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大学1年になりました24


『お疲れ様、真くん』

「…何してんだよ」


誠凛の予選最後の相手は、真くんのいる霧崎第一高校だった。霧崎と誠凛には、木吉くんのことで因縁がある。すこしの不安を胸に観戦した試合は、誠凛の勝利という結果で終わったけれど、試合中、幾度となく目にした霧崎のラフプレーは、決して褒められたものではなかった。
試合後の彼を待ち伏せして、会場の廊下で笑いかければ、真くんはわかり易く顔を顰めた。
正々堂々戦って欲しいなんて言ったら「甘ちゃん」だとか馬鹿にされるだろうか。バスケのことはあくまで観戦してる側なので詳しくは分からない。でも。


『凄かった。特に最後のシュート』

「…」

『真くん、やっぱりバスケも上手いんだね。びっくりしたよ』


わざとラフプレーには触れずにそういえば、小さく息をついた真くんが歩き出した。やっぱり怒らせてしまっただろうか。
歩き去る背中を見送ろうとしていると、ピタリとその足が止まる。


「…早くしろよ」

『え?』

「飯奢らせてやるから早くしろ」


それだけ言うとまた歩き出した真くん。そんな彼につい笑ってしまいつつ、その隣に追いつくと、ぶすっとした顔のまま真くんが口を開いた。


「あんたみたいなタイプは、あーゆープレーは嫌いだろうが。なんで、俺のこと待ってやがった?」

『確かに真くんたちのラフプレーは嫌いだよ?でも、それ以上に、“凄かった”って伝えたかったの』

「…馬鹿じゃねえの?」

『そうだね。馬鹿なのかもね』


けっと小さく吐き出された悪態。それが照れ隠しだと分かってしまえば可愛く見えるかは不思議だ。
クスクス笑っていると、それに気づいた真くんに軽く頭を小突かれてしまった。











「…で?」

『?なに?』

「他にもなんか用があったんじゃねえのか?」


会場を出て向かったのは近くのファミレス。
注文を済ませてドリンクバーに飲み物を取り行ったところで、烏龍茶を飲んでいた真くんが顔をあげた。
鋭いなあ。苦笑いを浮かべて、アイスティーを飲もうとしていた手を止める。少しだけ笑んでから、肌身離すことのない首元の指輪をゆっくりと外して、机の上に置くと、真くんが怪訝そうに指輪を見た。


『…前に、これをくれたのは“和也さん”って人だって言ったの、覚えてる?』

「んな簡単に忘れるわけねえよ。猿じゃねえんだし」

『一言多いなあ。…そのときははぐらかしたけど…もう、躱すのはやめようと思って』


カランとグラスに入った氷が音をたてた。
笑みを崩さずに真くんを見れば、彼の視線は指輪に向けられたままだった。


『和也さんは、私の恋人だった人なの』

『でも、もう…会えない所へ行ってしまったの』


チクリ。久しぶりに胸にトゲが刺さった。
少しだけ頭を過ぎった“向こう”での和也さんとの別れの記憶に、目を伏せると、黙って聴いてくれていた真くんが漸く指輪から視線をあげた。


「…なんだ俺に話しす?」

『あのときはぐらかしたこと、少し…後悔したから』


真くんは聡い子だ。だから、あの日、彼は私に踏み込むことをやめてくれた。そんな彼にだからこそ、話してもいいと思った。賢くて、不器用に優しい彼には聞いて欲しいと思った。


「今吉サンでもいいんじゃねえのか」

『そうだね。でも、真くんにも聞いて欲しいんだよ』


まっすぐに真くんに笑いかけたところで、頼んでいたものがきた。持ってきてくれたウエイトレスさんに「ありがとうございます」とお礼を言ってから、もう一度真くんを見ると、面倒そうにため息をつかれた。


「…勝手な人だな、あんた」

『そうだね。でも、真くんは私のこと、“そういう”意味で好きではないでしょ?だから話しやすいんだよね』

「ぜってえねえわ。あんたみたいなめんどい女好きになんねえよ」

『あはは。酷いなあ』

「…せいぜい、手のかかるクソな姉貴ってところだな」

『え』

「話したいなら勝手に喋れ。食い終わったら帰るからな」


ふいっと視線を逸らした真くん。ああ、ほら、だから嫌いになれない。
あんなに酷いプレーをするのに、この子にも良いところがあると知っているから、嫌いになんてなることができないのだ。
「ありがとう」と笑えば、聞こえない振りをしているのか、それとも本当に聞こえていないのか、真くんは空になったグラスを持ってドリンクバーへと行ってしまった。そのときに、ほんの少し赤くなった耳が見えたのは黙っておこう。

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