夢小説 完結 | ナノ
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水色


あれから、3年生のみなさんに手伝ってもらった御礼を言い、お昼の準備の手伝いをするために食堂の方へ向かっていると、丁度食堂の入口近くで、壁にもたれ掛かっている黒子のくん見つけた。


『…あれ?黒子くん…?』

「…っ、苗字、さん…?」


か、顔色が悪い。白い肌が青くなってる。
慌てて駆け寄り「大丈夫!?」と背中を摩ると青い顔をした黒子くんがゆっくりと頷いた。いや、全然大丈夫じゃなさそう。
「歩ける?」「…はい」「…無理だよね?」「……すみません…」「ううん。はい、肩貸すよ」
左隣から支えるように黒子くんの腕を肩に回すと、今にも死にそうな顔をしたまま、黒子くんはゆっくりと食堂へ歩き出した。
そんな彼をなんとか支えて椅子に座らせると、黒子くんは机に顔を伏せてしまった。水でも持ってきた方がいいのだろうか。キッチンの方へ走って水とタオルを持って戻ると、「すみません…」と消え入りそうな声を出しながら、黒子くんはなんとか水を喉に通してくれた。


『大丈夫?少しは落ち着いた?』

「…はい…少し、バテていただけなので…」

『…少し…?』

「…大分…」


聞きなおすと言い直した彼に笑っていると、弱々しくも小さく微笑んだ黒子くんは、再び顔を突っ伏してしまった。少し眠った方がいいのかもしれない。
部屋に連れて行こうかとも思ったけれど、動かすのも可哀想なのでこのままここで眠らせてあげることにした。
合宿所に泊まりに来た選手の中でも一際小さな背中を丸めて眠ろうとする姿に目を細めていると、不意に、ふわふわと揺れる水色が目に映った。


『…きれい…』


ポツリと零れた言葉。ほぼ無意識に呟いてしまったけれど、黒子くんは既に寝たのか、何も反応を示さない。
ゆっくりと手をのばして、思わずその水色を撫でると、黒子くんの肩が小さく跳ねた。


『あ、ご、ごめんなさい。起こしちゃった?』


慌てて手を離そうとすると、何故か、その手を捕まれてしまった。え、と顔を伏せたままの黒子くんを見ると、手を掴む力が少しだけ強くなった。


「もう少し、」

『…え?』

「もう少し、撫でて頂いても、いいですか?」

『…うん、いいよ』


ゆらゆらと揺れたアクアマリン色の瞳が柔らかく細められる。再び顔を伏せた黒子くんの髪に指を通すと、滑らかなそれにちょっとだけ羨ましくなる。


“苗字さんの手は、安心します”


『え…』

「?どうかしましたか?」

『あ…ううん。なんでも、ないよ』


不意に頭の中で響いた声。優しく耳障りのいいそれは、黒子くんのものに、よく、似ていた。
不思議そうに見上げる黒子くんに笑って首を振ってはみたけれど、どうにも上手く誤魔化せていないのか、黒子くんは怪訝そうに眉根を寄せた。


『ほんと、何でもないの。ただちょっと…』

「…ちょっと?」

『…懐かしいな、って』


ポツリと溢した言葉に、黒子くんの肩が小さく揺れた。


「…懐かしい、ですか?」

『…うん、そう。懐かしいの』


黒子くんの顔がゆっくりと上がる。柔らかく目を細めて微笑んで見せると、まるで息を呑むように黒子くんが唇を噛んだ。


『…自分でもよく分からない。でも、なんでかな…。黒子くんたちと会ってから、時折、まるで1度体験したことがあるみたいに、思えるの』

「…それは…」

『ねえ、黒子くん。本当の事を教えて欲しい』


私が忘れてしまったのは、あなた達なの?


空気がひんやりと冷たくなる。
問いかけに瞳を揺らしながら、何かを躊躇するように俯いた黒子くん。そんな彼からの答えをただただじっと待っていると、伏せられていた黒子くんの目がゆっくりと私を映した。


「苗字さん。…僕らは、本当は―…「黒子、」っ!」

「黒子、何をしているんだい?」


答えを聞かせてくれようとした黒子くん。そんな彼の言葉を遮ったのは、赤司くんだった。なんてタイミングだ。食堂の入口からこちらへ向かってくる赤司くんにほんの少しため息をつくと、私と黒子くんを見比べた赤司くんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「…すまない、邪魔をしたようだ」

「いえ、大丈夫です。それより赤司くん、何か用ですか?」

「いや、丁度休憩の順番が回ってきてね。様子を見に来たんだが」

「それならもう平気です。僕も練習に戻ります」


え。戻るって。
目を丸くして黒子くんを見ると、微かに微笑んで見せた黒子くんが席を立った。


「苗字さんとのお話のおかげで、大分回復できました。ありがとうございます」

『え、いや、そんな…お礼を言われるようなことじゃ、』


“お礼なんて要らないよ”


『っ!』


“けど、本当のことです。苗字さんのおかげで、良くなりました”

“大袈裟だよ”

“そんなことありません。本当の事です”


声だ。さっきと同じ、柔らかくて優しい声が脳内で響く。これは、この声は。


『うっ…あ、たまが………いっ…!っ』

「!!苗字!?どうしたんだ!!」

「苗字さん!?しっかりして下さい!!苗字さん!!!」


“ありがとうございます、苗字さん”


響いた声に重なる映像。
痛む頭のせいでこぼれ落ちる涙の膜に張り付いた情景は、遠く遠くへ離れて行くように消えていった。

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