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大学1年になりました40


ブーと体育館中に鳴り響いたブザー音。青とオレンジのユニフォームを着た選手達が1列に並んで握手を交わす。
三位決定戦。結果は、秀徳高校の勝利。海常高校は、幸くんや森山くんを中心になんとか食らいついていたけれど、やはり、エースである黄瀬くんを欠いた事によって点差は徐々に広がっていったのだ。
会場中から拍手が送られるなか、双方の選手達がベンチをあとにし、入れ替わるように洛山と誠凛の選手達がコートの中へ。

いよいよ、決勝戦が始まる。

ドキドキと音を立てる心臓を落ち着かせるように深く息を吐き出すと、それに気づいたアレックスさんが小さく笑う。


「緊張してるのか?」

『…少し…』

「そうか。けど、アイツらなら大丈夫だ。きっと勝つ」

『…そうですね』


アレックスさんの力強い言葉に頷き返し、再び視線をコートへ移すと、真っ先に目に移った赤い髪。
赤司くんだ。

“貴女の応援があろうとなかろうと、僕たちの勝利が変わるわけではありませんし”

変わってしまった彼らのバスケを初めて見に行った時に言われた台詞。彼の言うことは間違っていない。私1人が応援に行こうと行かまいと、結果に影響なんてないだろう。それでも、誰かが誰かを想う気持ちを、頑張れと応援するその気持ちを、“無駄”だと考えるのは間違っていると思う。
ぎゅっと下唇を噛んで、誠凛へと視線をずらすと、こちらに気づいたテツヤくんと大我がゆっくりと拳をあげてくれる。


『頑張れ、皆』


コートには届いていないであろう小さな声。けれど、まるでその声が聞こえているかのように、2人は力強く頷いてくれた。
そこで漸くウォームアップの時間が終わり、笛の音が鳴った。試合が、始まる。



***



『…っ、点差が……』


試合の前半が終了した。その時点でのスコアは、62対37。25点ビハインドで誠凛が負けている。明らかに不利な状況。心が、折れそうになる力の差。このまま行けば、誠凛は、負ける。
どんな状況でも諦めることなんてなかった皆。今回だってきっと、まだ。


「行くぞお!誠凛ーー」


「ファイ!!おお!!」とフロアから響くみんなの声。まだ諦めてない。大丈夫。そう言い聞かせながら、ギュッ下唇を噛み締めてみたけれど、この点差だ。そう簡単にひっくり返るわけではない。


「…何か策があるのか?」

『…分かりません。でも、まだ、皆の心は折れてない』


バスケは、いや、バスケに限らず、スポーツにおいて大切なものは、勝ちたいという“想い”だ。そして誠凛は何よりもその想いを強く持っている。特にテツヤくんは、赤司くんに勝って伝えたい筈だ。自分の、いや、誠凛のバスケを。仲間と力を合わせる事の意味を。そして誠凛のみんなも、そんなテツヤくんの想いに応えるように、押されるように、どんな相手に対しても全力で挑もうとしている。
たとえそれが、今のような不利な状況であったとしても。
けれど。


「テクニカルファウル!黒!4番!!」

『っ…日向くん…!』


3つ目のファウルをとられた日向くん。信じられないとばかりに目を見開いた彼は、抗議の声を審判にあげる。気持ちは、分かる。日向くんも、きっと、テツヤくんの同様に、勝ちたいという想いが強くある。だからこそ、焦ってしまった彼は、審判の判断に納得出来なかったのだろう。
悔しそうに顔を歪めた日向くん。そんな彼の姿に、下唇を噛み締めると、いつの間にかジワリと血が滲んでいた。
試合が再開し、大我が赤司くんに止められる。
誠凛が、負ける…?今まで、幾度となく苦しい状況をひっくり返してきた彼らでさえも、もう、“諦めて”しまうのだろうか。リコちゃんによって取られたタイムアウト。肩で息をしながら、ベンチに座るみんなの背中が小さく見える。そんな皆を見ていられず、視線を落とそうとしたその時。


「ボクは…!勝ちたい!ムリでも…!不可能でもっ…!みんなと日本一になりたい!!」


フロアから響いたテツヤくんの叫び。こんな風に叫ぶ彼を見たのは初めてだ。何故か、無償に泣きたくなって、熱くなった目頭から零れそうになる涙を拭うと、タイムアウトの終了を告げるブザー音。その直後に聞こえてきたのは、


「黒、メンバーチェンジです」


水色の瞳に覚悟を宿した、テツヤくんが、再びコートに戻ってきた。

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