高校2年になりました15
なんとなく、だった。
学校帰りに、なんとなくストリートバスケット場へ行くと、そこにはボールが1つ転がっていた。
忘れ物だろうか。
手にとって、それをついていると、「苗字さん…?」名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには水色の髪の彼が立っていた。
『黒子くん?』
「…お久しぶりです、苗字さん」
ペコリと頭を下げてきた黒子くんに久しぶりと笑って返すと、顔をあげた黒子くんはなんだか前と違う。
何かあったのだろうか?
『…黒子くん、今日は部活は?』
「体育館の点検で休みなんです」
『…そっか…。…今度、またみんなのバスケを見に行こうと思ってるんだけど、いつならいいかな?』
「…」
『……黒子くん?』
視線を下げた彼の瞳は、なんだか暗い。
もしかすると、征十郎くんが言っていたことが関係あるんじゃないか。
「何か、あったの?」と水色の髪を撫でると、黒子くんの顔がクシャリと歪んだ。
「……すみません、苗字さん。今は…その…見に、来ない方がいいです」
『え?』
「きっと、あなたを悲しませることになります。だから…」
グっと何かに耐えるように唇を噛む黒子くん。
その様子に、彼が苦しんでいるのがよく分かる。
『…私じゃ、力になれないかな?』
「…苗字さんに、頼ってはいけないと思うんです…」
『どうして?』
「…前に、僕たちの練習を見にきたあなたは、とても愛しそうにしていました。けど…今の僕らのバスケは、きっと…苗字さんを傷つけます」
『黒子くん…』
「本当にすみません…。けどやっぱり…今の彼らをあなたに見てほしくはないんです」
「すみません」と苦しそうな顔で再び頭を下げる黒子くんに、こっちまで胸が痛くなる。
どうして、そんなことになっているのだろう。
助けてあげたい。
手を伸ばしてあげたい。
けれど、それは私の自己満足になる。
「…うん、分かったよ」と頷くと、黒子くんはちょっとだけ安心した顔をした。
「…勝手なことばかり言ってすみません…」
『私のことを思って言ってくれてるんだよね?だったら、謝らないで。黒子くんは何も悪くないから』
「…ありがとうございます…」
泣きそうな笑顔を見せる黒子くんは、少し、私と重なった。
『…黒子くん、』
「っ…」
なんで、そんなに苦しそうなの?
思わず、自分と変わらない小さな彼を抱き締めると、黒子くんの体が小さく震えた。
“…泣いて、いいよ”
そう言って、彼の背中を撫でると、震える手が、私の服を掴んで、小さな嗚咽が聞こえてきた。
「…あの、すみませんでした…」
『…ううん。私の方こそ』
しばらくすると落ち着いた黒子くんと、並んで歩いていると、黒子くんが申し訳なさそうに謝ってきた。
けど、会ったときに比べると、ほんの少しだけ、スッキリしたようにも見える。
「大丈夫?」「…はい、もう少し、頑張ってみます」「そっか、」「はい」「…頑張れ」「…はい」
小さな声の返事は、どこか自信なさげだ。
元気のない彼に、そうだ、とあることを思い付いた。
『…ねえ、黒子くん』
「はい、なんでしょう?」
『これ、どうぞ!』
「?」
ポケットから出したものを差し出すと、黒子くんは不思議そうにそれを受け取った。
「飴、ですか?」
『うん、飴…だよ』
キョトンとした様子で、手のひらの飴を見つめる黒子くん。
そんな彼に小さく笑うと、黒子くんが顔をあげた。
『それはね、“元気がでる飴”なんだよ』
「え?」
『私もね、落ち込んでたときに、ある人がそう言ってね、飴をくれたの』
「本当はただの飴だけどね」と笑うと、黒子くんはちょっと目を丸くしたあと、もう一度飴を見つめた。
『黒子くんが、ここだ!って思うときに食べてね。あ、けど、あんまり後に食べちゃダメだよ?賞味期限があるから』
「…ありがとうございます」
あ、笑った。
ちょっとだけ笑顔を見せてくれた黒子くんにホッとして、いると「名前さん」と黒子くんが私を見つめる。
あれ、そういえば今、下の名前で…。
クスリと笑って、私も彼を見つめ返した。
『テツヤくん』
「…はい」
『ふふ』
目をあわせて笑うと、テツヤくんも柔らかく笑みを溢した。
テツヤくんが苦しんでいる原因を、取り除いてあげることはできないけれど、彼の元気が少しでも出ればいいな。
ソッとテツヤくんの手を握る。
嫌がられるかな、と思ったけれど、逆に握り返してくれた。
どうか、テツヤくんと皆が、また、笑顔でバスケができますように。
そんな思いを込めて空を見上げると、綺麗な夕日が寂しげに見えた。
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