夢小説 完結 | ナノ
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7 胸部違和感


「あ、北さんや」

「!?ど、どこや!?!?」


銀島の声に侑の肩が大袈裟に揺れる。何をそんなに怯えているのだろうか。呆れつつ、ほれ、と窓の外を指す銀島の指先を追うと、何やら重そうな紙の束を抱えた北さんの姿が。多分、焼却炉に向かっているのだろう。隣にはクラスメイトだろうか、女の子の姿もある。
何やら嬉しそうに声を弾ませて北さんに話しかける女性の姿に、胸の内がモヤモヤと気持ち悪くなる。ピクリと一瞬眉を動かし、そのまま北さんの姿を目で追っていると、「なんやいい感じやな」と呟いた侑に「?何が?」と銀島が首を傾げた。


「北さんと隣の子おや」

「ほうか?」

「北さん相手に物怖じせず楽しそーに話しかけとるんだけでも凄いやろ」


それはあんた達が部活の“後輩”であるからそう見えるだけだ。そう言ってやりたいのに、口を開くのが億劫で、ただただじっと北さんたちの姿を見つめる事しか出来ない。
三人揃って廊下の窓から外を見つめていると、「お前ら何しとるん?」とそんな私たちに気づいた治と角名に声を掛けられた。


「北さんがおったんや」

「北さん?……そりゃ居るやろ。同じ学校通っとるんやから」

「女の子と仲良う歩いとったんやぞ。珍しいやん」

「「おんなのこと?」」


口を揃えて目を瞬かせた二人の視線がこちらに向けられる。「ええ感じやったなあ」「まあ、言われてみるとな」という侑と銀島のやり取りを耳にしながら、治達の視線から逃げるように再び外を見る。
北さん達の姿もうない。多分焼却炉に行ったのだ。仲良く話しながら、二人並んで。
またモヤモヤとしたものが胸の奥を覆っていく。これが何なのか分からないほど馬鹿じゃない。気遣うように眉を下げる治が、「名前、」と肩を叩く。振り返って「なに?」と小さな声で応えれば、治はどこか困ったように頬を掻いた。


「あー………大丈夫か?」

『……なにが?』

「何がって…………」


助け舟を求めるように角名を見る治。面倒そうに顔を顰めた角名が、「この話題に触れるなってことでしょ」と呟くと、なるほど。と言うように頷いた治は、ふうっと小さく息を吐くと、ポンポンと頭を撫でてきた。


「ま、大丈夫やなかったら言えばええわ」

『………だ、だから、何のことよ、』

「侑と銀よりは、幾らかマシに話聞けると思うで」


「ほな、後でな」とくしゃりと髪をかき撫ぜて教室の方へと歩いていく治。そんな治に続くように角名も歩き出すと、残された侑は「おいこら!何がどう俺よりマシやねん!!」と治の背中に向かって声を張り上げていた。





***





「苗字、なんや今日は元気ないなあ」


部活の休憩中、不意に掛けられた声に肩が跳ねる。「そうですか?」とへらりと笑ってボトルを渡せば、心配そうに眉を下げた北さんは「何かあったんか?」と更に声を重ねた。


『いえ、特には』

「……ほうか?無理したらあかんで」


ポンポン。と軽く頭を撫でる手が今は少し冷たく感じる。ダメだろ私。私情を部活にまで持ち込んで、北さんに心配されるなんて、そんなのマネージャー失格だ。「ありがとうございます」と笑って答え、残りのボトルを配るために他の選手の元へ向かう。尾白先輩、赤木先輩、銀島、侑と渡し終え、最後に治に渡しに行くとと、何か言いたげに視線を向けられ誤魔化すようにボトルを押し付けた。


「分かりやす」

『な、何が』

「気になるんやったら聞けばええやん。昼休みに一緒におったんは誰ですかー?って」

『…部活外のことまでマネージャーが首突っ込むのは違うじゃん』

「そらまあそうやけど」


困ったように眉を下げた治がボトルに口をつける。ごくごくと勢いよく喉を潤す治を後目に逃げるようにその場を離れると、「苗字ー!これ空になったわー」と銀島に呼ばれ、空になったボトルを回収していく。
そのまま中身を追加するため、体育館外にある水道に向かうと、「ごめんなさい、ちょっとええかな?」と可愛らしい声が。


『え、あ、はい、』

「北くんおる?伝えたい事があるんやけど…」


あれ。この人、どこかで見覚えが。
ふんわりと微笑む目の前の女子生徒に小さく目をむく。そうだ。この人、北さんと歩いていた先輩だ。キュッと唇を引き結ぶ。そうしなければ余計なことを言ってしまいそうだったのだ。「?あの…?」と不思議そうに首を傾げる先輩に、「よ、呼んできます」と早足で体育館に向かう。
出入口から顔を出し、「き、北さん!」と声を張り上げると、尾白先輩と話していた北さんがらどうしたん?と言うようにこちらを振り向いた。


『あ、あの…呼んでます。たぶん、クラスの方が、』

「クラスの?」


誰やろ?というように首を傾げつつ、向かってくる北さん。「あの人です」先程の先輩を示すと、北さんを見つけた先輩はどこか安心したように顔を綻ばせ、北さんも北さんでああ、とどことなく表情を明るくして彼女の方へ歩み寄った。
「どないしたん?」「これ、先生に渡してくれって頼まれてん」「手間掛けさせて悪いなあ」「このくらい気にせんでええよ」
ふふ。と笑った先輩は、「部活頑張ってや」と小さく手を振ると、くるりとスカートを翻して校門の方へ歩いていく。綺麗な人だった。一つしか変わらない筈なのに、大人っぽくて私とは全然違う。再び胸を覆いだしたモヤモヤ。こんな事なら体育館に入って二人が別れるのを待っておけば良かったのに、気になってこの場を離れられなかったのだ。
少しだけ先輩を見送った後、北さんが体育館へ戻ろうと振り返る。すると、入口近くで固まる私に気づいた北さんが少し目を見開かせて「苗字?」と私の名前を呼んだ。


『っ、な、なんですか??』

「……なんですかとちゃうやろ。なんでそないな顔しとるん?」

『そないな顔って…いつも通りの顔ですけど、』

「いいや、全然いつも通りとちゃうわ。そのくらい分からんわけないやろ」


「どうしたん?」そう言って顔を覗き込んでくる北さんに、鼻の奥がツンっと痛んで、目頭が熱くなる。馬鹿か私。こんなところで泣くなんてそんな情けないことあるか。
泣くまいと必死に唇を噛んで「なんでもありません」と俯かせた顔を横に降ると、ふう。と息を吐いた北さんが体育館に一歩足を踏み入れる。ああ、呆れられてしまったかな。
ジャージ袖口で荒っぽく目元を拭う。さっさとドリンクを追加しなければと水道に戻ろうとすれば、「苗字、」再びかけられた声。赤くなった目を見られるのが嫌で、振り返ることが出来ずにいると、それを咎めることもせずに北さんはゆっくりと優しく口を動かした。


「部活が終わったら、そしたら聞かせてくれるな?」

『え……』

「お前のことや。今は私情を持ち込んだらあかんって思っとるんやろ?せやから、部活が終わったら、何があったかちゃんと聞かせて貰うからな」


そう言って返事も聞かずに行ってしまった北さん。気にかけてもらえるのは嬉しいのに、それでもやっぱりどこか胸が痛くて、晴れることの無いモヤモヤを流すように勢いよく蛇口を捻ったのだった。



急募レントゲン
(北、遅かったなあ)
(告白ですか??)
(……せやなあ。そろそろ俺も腹括らんとあかんな)
(((((え)))))

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