8 陽泉の紫と泣き黒子と
「美味しいスイーツ店が新しくできた」
そう聞いて、甘いものには目がない自分はさっそくそこに足を運んだ。
色とりどりの美味しそうなスイーツたちを目にどれにしようか迷っていると、店員さんに目をつけられてあれよこれよと進められる。
結局、断ることもできずに買ってしまったケーキやプリンはどう考えてもうちの家族では食べきれない量になってしまった。
両手に掲げた袋から香る甘い臭いは本来なら美味しそうなはずなのに、今はため息を誘う。
どうしようか、と首を捻っていると、前方に見えたのは大きな紫。そしてその隣には泣き黒子のある美人な男性。
二人とも背が高くて、羨ましいな、と思いながら横を通り過ぎようとしたとき、
「ねぇ〜、」
『!!』
いきなり片手を捕まれて、ギョッとして振り替えれば、掴んでいたのはさっき見ていた大きな紫色の人。
思わずパチクリと瞬きをすると、紫色の人の隣にいた美人さんが「敦!」と少し大きな声をだした。
「ダメだよ、急に女の子の手を掴んだりしたら、」
「えー、だってこの子チョーいい匂いがするんだもーん」
いい匂い、その言葉に自分の両手にある袋を見る。
「だからってそんなことしたら驚かせてしまうだろ?」
「えー?」
美人さんが紫色の人を母親のように叱るのを聞きながら、そっとボードを取り出して、それにペンをいれてから、控えめに二人の服を引くと、はるか上から向けられる視線。
『〈もし良ければ少し手伝ってくれませんか?〉』
ボードを見せてから、両手にあるスイーツ店の袋を掲げて見せると、二人は顔を見合わせた。
「おいし〜」
モグモグと止まることなく口を動かす紫色の人は名前にも紫がついていて、紫原さんと言うらしい。
二人に声をかけて公園まで来た私は、今ベンチに座って三人でスイーツを味わっている。
両手いっぱいにあったスイーツはみるみるうちに減っていって、まるでブラックホールみたいな食べっぷりだな、と見ていると、反対側にいる美人さん、氷室さんと目があった。
「ごめんね、ご馳走になっちゃって」
『〈いえ、いっぱい買い過ぎて困ってたんです
ありがとうございます! 〉』
申し訳なさそうな顔を氷室さんに笑いかけると、氷室さんは一瞬驚いた顔をしてから柔らかく微笑んだ。
その笑顔を美人だなー、と見ていると隣から視線を感じた。
『??』
「あんたさー、しゃべれないのー?」
「敦!!」
紫原さんの直接過ぎる言葉に怒鳴り声をあげる氷室さん。
この人は正直な人なんだな、と紫原さんを見ると不思議そうに氷室さんに「え?なにー?」と首を傾げていた。
『〈気にしないで下さい、氷室さん。
紫原さんの言うとおり、私は話せません。〉』
「ふーん…」
興味のなさそうにまたケーキを頬張る紫原さん。
そんな彼に氷室さんはため息をついていた。
『〈紫原さんは甘いものが好きなんですね〉』
「んー、まぁねー」
『〈私も好きなのでなんだかスイーツ仲間ができたみたいで嬉しいです!〉』
「…あんた名前は〜?」
『〈苗字名前です〉』
笑顔を向けて二人に名前を言うと、氷室さんから「よろしく、」とまたしても綺麗な微笑みを頂いて、紫原さんからじっと見られた。
『??』
「名前ちんねー、
いいよー、名前ちんとスイーツ仲間になっても。」
「敦が気に入るなんて珍しいよ、
俺とも仲良くしてくれるかい?」
『(コクコク!)』
「そっか、それは嬉しいな」
「よろしくねー名前ちん」
こうして、私には新しく大きなお友達ができた。
なんだか、最近知り合う人の身長が高いのは気のせいかな?
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