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大学1年になりました23


ウィンターカップ予選3日目。
1日目と2日目を順調に勝ち抜いた誠凛は、今日、秀徳高校とぶつかるらしい。残念ながらバイトで見に行くことは出来ないけれど、どちらの健闘も祈るばかりだ。


「ソワソワしとるなあ、名前さん」

『後輩と清志くんたちが戦ってるからね。やっぱり気になるよ』

「ふーん」


今日は部活が午後からだという翔一くん。自分でも分かるほど落ち着かない私を見た彼は「そないなもんなんかなあ」不思議そうに首を傾げた。可愛い。


『誠凛にも、秀徳にも勝って欲しいって思ってるあたり、優柔不断だけどね』

「…なら、もしワシらと誠凛がやるとしても、優柔不断になってくれるん?」

『…個人的に翔一くんは応援してるけど…チームとしては誠凛を応援するかなあ』


だって桐皇には、青峰くんがいるから。彼はまだ、バスケを楽しいと思えるようにはなっていないだろう。だから、もし、誠凛が、テツヤくんや大我が青峰くんを倒すことができたら、青峰くんの中で何かが変わるのではないだろうか。そう思うと、どうしても誠凛贔屓になってしまう。
眉を下げて笑うと、向かい側のカウンター席に座る翔一くんが「残念やわあ」と笑った。あまり残念に聞こえないのはなぜだろうか。


『そういえば、この予選、真くんたちも出てるんだよね?』

「せやなー。次は花宮んとこと誠凛さんやし…一波乱あるかもしれんな」

『…そんな波乱はいらないけど…真くん捻くれてるからなあ…可愛いけど、そこがたまにキズだよね…』

「花宮が聞いたら凄い顔しそうやな」


確かに。真くんは可愛いと言うと顔を歪ませるな。
ついそんな真くんを想像して小さく笑っていると、翔一くんの目尻が柔らかく下がった。「どうしたの?」と首を傾げると、緩く微笑んだ翔一くんは珈琲カップを手にした。


「良かったなあ、と思うて」

『良かった?』

「名前さんがまた、笑うてくれるようになって」


ふっと笑んで、珈琲に口をつける翔一くん。やっぱり心配をかけたんだな。申し訳ない。
苦笑いを零して「ごめんね」と謝ると、「謝って欲しいわけとちゃうよ?」と翔一くんも同じように苦く笑った。


『でも、心配かけたのは本当のことだろうし…ごめんね』

「せやから、謝らんでええです。今名前さんといられるんならそれでええんやから」

『…優しいね、翔一くん』

「…それ、前にも言ってはりましたね」


いつの間にか空になったカップを受け皿に戻しながら、翔一くんは楽しそうに笑う。良かった。そう思うのは翔一くんだけじゃないよ。
私も、良かった。あのとき、皆が大事だと気づくことができて良かった。小さく笑んで指輪に触れると、ふと翔一くんの視線が指輪に落とされた。


『…まだ、離せないの』

「…まあ、大事なもんを急に捨てることなんてできないやろなあ」

『うん。…でもね、これをくれた人は…和也さんは、もし私が指輪を外しても怒ったりしないと思う。あの人はそういう人だから』


“幸せになれよ”

和也さんの声を思い出して、指輪からソッと手を離す。和也さんなら、きっとウジウジしている私を怒るかもしれないな。
真くんのしかめっ面と同じくらい簡単に想像できる様にふふっと笑みを零すと、翔一くんにしては珍しい、ポカンとした表情を見せられた。


『どうかした?』

「…いや…名前さんから、指輪の相手のことを聞くんは初めてやなあと思うて」

『…そう言われると、そうかも』


今までは、できるだけ自分の中で守ってきた思い出だ。だから、和也さんのことを話すのは、日向くんがほとんどで、他の皆には話さないようにしていた。でも。


『…話した方が、いいかなって』

「?なんで?」

『和也さんとの思い出は大切なものだから…だからこそ、大切な人たちには話した方がいいかなって』


自然と綻んだ頬。和也さんを想うと、どこか切なくて苦しかったのが嘘のよう。こんなに暖かい気持ちになれるなんて、思ってもみなかった。
「変かな?」翔一くんを見ると、愛おしそうに目尻を下げた翔一くんが柔らかく笑った。


「ええと思います。それで」


目を合わせて微笑み合えば、それを見ていたマスターも嬉しそうに笑ってくれた。

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