夢小説 完結 | ナノ
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高校3年になりました7


※視点変更有り
主人公→日向


『あれ?日向くん?』

「あ、苗字先輩」


休日の午後。午前中のバイトを終えてからなんとなく街を彷徨いていると、バッタリ日向くんと会った。
「どうしたの?」「あー、ちょっとそこのスポーツ用品店まで行ってきたところなんす」
そう言って大手スポーツ用品店を指す日向くん。
なるほど、と頷いてそのまま彼の隣を歩き出すと、ちょうど信号が赤になって足がとまった。

他愛のない話の合間に、チラリと視線を前に向けたとき。


『…え』

「?先輩?」


通りすぎる車の合間に見えたのは、高めの背をした黒髪の男の人の後ろ姿。
まさか。


『…か、和也…さん?』










信号待ちで止まっていると、隣にいる苗字先輩の様子がなんだかおかしくなった。
どうしたんだ?
不思議に思いながら先輩を見ていると、車が走る車道に苗字先輩が一歩足を進めた。


「は!?な、何してんすか!!」

『は………て…』

「え?」

『離してっ!!!』


腕を掴んで苗字先輩を止めると、それを振り払おうと大きく腕をふられた。
絶対に離してはいけない。ここで離したら、この人はこの車道の中へ突っ込んでいく。
持っていた鞄を落として先輩の両肩を掴むと、細い肩が震えていた。


『離して…!お願いっ、離して!!いたのよ!今あそこに和也さんが…!!』

「落ち着けっ!!!」


思わず声をあげると、先輩の肩がビクリと揺れた。
それと同時に信号が青へ変わると、俺たちを不思議そうに見ていた周りの人たちも歩道を渡り始める。
本の少しの無言のあと、先にそれを破ったのは苗字先輩だった。


『…ご、ごめんなさい、日向くん』

「や、その…謝られても…。…その、和也って人、いたんすよね?今なら渡れますから、探しに…」

『…ううん。もういいいの』

「え?でも…」

『もう、いいのよ』


自嘲気味に笑う先輩。
そんな顔でそんなこと言われたって納得できっかよ。
落とした鞄を拾ってから先輩の腕を掴んで歩道を渡ると、「ひゅ、日向くん?」と先輩が少し驚いたように声をあげた。


「会いたいなら、会いましょう」

『な、に言って…』

「だから、探しましょうよ。まだその辺りにいるかもしれないじゃないっすか」

『…いいよ、もう…。見間違えだったかもしれないし、それに「諦めんなよ!!」っ』

「あんな風に乱れるほど会いてぇクセに、なんでそんな風に諦めんだよ!」


荒げた声に、また周りからの視線が集まったが関係ない。
ジッと先輩を見つめていると、どこか色を失った瞳からツッと涙が落ちた。


『…探したって…探したってしょうがないじゃない!!和也さんはもういないんだから!!!』

「な…」

『会いたくて会いたくて仕方ない!仕方ないのに…探してしまえば、この世界には和也さんはいないんだって現実が突き刺さるって分かってるっ!だから…』


だから、探せない。
そう言わんばかりにより一層涙を流す苗字先輩。
なんとなく、言いたいことは分かる。
けど。


「じゃあ諦めるだけっすか。何もしないで諦めるだけっすか?」

『っ』

「逃げてるだけだなんてんなカッコ悪ぃことすんなよ!諦める前に少しでも足掻いてみろよ!!」


見たことがないほど涙を流す先輩。
その姿に胸のあたりが痛くなる。
が、ここで甘やかしてはいけない。この人が強くなるには、きっと、現実から目を背けさせてはいけない。
うつ向いて指輪を握る苗字先輩はまだ震えているけれど、それには気づかないふりをして顔をあげさせる。


「…どんな人なんすか?」

『どんなって…』

「なんか特徴っすよ!」

『…く、黒髪の短髪で背が高めで…』

「高めってどれくらいっすか?」

『ひゃ、180半ばくらい…』


180半ばか。そんなにある人はあまりいねぇな。
よし、と頷いてから、先輩の腕を引いて再び歩き出すと「ちょ、あの…日向くん!」と後ろから戸惑ったような声がする。


「諦めるんなら、探してから諦めて下さい」

『でもっ…』

「…もし見つからなかったら、また明日探せばいい。どこかにいるかもっていう可能性が少しでもあんなら、諦める前に動きましょうよ」

『っ』


言葉を失った先輩の手を握り直して、少しだけ足を早めた。

そこからは単純作業の繰り返しだ。
町行く人に会ったこともない“和也さん”の特徴を言って見たことがないか聞く。
最初は見ているだけだった先輩も、途中からは自ら聞いてくれるようになった。
端から見たら俺たちは物凄く異様だろう。
けれど、そんなことも気にならないくらい歩き回っているといつの間にか日が落ちそうになっていた。


『…ごめんね、日向くん』

「はい?」

『付き合わせちゃって』


休憩のために入った公園のベンチに座っていると、急に先輩はそんなことを言い始めた。
それにため息をはくと、苗字先輩が不安そうに此方をみた。


「俺が好きでやってるんすから、謝らなくてもいいっすよ」

『…ありがとう』


それから訪れた沈黙。
少し迷ったけれど、「あの」と先に切り出すと先輩が緩く笑って「うん?」と首を傾げた。


「…さっきの“この世界には和也さんはいない”ってどういう意味…っすか?」

『…それは…』


笑顔が消えた変わりに、先輩の顔には焦りの色が見えた。
ジッと見つめていると、苗字先輩の視線がゆっくりと地面に落ちた。


『…それは、その…』

「…誤魔化すのはやめて欲しいんすけど。できれば本当のこと、知りたいんで」

『…』


何かを言おうとした先輩の唇はまた閉じられる。
ここで嘘を言われては、この人の“本当”には辿り着けない。
ただジッと先輩の答えを待っていると、諦めたようなため息がもらされた。


『…日向くん、パラレルワールドって知ってる?』

「パラレルワールド?」

『平行の世界って意味なんだけど…こことは似て異なるまったく別の世界のこと。…もし、私が…』


“そこから来たって言ったら、どうする?”


先輩の声がやけに脳内に響く。


「…それ、どういう意味…すか?」

『……目が、覚めたらね?3才の女の子になってたの』

「な…」

『最初は夢だと思った。けど…いつまでたっても目が覚めなくて、だんだん“アッチ”の私が夢だったんじゃないかって。でも…この指輪は、この指輪だけはこの世界の私が持ってたんじゃない、向こうの私のものなの』


困ったように眉を下げて指輪を見つめる先輩。
そんな彼女を見つめていると、急に悲しそうな笑顔が溢された。


『…ごめん。今の話、気にしないで。冗談だから』

「…は?」

『あり得ないでしょ?そんなこと。だから、「信じます」…え?』

「だから、もう少し教えてくれませんか?その…“アッチ”の先輩のことも和也って人のことも」


信じるには、確かにあり得ないこと。
だけど、ここでこの人を信じなかったら、俺は一生後悔する気がする。
ジッと先輩を見ていると、見つめ返す瞳から再び涙が流された。


『…こんな馬鹿げた話、…聞いて、くれるの…?』

「…話して、くれるなら」

『……ありがとう、日向くん』


きっとこの人は、今までずっと一人で抱えこんでいたのだろう。
何処と無く嬉しそうに笑う苗字先輩は、1つ1つゆっくりと話してくれた。

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