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大学1年になりました41


影の薄さを取り戻したテツヤくん。そんな彼に続くように、再びゾーンに入った大我。2人の1年生に負けれられないとばかりに、無冠の五将を相手に奮闘する俊くんと慎二くん。
それでもまだ、点差が埋まらない。この点差を埋めるために必要なあと1歩を踏み出すためには、“彼”が居なくては。


「インターバル、終了です」

「…出てきたな」

『…はいっ……』


2分間のインターバルが終わり、試合は最終クウォーターへ。ベンチからコートに入るメンバーには、日向くんの姿が。あとファウル一つで退場だと言うのに、彼の目には恐れや不安なんて一つもない。きっと、出来るかどうかなんて考えてない。やるしかないのだと、そう、覚悟を決めたのだろう。

日向くんが、実渕くんのシュートに触れた。

ああ、ほら、やっぱりこのチームには君が必要なんだね、日向くん。以前、彼が「主将なんて俺じゃなくて木吉の方が向いてそうっすけどね」とボヤいていたけれど、私はそんな事ないと思った。だって、あなたはいつだって諦めずに、チームの皆を引っ張ってくれる心強さを持っているのだから。木吉くんだってそう思ったから、日向くんを主将に推したのだろう。

リングに跳ねたボールを、鉄平くんと洛山のセンター、根武谷くんが取ろうとする。前半、鉄平くんは彼に歯が立たなかった。アレックスさんは、「何かを気にしてセーブしているように見える」と言っていた。きっと膝の怪我を気にしての事なのだろう。しかし今、根武谷くんと競う鉄平くんは、前半以上のパワーを見せている。ああ、きっと彼もまた覚悟を決めたのだ。

“じゃあ、来年なっちまうか、日本一”

夕暮れの、病室で交わされた、2人の約束。それを今、


「木吉が!根武谷からリバウンドをとった!!」


守ろうとしている。

再び溢れてきた涙が頬を伝った。拭うことも忘れて、試合を見つめていると、アレックスさんの手が優しく肩に触れる。そんな彼女に緩く微笑み返し、袖口で涙を拭うと、「大丈夫さ」と彼女が呟いた。


「タイガたちは、このまま負けたりしない」

『っはい…』


彼女の言葉は、何より心強く聞こえた。



***



「赤司の連続ミス…!」


観客の誰かが呟いた声。どよめく会場の反応は当然だろう。“あの”赤司くんが、何度もミスを繰り返したのだ。
先程までゾーンに入り、チームプレーを辞めて1人で誠凛を相手にしていた彼は、テツヤくんとタイガの連携プレーを皮切りに少しずつ崩れて行ったのだ。


「まさか、こんなにも脆い選手だとは思わなかったな…」

『…そう、ですね…』


心ここに在らずと言わんばかりに散漫なプレーをする彼にアレックスさんが意外そうな声を上げる。確かに、今までの彼を見ていればそう思うのが当然だろう。けれど私は、いつかこの時が来ることを分かっていたような気もする。“今”の赤司くんが、“征十郎くん”とは違うのだと知った時から。


「洛山はタイムアウトをとったな…。まあ、当然か」

『…赤司くんはこのまま、プレーを続けるんでしょうか…?』

「私なら代える。このまま出続けたとして、赤司が息を吹き返す可能性は低いだろう」


「何かきっかけがあれば別だがな」というアレックスさんの言葉に、確かにと頷き返す。
ブーッというブザー音が止み、タイムアウトが明ける。意外にも、洛山は赤司くんを下げることなくそのままコートへ送り出した。「出すのか?」とアレックスさんが目を細めていると、赤司くんが大我、テツヤくんと対峙する。また2人に止められるが彼を止める。誰もがそう思ったその時。


「久しぶりだね、黒子」


小さく何かを呟いた彼の手から、ボールは実渕くんへ。驚いた顔で赤司くんを見遣るテツヤくん。
遠目から見ていても赤司くんの雰囲気がさっきまでと違っているのが分かる。先程のタイムアウト時に、何かの“きっかけ”があったというのだろうか?けれど、だとして、今の彼のプレーは何かが違う。そう、まるで。


「…別人みたいじゃないか」

『っ…!まさ、か……』


呟かれたアレックスさんの声は私が思っていたものと同じ。そこから考えられる一つの可能性。嘘。まさか。でも。
赤司くんが、“征十郎くん”が戻ってきた…?
ハッとしてコートの中の彼へ視線を集中させる。ここからではやはり“確信”は出来ない。でも、


「ゾーンが…5人全員………!!?」


チームメイトの力を最大限に発揮させるその力は、征十郎くんにぴったりだと思ってしまった。


「っ味方をゾーンに入らせるパスなんて、なんてcrazyなパスだ…!」

『っ7点差に…!時間ももうないのに…!』


ゾーンに入った洛山の選手達。試合終盤で見せられた力の差に、誠凛の皆が俯きそうになったその時。


「ガンバレ誠凛!!諦めるな!!


ガンバレ、黒子!!」


何処からか響いたその声援に、下を向きそうになっていたテツヤくんが顔を上げる。短い茶髪をしたその少年は、テツヤくんに向かってバスケットボールを掲げてみせる。あ、もしかすると、あの子は、以前テツヤくんが言っていた。
茶髪の少年を見つめるテツヤくんの瞳が嬉しそうに細められた、彼の瞳に薄らと涙の膜が張る。そして、そんなテツヤくんの背中を支えるように、押すように声を張り上げたのは、その少年だけではない。


「オラあ!テツ!火神!!てめーらオレらに勝ったんだろーが!!洛山ぐれー倒さねーとブッ殺すぞ!!」

「言っとっけど、ウチもっスからね――!!
勝てえ、誠凛!!」

「倒してこい!!赤司を!洛山を!!」

「諦めるな、誠凛!!」


声が、響く。広い館内を埋め尽くすように、誠凛への歓声が、響き渡る。「負けるな!タイガ!!」というアレックスさんの声に混じって、「ワンっ!」と2号くんも彼女の胸元から叱咤激励の声を飛ばす。
今日1日で、一体何度泣いているのだろう。ジワリと目尻から溢れそうになったそれを、少し乱暴に拭い、手摺を握りしめて声を張り上げた。


『負けないでっ!!みんな!!!』


たくさんの声援に混じったその声は、きっと、みんなにも届いたはずだ。

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