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HQ総合病院麻酔科医18


「浮気者!!!!」


ガンっと机を叩いて勢いよく立ち上がった及川。ちょっとご飯食べてるんだから揺らさないでよ。
無視を決め込んでうどんを食べていると、ムスッとした顔のまま及川再び席に着く。


「なんで大学病院の、そのうえ牛若ちゃんなんかと組むのさ!!!」

『頼まれたから』

「名前の浮気者!及川さんは、名前をそんな子に育てた覚えはありません!」

『あんたに育てられた覚えもないから』


「う…うわーん!岩ちゃあああああん!!」と隣に座る岩泉に泣きつく及川。コイツ、マジでいくつだよ。あまりの面倒臭さに岩泉と2人で息をはくと、「2人とも酷い!」なんて頬を膨らます。いや、可愛くないから。やっぱりこれは無視をしよう。
チュルチュルと麺を啜っていると、隣の席が引かれた。飲み込んで顔をあげると、「よっ」と片手をあげた松川がいた。


『ああ、松川か』

「おー、また面倒なやつに絡まれてんなあ」

「ちょっとまっつん!!」


ギャーギャー向かい側で騒ぎ始めた及川は、ついに岩泉から怒りの鉄拳を貰っていた。いや、今のはマジで痛そう。及川ご愁傷様。


「及川、今日なんでこんなにうざいわけ?」

「苗字が今度、牛若手伝うんだって聞いたから」

「あー…なるほど」


松川の質問に答えた岩泉も眉間の皺が凄い。この2人はどれだけ若利が嫌いなのだろうか。
ははっ、と乾いた笑みを零してから、紙コップのお茶を飲んでいると、「お前も大変だな」と松川が肩を叩いてきた。松川、いいやつ。


「けど、黒尾がよく許したな」

『院長命令だしね、でも、アイツは心配性すぎ。今更引き抜かれるわけないじゃん』

「…心配性なのは黒尾だけじゃないけどな」

『は?なにそれ?』

「花巻、スゲエ不機嫌だったぞ」

『……………ええ…めんどくさあ…』


どこか愉快そうに笑って、坦々麺を食べ始めた松川。いや、笑い事じゃないんですけど。
「松川、どうにかしてよ」「面倒」「そこをなんとか」「いやいや、名前じゃなきゃ無理だって」「ええー……」
盛大に顔を顰めると、何故か愉しそうに笑った松川が「頑張れ」と言ってきた。いや、全然心こもってないし。わざとらしくため息をついて、残った麺を食べ終えると、今度は松川とは反対側の席が引かれる。まさか。


「おーっす!!聞いたぞ、苗字!!」

『…なんだ木兎か…』

「なんだとは失敬な!!俺はお前にな、一言物申しに来たんだぞ!!」

『言っときますけど、若利とのオペの件なら…』

「いーや!そんなこともはやどうでもいい!」


…どうでもいいって…それはそれでムカつく。てっきり花巻が来たかと思って焦ったのが馬鹿みたいだ。じゃあなんの用なんだと木兎を睨むと、不機嫌そうに唇を尖らせた木兎が、漸く口を開いた。


「俺とのオペ断るってどういうことデスカ!!」

『……オペ?木兎の?』


少し考えるように首を捻る。…ああ、そう言えばあった気がする。けど、その日はもう若利のとこのオペの準備のため、大学病院の方を訪れなければならないからと今朝断って、赤葦か黒尾に任せたんだった。
思い出して、「ああ、あれね」と納得していると、何がそんなに気に食わないのか、木兎の背中がダンダンと丸くなり始めた。ちょっと、ここでショボクレないでよ。


「…久々の名前とのオペ、楽しみにしてたのに…」

『その日は、若利とのオペの準備期間真っ只中だし』

「う、牛若優先だと!?俺よりも!?」

『……ああ、ほら、木兎は外科医の中でも、“期待のエース”サマだから、誰と組もうと平気でしょー?』


我ながら、なかなかに棒読みだ。でも、超がつくほど単純な木兎には十分だったらしい。
「き、期待のエース!?ま…まあな!!だーっはっはっは!ヘイヘイヘーイ!!」
声をあげて笑う木兎に、松川と目を合わせて笑ってしまう。単純とは可愛らしいものだ。花巻もこれくらいおバカさんだったら、もっと楽なのに。
目立つピンク頭を思い出して、内心ため息をついていると、そうこうしているうちに食べ終わった岩泉が席をたった。


『あれ?岩泉行くの?』

「おう。いつ急患入るか分かんねえしな」

『そっか。いってら』

「おー……あ、おい名前」

『ん?なに?』

「…大学病院なんかに移ったら、ぶん殴るからな」


どうやら、私は随分と信用がないらしい。まあ、これだけ心配してくれるあたり、愛されていると思っていよう。
苦笑いを浮かべながら「ありえないよ」と手をふると、ニッと笑ってみせた岩泉はそのまま歩いて行った。あういう笑い方が岩泉は似合うなあ、なんて考えながら席を立つと「ちょっと!まだ話は終わってないんだけど!」と及川も立ち上がった。


『もういい加減うざいよ及川』

「う、うざいって…!!」

『私は、若利がどうとか、大学病院がどうとかじゃなくて、“患者さんのため”に手術に参加するの』


分かったら黙れ。そんな意味を込めて一睨みすると、うっと及川は漸く静かになった。それに満足して、空になった皿が乗っているトレーを持って行こうとすると、「名前」と松川の静かな声が耳に届いた。


「アイツのことも、よろしく」

『…はいはい、分かりましたよ』


ヒラヒラと後ろ手をふって答えると、松川の小さな笑い声が聞こえてきた。

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