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HQ総合病院麻酔科医15


『入るよー』

「あ!苗字先生!!」


平野さんと話した翌日。あすかちゃんの病室へ行くと、中には菅原とあすかちゃん、それにあすかちゃんの恋人である中島くんがいた。


『今日も来たねー猛くん』

「はい!…そろそろあすかのお母さんとも話したいと思ってるんで…」

『この前、あすかちゃんのお父さんに殴られたのは大丈夫?』

「あはは…はい。もう平気です」


口元に残った絆創膏を撫でて笑った猛くん。
つい先日、あすかちゃんのお父さんに偶然鉢合わせした際、「む、娘さんを、おれに幸せにさせて下さい!」土下座をした彼は、お父さんの拳を勢いよく頬に受けていた。
殴られて呆然とする彼に、あすかちゃんパパはたった一言だけ言い去った。

“娘だけじゃない、お腹の子もだ”

あすかちゃんパパの言葉に、不覚にも感動してしまった。


「あのときはビックリしたんだよ?」

「いやあーあはは、俺もまさか殴られるとは思わなかったけど…けど、いい親父さんだな、あすか」

「…うん…でも、お母さんにはまだ会わない方が…」

『あー…それがさ、あすかちゃん、猛くん。実は…』


「呼んでるんだよね、お母さん」そう言って病院らしい白いドアを見ると、ゆっくりと扉がスライドされた。眉を下げて、少し申し訳なさそうにしながら中へ入ってきた平野さんに、あすかちゃんや猛くんはもちろん、菅原の目も丸くなった。


「っ…は、初めまして!お、おれ、あすかさんとお、お付き合いさせて頂いてる、中島猛です!!!」

「…あすかの母です。初めまして」


明るかった病室に一気に緊張が走る。背筋をピシッと伸ばして、あすかちゃんのお母さんに挨拶をする猛くんは冷や汗ダラダラだ。
「おいおい、大丈夫なのか?」「まあ見ててよ」
心配する菅原を肘で小突くと、平間さんは猛くんに向かってゆっくりと言葉を投げかけた。


「中島さん、あすかは、まだ17です」

「っはい」

「あなたもまだ高校3年生だと聞いてます。これから先、進む道は幾らでも決めることができます。でももし、ここであすかが子供を産んで、あなたと生きていくとしたら…その道は酷く狭まることになります」

「…はい」

「…それでもあなたは、あすかが子供を産んで、その子の父親になることを、後悔しないと言えますか」


驚くほどはっきりとした問いかけに、隣の菅原とあすかちゃんが息を飲んだのが分かった。ジッと事の成り行きを見つめていると、猛くんは迷うことなく平間さんに答えを返した。


「はい、言えます」

「!」

「…自分の浅はかな行動で、こんなことになってしまったことは、深く反省しています。でも!…でも俺は、あすかが俺の子供を産みたいってくれた時、どうしようもなく嬉しかったんです」

「…猛さん…」

「俺はまだ、世間も社会も知らないガキです。でも、あすかのお父さんとあすかと、子供を守ることを約束しました。だから俺は、2人を何があろうと幸せにするつもりです」


あすかちゃんは人を見る目があるらしい。こんなに素敵な人と出会えたなんて、羨ましいくらいだ。
口元に浮かんだ笑みを隠すことなく平間さんを見ると、大きなため息をついた彼女はゆっくりと視線を猛くんからあすかちゃんへと移した。


「…あすか」

「…はい」

「いい人を、見つけたのね」

「っ!…うんっ…!」

「…2人で、ちゃんと、幸せになりなさい。いいわね?」

「っはい…!!絶対、絶対幸せになるからっ!この子と3人で、幸せになってみせるから!!」


ポロポロと涙を零し始めたあすかちゃん。そんな彼女を見た平間さんは「あらあら」なんて言いながら、優しく抱き締めて上げていた。
あすかちゃんが親になろうと、平間さんがあすかちゃんの母親であることは変わらない。親子とはそういわうものだ。
抱き締め合う2人の姿に顔を綻ばせて菅原を見れば、あすかちゃんに負けないくらい涙ぐんでいて、ちょっと笑ってしまった。

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