夢小説 完結 | ナノ
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高校3年になりました4


良くないことというのは続くものだ。
“キセキの世代”と呼ばれる彼らに会った翌日。
結局、和成くんにはメールで“お疲れ様”とおくらせてもらった。
悔しいはずであろう彼は、今度どこかへ行きましょうね、といつも通りに返してくれた。
そんなメールを確認したのが今朝。そして、今度は私は、誠凛の試合を見に行った。

順調に勝ち進んでいたのだけれど、予選トーナメント最終戦。
対 霧崎第一高校、つまり真くんとの試合で、木吉くんの膝が壊れた。
いや、“壊された”と言った方がいいのかもしれない。
木吉くんの膝は、来年の夏まで、治ることはないらしい。



「え?花宮と?」

『…うん…。だから、私からも謝らせて欲しい』


「ごめんなさい」と病院のベッドの上にいる木吉くんに頭を下げた。
結局、木吉くんを欠いた誠凛は、決勝リーグで大敗してしまったのだ。
それでも諦めない彼らは、今日も練習をしている。来年、日本一になるために。

チームメイトの代わりと言っては難だけど、木吉くんのお見舞いには、私が行かせてもらっている。
包帯を巻かれた足を見て、真くんがそれをやったことが、なんだか無性に申し訳なくなった。
だから木吉くんに、真くんと知り合いだ、と告げ謝ったのだ。


「いや、苗字先輩が謝ることじゃ…それに、花宮のことだって怒っていませんよ」

『え…、けど…』

「バスケに接触プレーは付き物ですし…あの試合の前から膝に違和感はあったんです。だから、それを隠して試合に出た、俺の責任です」


「体調管理も、プレーヤーの義務ですから」と明るく笑う木吉くん。
無理をしているようには見えない。
でも、私は、見てしまったのだ。
あの日、日向くんが日本一になることを約束した日、木吉くんが泣いていたことを。
「ごめんね」ともう一度謝ると、木吉くんは「だから、謝らなくていいんですよ」と困ったように眉を下げた。
強い子だ。木吉鉄平くんは、強くて、優しくて、そしてズルい子だ。
悪かったことを全部一人で背負おうとするなんて、優しくて、ズルい。


三度目の“ごめんね”を「ありがとう」に変えると、木吉くんはちょっと目を丸くしてからようやく満足そうに笑ってくれた。
そのすぐあとに、病室の扉が開いた。

「こんにちは。名前先輩」「リコちゃんに、日向くんも。こんにちは」「どうもっす」「リコ、それに日向も。練習はいいのか?」「今日はちょっと早めにあげたのよ。それより、これ着替えね」

日向くんの持っていた大きなボストンバッグは、木吉くんの着替えだったのか。
「ありがとな」とリコちゃんに笑いかける木吉くんと、そんな木吉くんに笑顔を返すリコちゃん。
それをなんとなく見ていると、「んじゃ、俺はこれで」と日向くんが手をあげた。


「もう帰るのか?今来たばっかじゃないか?」

「そうよ。もう少しいたら?」

「あー…いや、やめとくわ」

『…あ、それなら私もおいとまさせてもらうね。日向くんに途中まで送ってもらいたいし』

「…そういうことなら…日向くん、名前先輩のことよろしくね」


「じゃあね」と木吉くんとリコちゃんに手をふり日向くんと共に病室を出る。
そのとき、チラリと盗み見た日向くんの表情は、やっぱりどこか寂しげだった。


『…後悔、してる?』

「え?」

『木吉くんより先に、リコちゃんに想い、伝えられなかったこと』


病院から出てすぐにそう尋ねれば、日向くんの足がピタリと止まった。

日向くんは、リコちゃんが好きだった。
けれど、それは木吉くんも同じで。
違ったのは、木吉くんはそれを口に出したということ。

ジッと日向くんを見つめていると、彼は頭をがしがしとかいたあと、物思いに空を見上げた。青空だった。


「…してる…んすかね…」

『…どうだろうね…』

「…そりゃ、あの二人が付き合うって聞いたとき、ショックっちゃあショックでしたけど…。もし、俺が木吉みたいに監督に…リコに好きだって言ったとしても、上手く行くかは分からなかったわけだし…ここで木吉を責めるほど、馬鹿じゃないっすよ」


「むしろ、責めるべきは俺自身だ」と自嘲気味に笑った日向くん。
そんな彼になんとも言えない気持ちになって、つい黙ってしまうと「先輩は、」と日向くんが口を開いた。


『え?』

「先輩も、後悔してること、あるんじゃないんすか?」

『…それは…』


射抜くような日向くんの視線につい下を向いてしまうと、胸元で揺れる指輪が目に入る。


『…後悔、って言っていいのか分からないけど…』

「けど?」

『…時間を、戻せたらいいのにって、思ったことなら数えきれないほどあるかな…』


冷たい指輪を握りしめてそう言うと、日向くんは本の少し目を細めた。

あのとき、和也さんと笑いあえたあの日々を取り戻せたら。
何度願ったことだろうか。何度夢に見たことだろうか。
叶わないと知っていたのに、いつだって彼を追い続けてしまう。

ゆっくりと顔をあげて、日向くんと目を合わせると少し気まずい空気が流れる。
それを先に破ったのは、日向くんだった。


「…それも、“後悔”みたいなもん…すよね」

『…そうだね…』

「…けど、いつまでもんな事考えてたって何も変わりませんよね」

『…え』

「どうやったって過去に戻ることなんて出来ねぇし…前、見るしかないんじゃないすかね」


前を見る。
そうだね、それが一番いいのかもしれない。
けど、私は進みたくない。前なんて見たくない。

「そうだね」なんて、曖昧に笑って返すと、日向くんが不機嫌そうに眉を寄せた。


「…言っときますけど、俺だけ次に行け、なんて無しっすよ」

『え?』

「苗字先輩が立ち止まってるままじゃ、前を向こうにも向けねぇってことっすよ」


「あー…なんていうか…迷子はほっとけない質なんで」と、照れ臭そうに頬をかいた日向くん。
私は、迷子扱いなのか。
小さく笑ってしまうと、「笑わないでほしいんすけど」と日向くんが唇を尖らせる。
それに「ごめんごめん」と返すと、納得できなそうな顔をしながらも日向くんが歩き出した。

数歩先にある背中を見て、なんだか少し寂しさを感じたとき。


「何してるんすか?」

『え?』

「…言ったじゃないっすか、俺だけ進むとか無しだって」

『っ…』


「いきますよ」と手を引いてくれる日向くんに、ジンワリと心が暖かくなる。

泣いちゃ、ダメだ。

そう思っているのに、気づいたときには涙が頬を伝っていた。
その涙に日向くんが、気づいていたのかは分からなかった。

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