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大学1年になりました8


『退院おめでとう木吉くん』

「ああ、ありがとう先輩」


インターハイ予選で桐皇と誠凛戦の数日後。木吉くんが漸く退院することとなった。生憎学校で病院に来れない皆に変わって迎えに行くと、木吉くんは嬉しそうに笑ってくれた。良かった。
それから、帰り道を他愛のない話をしながら、歩いていると、問題なく進んでいた木吉くんの足がピタリと止まった。


『…木吉くん?』

「ストバスのコートも、なんだな懐かしくて」

『…ちょっと寄っていく?』

「…いえ、これからたくさん出来るんだから、今焦ることもないかなって」

『…そうだね』


頬を緩めてコートを見つめると、木吉くんの大きな手が頭の上に乗せられた。不思議に思って顔をあげると、柔らかく笑む彼に首を傾げる。


『どうしたの?』

「…先輩、なんだか少し、前よりスッキリした顔をしてますね」

『そうかな?』

「はい。きっと、日向のおかげなんでしょうね」

『…うん、それは…そうかも』


木吉くんから出てきた名前に、肩の力が抜けて、自然と笑顔が溢れてくる。
木吉くんの言う通り、日向くんは、私の中で“特別”になってくれて。それは、決して恋とか愛とか、そんな単純なものじゃなくて、もっと別の特別。
日向くんは、和也さんのことを話せる唯一の相手。多分、私にはそんな相手が必要だったのかもしれない。何も隠すことなく、真っ直ぐに向き合える相手が。
小さく笑って指輪に触れると、隣に立つ木吉くんが優しく微笑んだ。


「良かった」

『え?』

「先輩にとって、その指輪以外に、自分を曝け出せる相手が出来たなら、それは良いことです」

『…けど、日向くんにはいい迷惑かもしれない。彼には凄く甘えてるし』

「甘えて貰えるっていうのは、その人に信用して貰ってるってことです。日向もそれを分かってますよ。だから、アイツもあなたには甘い」


木吉くんの言葉が、緩やかな風と共に耳に届く。なんでかな。木吉くんの言葉は、疑うことを知らない。「ありがとう」と笑うと、木吉くんは大きく笑ってから、また歩き出した。


「そういえば、今年もするのかなあ」

『するって、何を?』

「ん?ああ、合宿ですよ合宿。夏休みに入った時、去年もしたらしくて」

『夏休みってことは、木吉くんは…』

「おいてけぼりでした。だから、ちょっと楽しみなんです」

『そっかあ。ちょっと楽しそう』


いつもより目を輝かせている木吉くんに、思わずそう零せば、「先輩も一緒に行きませんか?」と、優しい彼は誘ってくれた。けど、いくらなんでも、マネージャーでもないのに、付いていくのはどうなのだろう。
木吉くんのお誘いは丁重にお断りさせて頂いたけれど、その数日後に、彼らから食事係に任命されたとき、思わず笑ってしまった。

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