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大学1年になりました9


『ありがとうございました、景虎さん』

「いやいや、名前ちゃん、リコたんのこと宜しくね」


夏休みが始まってすぐ、誠凛高校バスケ部は、海合宿を行った。その合宿では、経費削減のため、自炊をしなければならないらしいので、疲れている皆に代わり、食事係としてついてきている。
部員の皆に釘を刺している景虎さんに苦笑いを溢しつつ、合宿所を見ると、なんというか、趣のある建物だ。


『それじゃあ私は、早速夕飯の準備に入るね』

「あ、はい!もし手が空いたら手伝いに行きます!」

『いいのいいの。リコちゃんは練習に専念して。私こそ手が空いたら手伝いにいくから』


むしろ専念してもらわなくては困る。と、日向くんたちの目が鮮明に語っている。一体、この前行ったらしい試食会で何があったのだろうか。
海の方に歩いて行く皆を見送ると、自分は広い合宿所の中へ。正直、日焼けは避けたかったので有難い。今日のメニュー表を見ながら、料理の手順を頭に描いていると、不意にポケットの中で携帯が震えた。


“明日から合宿行ってきます!!”


たった一言の文面なのに、そこから和成くんの声が聞こえてきそうだ。「頑張って」と一言添えて返信すると、早速料理に取り掛かることにした。










「…ご、ご馳走でした」

『ふふ、お粗末さまでした』


練習を終えた皆は、戻ってきて夕飯を食べ始めた。よっぽどお腹がすいていたのか、大量に作った料理はあれよあれよと言う間に消えていく。若干無理やり詰め込んでいる感があったけれど、見事に完食する部員の中、唯一テツヤくんだけが最後まで取り残されてしまった。

時間を掛けながらもなんとか食べ切った彼を見守って、テツヤくんの分のお皿を下げようとすると、「手伝います」テツヤくんもシンクへやってきた。


『いいよ。大丈夫だから、お風呂入っておいで』

「でも、僕が食べるのが遅かった分なので」


断ろうとしたのだけれど、テツヤくんは有無を言わさぬように食器を洗い始めた。
意外と頑固なんだよなあ。
小さく笑ってから彼が洗った食器を拭き始める。カチャカチャと皿を洗う音だけが響くなか、無言で作業を進めていると、不意にテツヤくんが小さな声をだした。


「…名前さん、」

『?うん?なにかな?』

「…すみません、でした」


思わぬ謝罪の言葉に手を止めてテツヤくんを見ると、同じように皿を洗う手を止めた彼は申し訳なさそうに視線を下げていた。


『テツヤくんが謝ることなんて、何も無いよ』

「…いえ、あります。僕は、火神くんや、誠凛の皆さんを利用して、キセキの世代に、僕のバスケを認めさせようとしていたんです。けど、火神くんのおかげで気付いたんです。きっとそれは、間違った方法なんだろうなと」


出しっぱなしの水の音が止まる。ずっと下を向いて話していたテツヤくんが顔を上げると、強い意志を持った水色の瞳が向けられた。


「僕はもう、誠凛高校の黒子テツヤだと、気付かされたんです」

『…うん。そっか…』

「けど、名前さんが勧めてくれた誠凛のバスケ部を利用しようとしていたのは否めません。だから、謝らせて下さい」


「すみませんでした」今度は頭を下げてきたテツヤくん。律儀だなあ。
ソッと伸ばした手で綺麗な水色の髪を撫でると、驚いたテツヤくんがゆっくりと顔をあげた。
不安そうな顔をしている彼に、緩く微笑んでみせると目を丸くされたあと、テツヤくんも柔らかく笑んでくれた。


『間違ったことに、テツヤくんが気付けたのなら、それでいいんだよ』

「…ありがとう、ございます」


嬉しそうに、でもちょっとだけ泣きそうな顔をするテツヤくんの頭をもう一度撫でていると、様子を見に来たのか、大我が現れた。
「何してんだ?」不思議そうに首を傾げる大我に「なんでもないよ」と返すと、腑に落ちなさそうにしながらも、大我はテツヤくんをお風呂に誘った。


「黒子、風呂行くぞ」

「え…でも、まだ片付けが…」

『いいよ。行っておいで』

「…はい。じゃあ、行ってきます」


申し訳なさそうな顔をするテツヤくんに大丈夫という意味込めてヒラヒラと手を振ると、2人は揃って食堂を出ていった。
そのときに見た、並んだふたりの背中に、やっぱり2人が誠凛に来て良かったと、頬を綻ばせるのだった。

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