高校2年になりました13
翔一くんの告白のようなものを受けてからも、翔一くんは何事もなかったようにうちの喫茶店へと足を運んでくれた。
それこそ、私の勘違いなのではと思ってしまうほど。
けれど、そこは彼も譲れないらしく、
「言っときますけど、あれ、本気やで?」
なんて言われてしまえば、勘違いでは終わらせられない。
こういうのは、期待させてはいけないと、彼にはキッチリと返事をした。
“私は、他に好きな人がいるから、翔一くんとは付き合えないよ”
“それは“今”の話やろ?これからどうなるかなんて、分からんやろ?”
“これからも、“絶対”にないよ”
期待を持たせないようにと、かなりキッパリと返事をしたのだけれど、翔一くんは未だに首を縦にふってくれない。
どうしたら分かってくれるのか。
そんなことを考えながら、洗い終わった皿を拭いていると、誰かがお店に入ってきた。お客さんだ。
『いらっしゃいませ』
「…名前、さん?」
『あれ?征十郎くんに緑間くん??』
これは珍しいこともあるものだ。
驚いた顔の二人に、とりあえず席につくように促すと、二人は窓側のテーブルに腰かけた。
「まさか二人が来るなんて思わなかったよ」「名前さんはここでバイトを?」「うん、そうだよ」「…コンビニの方は?最近見かけませんが…」「あ、実はあっちはもうやめちゃったの」「そうなのですか?」「うん、言ってなかったね 」
ちょっとだけ目を丸くしている緑間くんに、苦笑いしていると、征十郎くんが「皆、寂しがっていましたよ」なんていってくれた。
嬉しいなあ。
そのあと、注文を聞くと、征十郎くんはコーヒーを緑間くんはカフェオレを注文してくれた。
『はい、どうぞ』
「ありがとうございます」
「どうも」
二人の注文のコーヒーとカフェオレを渡すと、二人ともお礼を言ってくれた。
相変わらずいい子達だなあ。
「どういたしまして」と笑って返したとき、テーブルの上にあるノートに目が行った。
『…これって…』
「練習の計画です」
ノートにびっちりと書かれた練習メニュー。
さすがに主将は大変なんだな、と感心してしまう。
『一緒に考えてるってことは、緑間くんは副主将?』
「はい」
『…大変だね』
「いえ、当然のことですから」
『そっかあ…けど、無理しちゃダメだよ?』
「無理…ですか?」
不思議そうにこちらを向いた二人に「そうだよ」と頷く。
『虹村くんも心配してたよ?皆のこと』
「…そう、ですか」
あまり歯切れのよくない返事。
心当たりがあるのかな。
眉を寄せて視線を下げる緑間くんといつもより表情の暗い征十郎くんに、「何かあったの?」と尋ねると、二人の瞳が少しだけ揺れた。
「…白金監督が倒れてから、部の空気があまり良くないんです」
「特に目立つのが青峰なのだよ」
『青峰くんが?』
頷いて返す緑間くんに目を見開いてしまう。
だって、私の知ってる青峰くんは、バスケもバスケ部も大好きっという感じだから。
彼が部の雰囲気を悪くしているなんて信じられない。
ソッと目を伏せてしまうと、征十郎くんが申し訳なさそうに笑う。
「すみません…困らせてしまいましたね」
『…ううん。役に立てなくてごめんね』
「いえ」
『…また…皆のバスケ、見に行けたらいいな』
「…はい、待っていますね」
やわらかく笑う征十郎くん。
大丈夫、きっと彼らなら、また前のようになれるだろう。
小さく微笑んでみせると、不機嫌そうだった緑間くんの表情も和らいだ。
この数日後、征十郎くんの中にいる、もう一人の彼が現れることになるなんて、思いもしなかった。
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