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大学1年になりました29


WC当日。ついにこの日がやってきた。
大学も冬休みに突入し、バイトを休みして貰えば、何の障害もなく見に来ることが出来た。
自分が出るわけでもないのに、こんなに緊張するのは何故だろうか。丁度開会式を見届け、試合の前に飲み物でも買いに行こうと席を立つと、自販機の手前で鮮やかな赤色を見つけた。


『…赤司くん…?』

「…ああ、来られていたんですね」


オッドアイの目を細めて、こちらへ歩いてきたのは赤司くんだった。なんとなく、“征十郎くん”と呼ぶことを躊躇ってしまった。
冷たい瞳でみつめてくる彼に、そっと目を伏せると、形のいい唇が薄く弧を描く。


「また、“応援”に?」

『…うん、そうだよ』

「無駄足にならないといいですね。今日の誠凛の相手は大輝のいる桐皇ですし」


「健闘を祈りますよ」と笑っていない目を見せて、その場を去ろうとする赤司くん。そんな彼を思わず呼びた止めると、少し面倒そうに眉根を寄せられた。


『赤司くん、』

「…なんですか?」

『…誠凛は、負けないよ。絶対…絶対、“優勝”するから』


我ながらなんて幼稚な宣戦布告。人任せのくせに偉そうなのもいいとこだ。内心自嘲気味な笑みを零しつつ、目の前の彼をじっと見返すと、冷たい光を宿したまま、赤司くんの目がすっと細められた。


「…楽しみにしていますよ」


目が笑っていない笑みでそう言い残した赤司くんは、そのまま歩き去ってしまった。
あれは、私の知っていた彼とは“別人”だ。青峰くんや黄瀬くんたちとは違う。彼は、全くの別人だ。
きゅっと眉根を寄せて、落ち着くため息をつく。やけに乾いた喉を潤すために、元々の目的だった飲み物を買うことにした。











席に戻ろうとすると、先程まで座っていた場所は既に他の人に座られていた。何か荷物で場所を取っておくべきだったな。仕方がないので、立ってみようと観客席の後ろの通路に行くと、「あ?名前?」聞きなれた声に呼び止められた。


『あれ?清志くん?』

「お前こんなとこで何して…あー…誠凛の応援か、」


どこか不機嫌そうに言う清志くん。苦笑いで頷くと、眉間の皺が更に深められた。


「…ここで見んのかよ?」

『うん。座るとこなくて』

「…じゃあ、俺らんとこくるか?」

『え、』


「1人分くらいなんとかなるだろ」そう言いながら手を掴んできた清志くん。どうやら断るという選択は初めからないらしい。強引だなあ。
早速腕を引いて歩き出す彼に小さく笑っていると、不意に清志くんの背中が目に入った。

もしあのとき、合コンからの帰り道。清志くんが居合わせていなかったら。…考えただけでも寒気がする。偶然だとしても来てくれたのが清志くんで良かった。

そんな事を考えていると、いつの間にか清志くんの言っていた“俺たち”の席に着いたらしい。観客席の一角に集まるオレンジの集団はやけに存在感がある。


「…あれ?あなたは…?」

「!?な、名前さん!?」

『こ、こんにちは…』


引っ張られるままに秀徳の皆さんの所まで行くと、通路側の傍に座っていたレギュラー陣と監督さんに目を丸くされた。うん、当然の反応だ。
なんだかいたたまれなくなり、肩を竦めると、そんな私の代わりに清志くんが説明してくれた。


「コイツ座るとこないみたいなんですけど、一緒に観戦してもいいですか?」

「ああ、構わないよ」

『あ、ありがとうございます』


監督さんからのお許しに頭を下げてお礼を言う。出来れば座って見たいと言うのが本音だったし、良かった。顔を上げて、今度は清志くんにお礼をいうと、気恥しいのか頬を掻きながら「別に」と返された。
こういう所は可愛いままだなあ。

監督さんの隣が2つ空いていたため、監督さんが1つずれて、大坪くんも動くと、間に私と清志くんの2人分の席が出来る。他の秀徳メンバーの子達にもお礼を言いながら席につくと、少し離れた所に座る和成くんと目が合った。
「えー。そっちに座っちゃうんですか?」「うるせえ高尾、焼くぞ」
先輩と後輩らしい(?)やり取りを横目に、コートへと視線を移すと、丁度選手達がアップを終えていた。


「お前達、少し静かにしろ。始まるぞ」


大坪くんの指摘に、ぴたりと言い合いを止めた清志くんと和成くん。すぐ様真剣な顔色に代わりコートを見つめる辺り、さすがというべきだろうか。

誠凛のベンチかは桐皇の方へ視線を動かすと、偶然なのか、翔一くんと目が合った気がした。


「それではこれより、ウィンターカップ1回戦、誠凛高校対桐皇学園高校の試合を始めます」



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