四人でバスケをしてからベンチに戻ると、桃っちが携帯を苗字さんに見せていた。
何を見せているのか聞くと「モデルのきーちゃん」と返された。

なんだ、やっぱりこの子もモデルっていうステータスを持った自分に興味があるのか、と少し何かが冷めたような気持ちで苗字さんを見ていると、桃っちの携帯に釘付けだった顔がこちらを見た。


『〈モデルのお仕事よりもバスケか好きなんですね〉』

「…へ?」

『〈この写真の黄瀬さんも素敵だけど…さっき、皆とバスケしていた笑顔の方が、私は好きです〉』

「っ、」


ドキッ、そんな効果音がしそうなくらい心臓が高鳴って、顔に身体中の熱が集まった。

「(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、)」

今まで女の子にこんなこといわれたことはなかった、いや、女の子に限らず同性にだってない。
なんだか胸のあたりがむず痒い…


『〈…黄瀬さん?〉』


キョトンとしながら首を傾げてくる苗字さん。

ああ、そうか俺はこの子が自分を分かってくれたことが恥ずかしいけど嬉しいのだ。


「…名前っち、って呼んでもいいッスか?」

『「っち?」』

「俺、尊敬する人には何々っちってつけるんすよ!」

『〈…そんなもったいないもの私なんかにつけていんですか?〉』

「逆ッスよ!名前っちだからつけたいんス!」


「ね!」とさらに呼び掛けると、名前っちは嬉しそうに可愛く笑ったのだった。

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