夢小説 完結 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

大学1年になりました28


「あー、肩こりが取れて良かったー!」「一々胸を強調すんな!小娘!!」「してませんよーリコさんが気にし過ぎなんじゃないですか??」
温泉から上がり、脱衣場で着替えを始めると、さつきちゃんとリコちゃんが仲良く喧嘩を始めた。あ、このフレーズ、ネズミとネコのアニメで聞いたことあるなあ。2人の会話を聞きながら小さく笑っていると、不意にさつきちゃんから視線を感じた。


『?さつきちゃん?どうかした?』

「…名前さんも、実は結構ありますよね」

「……確かに…」


さつきちゃんの言葉にリコちゃんの視線もこちらへ向けられる。2人とも、お願いだから胸を凝視するのはやめて。いくらブラを付けていても、そんなに見られては恥ずかしい。


『そ、そんなにないよ』

「嘘ですよ!C…いや、それ以上はありますよ!!」

「C以上!?なんて羨ましい…!!」

『2人とも、お願いだから声のボリューム下げてっ!』


いくら扉で仕切られているからと言って、前を通る人に聞かれては溜まったもんじゃない。
しーっ!と人差し指を唇の前に立てると、不服そうな顔をしながらも2人は渋々口を閉じてくれた。良かった…。

それから他愛のない話をして着替えをおえ、女湯独特の赤の暖簾を潜って外へ出ると、誠凛と桐皇の子たちがロビー近くのソファに座っていた。どうやら待っていてくれたらしい。
3人で彼らの元へ行くと、心なしか皆の顔が赤くなっているように見える。逆上せたのだろうか?


『こんばんは、翔一くん』

「…おん。こんばんは、名前さん」

『まさか翔一くんも来てるなんて、吃驚したよ』

「…ほうか?」

『…顔が赤いけど、大丈夫?逆上せちゃった?』

「……そういうことにしといてや」


気まずそうに目を逸らす翔一くんに首を傾げていると、そういえば、メンバーが足りない事に気づく。
テツヤくんと大我はどこに行ったのだろうか?
「テツヤくんと大我は?」と日向くんに尋ねると、答えようとした日向くんの声を遮るように背後から声が。


「部屋に戻るっつってたぜ」

『…あ、青峰くん…?』


声を掛けてきたのは青峰くんだった。
「どこ行ってたの?」「散歩だよ、散歩」面倒そうにさつきちゃんに返しながら、空いたソファに腰掛けた青峰くん。気怠げな彼にはまだ慣れないなあ。
眉を下げて小さく笑っていると、心配そうに翔一くんが顔を覗き込んできた。そんなに心配しなくてもいいのに。大丈夫だと笑って見せて、青峰くんの真向かいに座ると、青い瞳を怪訝そうに細められる。


「…なんだよ?」

『お礼を言いたくて、』

「は?」

『…あの時、助けてくれた事と、あと、指輪、探してくれたから』

「…要らねえよ、別に」

『…じゃあ、受け取ってくれなくてもいいよ。でも、やっぱり言わせて欲しい』


「ありがとう、青峰くん」そう柔らかく笑んで唇を緩めると、眉間に寄せられていた皺がほんの少し緩んだのが分かった。何処か居心地が悪そうに顔を背けた青峰くんは、ガシガシと後頭を乱暴に掻いた彼はそっぽを向いたまま小さく呟いた。


「…おう」


どうやら、青峰くんはまだ青峰くんのままらしい。
バスケをしている彼にばかり目を奪われていたけれど、こうして見るとまだ可愛いままである。
クスクス笑いながら海と同じ色をした短い髪に手を伸ばすと鬱陶しそうにしながらも振り払われることはなかった。うん、可愛いやつめ。
一部始終を見ていた桐皇と誠凛の子たちは唖然とする中、さつきちゃんと翔一くんだけは嬉しそうに笑っていた。


「ほんなら、ワシらはそろそろ帰ろか」

『え、もう帰るの?』

「流石に泊まるわけにはいかんしなあ。お暇させてもらうわ」


そう言って翔一くんが立ち上がれば、桐皇の子たちもそれに続くように腰を上げる。残念。翔一くんたちも泊まればいいのに。
「名前さん!また会いましょうね!」とニコニコ笑って手を振ってくれるさつきちゃんに手を振り返しながら応えていると、最後に旅館を出ようとした青峰くんが不意に足を止めた。


「…ウィンターカップ、見に来んのか?」

『…うん、出来るだけ見に行くつもり』

「ふーん…せいぜい、あんたの後輩が負けない事を祈っとくんだな、無駄だと思うけど」


鼻で笑うような物言い。さっきまであんなに可愛かったのに、バスケが絡むとどうしてこう可愛げがなくなってしまうのだろうか。笑みを浮かべて、青峰くんを見つめ返すと、切れ長の目が小さく見開いた。


「負けないよ。誠凛の子たちは、テツヤくんは、桐皇に、青峰くんに勝つよ」


第3者でありながら、なんとも偉そうな言い方になってしまった。内心苦笑いしながらも、目を逸らさずに青峰くんを見返すと、ふっと口角を上げた青峰くんがひらりと片手を上げた。


「楽しみにしといてやるよ」


後ろ手に手を振りながら歩いて行こうとする青峰くん。去り際に見えた横顔が、少しだけ嬉しそうに微笑んで見えたのは私の欲目だろうか。

prev next