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宮地がやり直す 前編


土砂降りの雨が屋根に落ちる音がする。
「……雨、凄いっすね……」高尾の言葉に「そうだな」と曖昧に返しながらも視線は前から外さない。
写真の笑った顔は高校時代から変わらない。
けど、もうその笑顔は見ることは出来ないのだ。

2日前、名前は死んだ。

その連絡を聞いたのは昨日、高尾からだった。

“み……宮地、さん…”
“んだよ、急に電話なんかしてきやがって…”
“っ、宮地さんっ!”
“っ、な、なんだよ?”
“…名前さんが…名前さんが…っ、亡くなり、ました…”

最初は趣味の悪い冗談だと思った。
けど、高尾は情けないほど震えた声で更に言葉を続けた。

“殺された、そうです…”
“………誰に…”
“…名前さんの、恋人だそうです…”

名前の恋人。
そう聞いて浮かんだのは、彼女が嬉しそうに見せてきた写真だった。

“…宮地さん、…っなんで、なんで、あんた…!
…名前さん、そんな奴に渡したんだよ!!”
“…”

高2のときから約8年にも及ぶ片思い。
そういえば、高尾にはバレていたのか。
高校を卒業して同じ大学に通ってからも伝えられず、互いに就職して社会人になってからも俺達の関係は変わらずにいた。
いや、正確には変える勇気がなかったのかもしれない、俺もアイツも。

大学に入ってから名前が彼氏ができたと報告してきこ事があった。
それを聞いて、自分もなんとなく彼女を作った。
けど、俺も名前も恋人ができても長続きはしなかった。
その理由もなんとなく気づいていたのだけれど、どうしても一歩踏み出せずにいた。

曖昧な関係が続いていると、去年、約半年前に名前にはまた男ができた。
どうせすぐに終わるのだろうと思っていた矢先の、彼女の死。
高尾が俺に怒鳴りたくなる気持ちが痛いほど分かってしまう。
俺だって自分が許せない。


「…帰りましょう、宮地さん」

「…そうだな」


ザーザーと降る雨の中黒い傘に喪服をきた俺達は無言で足を進めていた。


「…あれ?お前ら秀徳の高尾と宮地か?」

「……海常の…」


通りすぎようとしていた店の中から出てきたのは高校時代共にバスケをしていた笠松だった。
隣には森山の姿もある。
「どもっす」と弱々しく挨拶をした高尾に二人は目を会わせると、「そういえば、お前らその格好…」と森山が少し眉を下げた。


「…帰り道か?」

「あ、はい…」

「そうか…」


ソッと目をふせた森山は「それじゃあ俺達はそろそろ行くな」と笠松に呼び掛けた。
だが、笠松は動かずにジッと俺を見据えてきた。


「…誰の葬式だったんだ?」

「なっ!笠松!!」

「答えろ、宮地」

「ちょ…笠松さん、それは…!」

「…女か?」

「っ」


「宮地さん!!」高尾の叫ぶ声がした。
気がつくと傘を放り出して、笠松の胸ぐらを掴んでいた。


「ちょ、宮地さん!」

「……そうだよ、女だよ…ずっと馬鹿みてぇに惚れてたのに、俺は、ソイツを…」


“守れなかった”


ギリギリとはを食いシバって手に力を込める。
なんて情けないんだ、俺は。
「クソッ!」笠松を放すと高尾が慌てて傘を拾ってきたが、もうすでに雨のせいでびしょ濡れになってしまった。


「…後悔、してんのか?」

「黙れ、殺すぞ」

「…してんだな?
…だったら…ちょっと来い」

「あ!?」

「いいから、来い!」


ガシッと俺の腕を掴んだ笠松は雨の中を歩き出した。
「ちょ、笠松さん!?」と俺の分の傘も持った高尾が慌てたように着いてくる。
「ふざけんな!」と手を振り払おうとすると、笠松はふいに立ち止まった。


「高尾、お前は来るな」

「いや、あの…!」

「おい、笠松、俺達はてめぇのおふざけに付き合ってる暇は、「宮地」っ」

「まだ、諦めんな」


真っ直ぐな笠松に少し目を見開いてしまった。
そのすきに高尾にもう一度釘を指してから「行くぞ」と再び歩き出した笠松。
多分、振り払おうとすれば簡単なことだと思う。
でも何故か、それが出来なかった。

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