大学1年になりました22
翔一くんや清志くんたちには直接指輪のお礼を言うことができたけれど、残念ながら神奈川の幸くんと黄瀬くんには電話で言わせてもらうことにした。
ありがとう。と2人にお礼を言ったところ、電話越しに返ってきた声はとても暖かくて優しいものだった。
「名前さん、なんだか嬉しそうですね」
『え?そうかな?』
「はい。何かいいことでもあったんですか?」
コテンと首をかしげてきたリコちゃん。うん、可愛い。日向くんが見たら真っ赤になりそうだ。
誠凛の皆にもお礼と差し入れを持ってきたところ、「見学して行って下さい!」とリコちゃんに引き止められたのだ。暇な時間だったので、誘い通り見学させて貰っていると、不意に思い出した昨晩の電話の内容に笑ってしまったのだ。
『昨日の夜、幸くんと黄瀬くんに電話したの』
「そういえば、秀徳や桐皇の人たちにも会いに行ったんでしたね」
『うん。さすがに神奈川は行けなかったけど…2人とも“良かった”って言ってくれたの』
「優しいでしょ?」と目を細めて笑うと、クスクス笑ったリコちゃんは頷き返してくれた。
『そういえば…もうすぐだよね、ウィンターカップ予選』
「はい!絶対勝って本戦出場します!」
目を輝かせるリコちゃんからは意気込みが感じられる。何かに頑張る男の子はカッコイイと思うけれど、女の子だって変わらない。今のリコちゃんも素敵だ。日向くん、早くしないと盗られちゃうぞ。
「頑張って」と笑うと大きく頷いたリコちゃんは笛を手に取りピーっと大きく吹いた。
「休憩!!」
「「「「うーす…」」」」
リコちゃんの呼び掛けにコートを走り回っていた皆がこちらへ歩いてきた。額から滲む汗を拭う伊月くんが近くに来たのに気づいて「お疲れ様」と声をかけると、伊月くんは口元を緩めた。
「ありがとうございます」
『予選、行けたら応援に行くね』
「それなら、余計に練習しないとですね」
『え?』
「名前さんにかっこ悪いところ、見せられませんから」
わお。伊月くん、なんてカッコイイことを。顔も涼しげなイケメンだし、きっとモテるんだろうな。
緩く笑んで返すと、ニヤニヤと楽しげな様子の日向くんが伊月くんの肩に腕を回してきた。
「なーにかっこつけてんだ?あ?」「な、なんだよ日向」「お得意のダジャレはなしか?ん?」「う、うるさいな」
仲が良くてよろしい。これぞ男子高校生か。
「名前さん、今日はこのあとは?」
『バイトだよ』
「あ、もしかして喫茶店のですか?」
『うん。あれからまた出戻りさせて貰ったんだ』
「名前さんの働いてる所、1度見てみたいです」
それは是非来て欲しい。あ、でもうちの店の常連さんには真くんがいるんだった。鉢合わせでもしたら少々面倒そうだ。真くんが来ない時を聞いて置いた方がいいかもしれない。
「時間が空いたら来てね」と当たり障りのない答え方をすると伊月くんがほんの少し眉を下げた。あ、そういえば。
『伊月くん、いつの間にか“名前さん”って呼んでくれるようになってるね』
「え?」
『ほら、最初の頃は日向くんみたいに“苗字先輩”って呼んでたよね?』
「あ、」
あれ?気づいてなかったのかな。親しくなったという意味であるなら嬉しいのだけれど。
ほんのり照れたように頬を染める伊月くんに思わず笑ってしまうと、それを見ていたリコちゃんが思いついたように声をあげた。
「伊月くんも名前で呼んでもらったら?」
「え!?」
『…そういえば、リコちゃん以外皆苗字で呼んでるね』
「あれ?そういや日向もか…」
何故か皆の視線が日向くんへ。居心地が悪そうに顔を顰めた日向くんは手に持っていたドリンクボトルをおいた。
「んだよ?」
「いや、なんか日向は名前で呼ばれてても違和感ない…」
「つーか呼ばれてないことが意外過ぎる」
「日向くんと名前さん仲良いしね」
仲がいい、と言うよりは私が一方的に頼ってしまってるようなものだけれど。
苦笑いを浮かべて日向くんと目を合わせると、同じく苦い顔をした日向くんが面倒そうにため息をついた。
そんな顔しなくても。
「順平くん」とちょっとふざけて呼んでみると、更に顔を顰めた日向くんに、「やめて下さい」と言われてしまった。
『つれないなあ』
「からかってるくせに何言ってんすか」
『あはは。やっぱり日向くんは日向くんでいいかな。あ、でも、伊月くんの事は俊くんって呼んでもいいのかな?』
「えっ」
『ダメかな?』
「出来れば、他のみんなも」そう言ってグルリと皆を見渡せば、反応はそれぞれ違うものの、皆笑顔を返してくれた。
良かった。特に木吉くんは清志くんと被るから鉄平くんと呼ばせてもらった方が有難い。試しに「俊くん」と呼んでみると、顔を真っ赤にした俊くんがドリンクボトルを落としてしまった。
「…やっぱり日向は特別だな」
「あ?んだよ急に」
「1番分かりあってるくせにお互い名前で呼ばない。距離のとり方がいいんだろうな」
「だから何の話だよ」
「日向は、名前さんのヒーローだって話だよ」
リコちゃんが俊くんをからかっている間に、鉄平くんと日向くんが何かを話していた。「何話してるの?」と首を傾げると、ニッコリ笑う木吉くんとほんの少し目の下を赤くした日向くんが「何でもない」「何でもねえよ!」と返してきたのだった。
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