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HQ総合病院麻酔科医16


お母さんと無事和解したあすかちゃんは、翌日かは産婦人科へと移った。もう少し経過をみて、何も無ければ退院するらしい。
あすかちゃんとお母さんの関係が修復した時点で私も役目を終えたようなものなので、産婦人科に移るあすかちゃんを見送ると、「また会いに来てね、先生」と可愛らしい笑顔を向けられた。どうやら、また産科通いを始めなければならないらしい。

ああ、そうだ。退院と言えばもう一人。


『こんにちは、照島くん』

「うお!なんだよ先生。ノックくらいしてくれよな」

『何何?エロ本でも読んでたの?』

「ちげーし。ベンキョーだよ、ベンキョー」


唇を尖らせて手元のテキストを叩く照島くん。どうやら、この前言っていた整体師になりたいと言うのは本気らしい。
茂庭に明後日退院することを聞いたので会いに来てみたけれど、元気そうで何よりだ。
「ところで、先生は何しに来たんだよ?」「退院するって聞いたから、わざわざ会いに来たんだけど」「え?マジで?俺って愛されてるー」
ケラケラと笑う彼に、思わず苦笑いが浮かんだ。


『退院日にはオペが入ってて見送り出来ないからね』

「ああ、その代わりってことか」

『そういうこと。頑張って勉強して整体師になりなよ』

「もちろん。先生をデートに誘いに来れるくらいには、立派な整体師になるつもりだから」


デートって、ああ、この前言ってたあれ。本気だったのか。呆れ半分で笑ってみせると、愉しそうに笑っていた照島くんの顔から笑みが消えた。
あ、目がマジだ。なんて考えていると、不意に腕を捕らわれ引っ張られる。よろけた体を支えるためにベッドに手をつく、照島くんとの距離がやけに近くなり、彼の吐息が感じられた。


「…俺、本気だから」

『照島くん、私は…』


あなたの気持ちに応えることはできない。そう答えようとした唇は、照島くんによって塞がれてしまった。
あ、これ、キスされてる。
目を丸くしているうちに、すんなりと離れてしまった照島くんと目を合わせると、本気過ぎる瞳に自分が映っていた。


「返事は、今は聞きたくねえよ。先生の答えなんて分かってるし。だから…っいて!」

『あんまり調子にのらないの』

「…このムードでデコピンっすか…」

『デコピンで済んで有難く思いなさい。さっきのキスはこれでチャラにしてあげるんだから』


もう一度、今度は人差し指で額を小突けば、照島くんは不機嫌そうに唇をとがらせ、そこは押さえた。


「チャラねえ…それって、無かったことにされちゃうってこと?」

『…流石に、そこまで冷血じゃないわよ。…君が、まともな整体師になって、デートに誘いに来るっていうのが本気なら、そのときにまた答えてあげる』

「っはは、それなら俺、マジで頑張んないとな」


嬉しそうに顔を綻ばせる彼に、ちょっとだけ、ほんの少しだけドキッとした。まったく、私の周りには無駄に顔だけいいヤツらが多いんだから。
「それじゃあね」「うん、“またな”先生」
そう手をふって病室を出ると、「あれ?名前?」…なんてタイミングで現れるんだ、花巻め。


『花巻、なんで産科医のあんたがこっちいるわけ?』

「及川んとこ行った帰りだけど。なに?俺がいちゃ悪いわけ?」

『別に。ただなんでかなって思っただけだよ』

「ふーん…で?そこ、照島さんの病室だよネ?何してたわけ?」


やっぱり食いついて来た…。ああ、面倒臭い。
もう放っておいてさっさと医局に戻ろうとしたけれど、ガシッと腕を掴まれてしまう。どうやら逃げられないらしい。ニコニコ笑顔の裏に見える黒い影が果てしなく面倒だ。


『…照島くん、もうすぐ退院だから、そのお祝いに来たの』

「の割に、ちょっと頬っぺた赤くなってるけど?」


目敏い。だから花巻は面倒なのだ。及川には負けるけど。隠すように俯けば、花巻の右手に顔をあげられた。俗に言う顎クイだ。
「…ちょっと」「んー?」「こんな所でアホなことしないで」「こんな所じゃなきゃいいわけ?」
ゆっくりと近づいてくる顔を押しのけると、不満そうに眉根を寄せられた。


「どーせあのクソガキになんかされたんデショ?」

『患者さんをクソガキ呼ばわりしない』

「…何されたわけ?」


花巻もいい歳なんだからもう少し大人になって欲しいものだ。ハアっとわざとらしくため息をつくと、花巻が更に不機嫌に顔を歪める。
グルリと周りを確認すると、都合よく他に誰もいない。もう一度小さく息をついて、花巻の胸ぐらを掴んで引き寄せれば、驚いた表情の顔が近づいてきた。


『子供じゃないんだから、イジけないでよ。馬鹿』


音をたてることなく花巻の頬に唇をくっつけると、面食らったのか口元を隠すように覆っている。
そんな花巻に笑っていると、「マジお前狡いなあ」花巻も柔らかく笑んだ。単純だ。
ヒラヒラ後ろ手を振って歩き出すと、さっきの不機嫌は何処へやら、花巻も手を振って見送ってくれた。

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