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高校2年になりました17


「すみません、急にお呼び立てしてしまって…」

『ううん、気にしないで』


笑う名前さんはとても綺麗だ。
けれど、俺はこの笑顔を見れなくなる。
ファミレスの一角に座る俺たちは、周りから恋人同士に見えるのだろうか。
ぼんやりしながらそんなことを思っていると、「虹村くん?」名前さんが首を傾げた。


「あ、すみません…」

『ううん、大丈夫ならいいよ。それより、話って?』

「…実は、俺…卒業したらすぐにアメリカに行くんです」

『え?』


目を見開いた名前さん。
そんな彼女に眉を下げてしまった。


「…前から親父が病気で…それで、その…治療のためにアメリカに行くんです。だから、俺も一緒に…」

『…そっか…。妹さんも?』

「…はい。家族で移るんで…」

『…寂しく、なるな…』


目を伏せた名前さんは、本当に寂しそうに笑った。
俺がいなくなることを寂しいと思ってくれるのは嬉しい。
けれど、その顔は、指輪を見つめるときの名前さんとは別物だった。


「…あの、名前さん」

『うん?』

「…俺、貴女が好きです」

『ぇ…』

「もちろん、姉貴とか先輩とかそんな気持ちじゃありません。ちゃんと、先輩に“恋”をしたんです」

『っ…虹、村くん…』


揺れた瞳に映る俺は、自分でも情けない顔をしていた。
ホント最悪だ。
最後に、こんな姿見せることになるなんて。
苦笑いを溢して「けど、」と付け足すと、先輩の肩が小さく揺れた。


「けど、返事は要りません。それが分からないほど馬鹿じゃないんで、それに…あなたの恋人は、あなたの側に要れる人じゃなくちゃできません」

『っ…虹村くん…』

「…けど、聞きたいことがあるんです」

『聞きたい、こと?』

「…名前さんの、背負ってるものを教えていただけませんか?」

『っ!!』


驚いた顔で固まる先輩は、戸惑ったように唇を震わせる。


『…それは、その…どういう…』

「名前さんが、いつも誰かを探してるの、知ってます。だけど…そのせいで、あなたが苦しんでいることも」

『っ』

「名前さん、俺はあなたの側に要れません。けど、そんな俺だからこそ、居なくなる人間だからこそ、…言っていただけませんか?俺には…」


周りの音が聞こえるのに、俺たちの間は怖いほど静かだ。
さっき頼んだ飲み物も、氷が溶けて美味しくなさそうになっている。
やっぱり聞くべきではなかったのかもしれない。
そう思って、口を開こうとしたとき。


『22のときだった』

「っ、え?」

『22のとき、私の世界で一番愛する人がいなくなったの』


「事故、だったの」そう言って悲しそうに笑った名前さんに、息を飲んだ。


「…えっ…ちょ、ちょっと待って下さい、22のときって?だって、あなたはまだ…」

『…それは…』

「…いえ、やっぱりいいんです。名前さんが言いたくないことは話して貰えなくていいんです」

『…』

「その指輪は、その人から?」


キラリと、どこか悲しそうに光ったそれを見つめると、名前さんの白い手が指輪を握った。
小さく頷いて、下唇を噛んだ先輩は顔をうつ向かせた。


『優しくて、バスケがとても好きな人だった…。年上のくせに、笑うとなんだか可愛くて、けど、いざってときは頼りになって…私は…彼が…和也さんが大好きだった』


震える名前さんは、きっと耐えているのだ。泣くことを。

伸ばしそうになる右手を左手でおさえる。
ダメだ。今、彼女を支えられるのは俺じゃない。
俺じゃ、ダメなんだ。

左手に更に力を込めると、小さく息を吐いた名前さんが顔をあげた。
その顔には、もう涙はなかった。


『…信じてもらえないかもしれない、けど「信じますよ」っ…』

「信じます、名前さんが言うなら」


真っ直ぐに名前さんを見ると、名前さんが、また泣きそうに笑って、「ありがとう」なんて言ってくるものだから、なんだかこっちまで泣きそうになった。


『ねぇ虹村くん、』

「…はい」

『……アメリカでも、頑張ってね』


先輩が笑った。
「はい」と返して笑ったけれど、きっと俺の顔は、先輩と同じように、下手くそな笑顔だったに違いない。

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