夢小説 完結 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

高校2年になりました12


夏休みがあけてから数日。
約1ヶ月ぶりにバイトに出ると、マスターが「お帰り」と笑顔で迎えてくれた。

そんなマスターやマスターの奥様にお土産を渡して、久しぶりのバイトに勤しんでいると、チリンチリンと鈴がなった。


『あ、真くん』

「……なんだ、もう帰ってきたのかよ」


「そこはお帰りでしょう?」なんて冗談を言うと、はいはいと流された。
年下にあしらわれるなんて…。
いつも通りカウンターに座る真くんをちょっとジト目で見ていると、「はいはい、お帰りお帰り」とまたあしらわれた。酷いなぁ。

すると、そんな私たちのやり取りを見ていたマスターがクスリと笑う。
ん?とマスターを見ると、マスターは面白そうに真くんを見ていた。


「花宮くんは照れ屋さんだね」

「は?」

「彼女がいない間は全く来なかったのに」

「なっ!」


え、と真くんを見ると、珍しく真っ白い頬を染めている。
なんだ、そういうことね。
ニヤニヤしながら真くんを見ていると、「笑うな!」と怒られてしまった。
まあ、それも可愛いのだけれど。
頬を緩めて真くんを見ていると、今度は怒鳴るのではなく、人一人殺せそうな勢いで睨まれたので、流石にからかうのはそこまでにした。


『あ、そういえば、高校はどこいくの?』

「は?…あー…霧崎」

『え?霧崎って…偏差値高いよね?お茶なんてしてて大丈夫なの?』

「誰に言ってんだよ。いい子に勉強なんかしなくても受かるっつーの」


呆れたように返してくる真くん。
そういえば、彼は模試で一位を取ったこともあるんだった。

羨ましいなぁ、と見つめていると、チリンチリンと再び鈴がなった。


『いらっしゃいませっ…て、あれ?翔一くん?』

「なっ…!」

「どうも」


片手をあげて挨拶を返してきた翔一くん。
そういえば、彼とも1ヶ月以上会ってなかった。
「なんだか久しぶりだね」「せやなぁ」とやり取りしていると、ガタッと椅子をひく音がした。


「なんや花宮、トイレか?」

「帰るんだよ!なんであんたとコーヒー飲まなくちゃいけねぇんだよ!」

『え、でもまだ一杯も…』

「じゃなあ!」

『ちょ!』


バタンと店から出ていってしまった真くん。
そんなに翔一くんが嫌いなのか、と息をついていると、マスターがまた面白そうに笑った。
なんで笑っているんですか?というようにマスターを見ると、マスターは意味ありげに微笑む。


「…花宮くんの今日一番の目的は名前ちゃんに会いに来たことだから、コーヒーはいらなかったんだよ」

『え?真くんが?』


そうだよ、と笑うマスターに一瞬目を丸くしてしまうから、すぐに顔の筋肉が緩くなる。
なんだ、やっぱり可愛いなぁ。
クスクスと笑っていると、「仕事しいや 」と翔一くんきデコピンされた。


『痛いなあ』

「仕事せん自分が悪いんやで?ワシかて、名前さんのコーヒー飲みに来たのに」


嬉しいことを言ってくれる。
「ふふ、ありがとう」とお礼を言うと、翔一くんも顔を綻ばせた。
たかだか1ヶ月ぶりなのに、この空気が懐かしい。
ソッと目を細めて、指輪に触れていると、「アメリカはどうやったん?」とカウンターに座った翔一くんが首を傾げてきた。


『楽しかったよ』

「ふーん…ブロンドの友達もできたん?」

『…うーん…それが、向こうで仲良くしてたのが、日本人なんだよねぇ』


は?と翔一くんが少し驚いた声をだした。
まあ、そんな反応したくもなるよね。
わざわざアメリカに行って、日本人と仲良くなってるわけだし。
あはは、と誤魔化すように、今度は呆れたように眉を下げられる。


「…自分、ほんまにアメリカに行ったんか?」

『行ったよ?ちゃんとね。けど、なんの偶然か、ホームステイ先が日本人の家族でね、快適だったけど、快適過ぎて、拍子抜けだったというか』


「年の近い子もいたしね」と付け足すと、どんな子なのか聞かれたので、バスケが上手な男の子だと言うと、今まで何の気なしに聞いていた翔一くんの眉がピクリと動いた。
あれ?何か変なこと言った?


「…男?」

『うん、翔一くんの1つ下だから、真くんと同い年だね』

「…何もされなかったん?」

『え?』

「せやから、何もされなかったん?」

『………うん。別に』


笑って返したけれど、間を開けすぎたせいか、翔一くんは怪しげにジッと視線を向けてくる。

何もされなかったのか、と言われたとき、頭を過ったのは帰り際にされた頬へのキス。
別にそれだけならなんてことないのだけれど、その前日に、所謂告白なるものをされたのだから、少しは気にしてしまう。
辰也はどうしてこんな私を好きになったのだろうか。

分からないなあ。
なんてため息をついたところで、そういえば、翔一くんも好きな人がいたな、と思い出す。


『ねえ、翔一くん』

「ん?」

『翔一くんさ、好きな子がいたよね?』

「………まぁ…」

『翔一くんは、どうしてその子が好きなの?』


ジッと翔一くんを見つめると、翔一くんは諦めたように息をはいた。


「…泣かせたいんです」

『え』


ちょっと待って。
いま、何て?
確かに翔一くんはちょっと意地悪な節があるけれど、まさかそっちの趣味が…?

反応に困って固まっていると、「…変な意味とちゃいますよ?」と苦笑いされた。
なんだ、違うのか。


「いつもいつも、ヘラりと笑うくせに、たまにめっさ寂しそうにするんです、その人。そんな顔するんやったら思いっきり泣いて、“辛い”って、言えばええのに」

『じゃあ、泣かせたいっていうのは…』

「一回、死ぬほど泣けばええねん。逆にスッキリしてまうくらいに」


なんだ、翔一くんはやっぱり優しい子じゃないか。

いつものコーヒーを翔一くんに出してから、「泣けるといいね、その子」と言うと、翔一くんがはぁっと盛大にため息をついた。
それからすぐに、ガタッと音がしたかと思えば、翔一くんが席を立っていた。


『翔一くん?』

「…名前さん、」

『うん?』

「それやったら、あんたはいつ泣いてくれるん?」


え。
ポカーンと口を開けたまま翔一くんを見つめると、おかしそうに笑った翔一くんは千円札を置くと、そのまま出ていってしまった。

待って、今のって…まさか…。


“…泣かせたいんです”
“それやったら、あんたはいつ泣いてくれるん?”


つまりは、そういう事なのだろうか。

チラリとマスターを見ると、「青春だねぇ」なんて微笑んでいる。

辰也に続いて翔一くんまで。
私、今、人生最大のモテ期かもしれない。


翔一くんのために用意したコーヒーを飲むと、いつもより少し、甘かった。


prev next