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7 海常の主将と


体が動かし足りない、
そんな不満をいくら抱えても、どうすることもできない。

今日は休日だというのに練習は午前だけ。
たまには休養も必要だということで、全員に練習禁止令が出された。

「じゃあ、今日はこれから仕事に行ってくるっス!」なんてぬかしていた後輩に八つ当たりまがいの仕置きをしたものの、やはり何か物足りない。
そもそも、練習以外に今の自分にすることはないのだ。


「(…寝るか)」


そう決め込んで、家路を歩いていたときだった。
何かが俺のエナメルを引いたのだ。


「?」


なんだ?と思い後ろを振り向いてみると、真ん丸としたデカイ目が俺を見ていた


「うおおおおっ!?」

『??』


女だと認識した瞬間に急激に熱くなった体。
慌てて距離をとると、目の前の女が不思議そうに首を傾げた。


「な、おま、だ、」

『〈◯△病院て、この近くにありますか?〉』


焦る俺とは反対に女はなに食わぬ顔で白い何かを差し出してきた。
吃りながらもそれを見ると、書かれていた文字に少しだけ平静を取り戻した。
それから女とボードを見比べてから「びょ、病院?」と聞き返した。


『〈住所ではこの辺らしいんですが、迷ってしまって…〉』


悲しそうに顔を俯かせた女に、何故かこっちまで胸が痛くなった


「…その病院なら、ここから近いぜ」

『!』


パッと顔をあげた女は、本当に?というように近づいてきた。
後ろへ下がりながら頷くと、女は嬉しそうに笑顔を見せてきた。


『〈申し訳ないのですが、ここからどういけばいいか教えて頂けますか?〉』

「教えるっつっても…」


「ん、」と指差したのは、他の建物よりも少しだけ高い白いそれ。
キョトンとした顔で俺を見てくる女に「あれだよ、」と告げると、女は目を見開いてから、さっきよりも満面の笑みを向けてきた


『〈こんなに近かったんですね!!
ありがとうございます!!〉』

「いや、別に…」


ニコニコと笑顔で礼を伝えてくる女にぶっきらぼうに返事を返すと、女が一歩近づいてきた。
慌てて下がろうとしたが、それよりも相手の動きの方が早く手を捕まれた。
普段バスケで鍛えた反射神経はどこにいったのだ、と自分を責めながら、捕まえれた腕と女を交互に見る。


「な、なにして…!」


「離せ!」そう叫ぶ前に手のひらに置かれた小さな飴。
思わず「は?」と間抜けな声を出して女を見ると女は大きく口を動かした


“お、れ、い、で、す”


分かるようにとゆっくりと動かされたそれを読み取って、「礼?」と繰り返すと、女は大きく頷いて手を離した。

それから女はペコリと頭を下げてさっき俺が指差した病院の方へと歩いていった。
手のひらに乗った飴は、食ってもいないのに、なんだか甘かった。

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