夢小説 完結 | ナノ
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twelveth


※オリキャラ注意


雨に打たれて帰った晩、案の定熱が出た。
一応市販の薬を飲んで寝たけれど、翌日になっても熱は下がらなかったため、その日の学校はお休みに。
「今日は休みなさい」と言う母の言葉にホッとしてしまったのは、やっぱりまだ木兎くんに会う勇気が出ないからだ。

家から出ることもなくベッドの中でゆっくり休んでいると、ベッドの脇に置いた携帯が何度か通知ランプを光らせた。携帯を手に取って中を見ると、友達からの「大丈夫?」といった内容のものに混じって、1件、知らないアドレスからメールが来ていた。
誰だろうと首をかしげてメールを開くと「ごめん」と一言書かれた文面に添えられた名前に目を丸くした。


“ごめん 木兎”


たった一言だけ。
それだけなのに、胸が痛くて、目頭が熱くなる。
やっぱり木兎くんは優しい。こんな私のことを気遣ってくれるなんて、優しすぎる。
返信画面を開いて、ありがとうと打ったけれど、送信ボタンを押す勇気が湧かず、結局メールはそのまま保存。心配かけて、謝らせておいて、返信の1つもしないなんて。もしかすると嫌わられてしまうかもしれない。でも、木兎くんへの想いを諦めるには、そうなった方がいいのだ。










「本当に大丈夫?無理して来なくても良かったんだよ??」

『大丈夫だよ。昨日1日寝てたし、逆に元気過ぎるくらい』


土曜日、夏祭り当日。
熱も下がったため、友達との約束通り夏祭りへ行くことにした。ちなみに浴衣で。お母さん、別にいいって言ったのに。
慣れない下駄で待ち合わせ場所へ行くと、既に1人待っていてくれた。あ、美優ちゃんも浴衣だ。良かった。ホッとしてから声をかけると、慌てて駆け寄ってきた美優ちゃんに心配そうに顔をのぞき込まれた。


『優子ちゃんはまだなんだね』

「あ!!それが聞いてよ!!優子ってば彼氏と行くって言い出したの!!」

『え?そうなの?でも、彼氏さん忙しくて行けなかったんじゃ…』

「時間作ってくれたんだって。あーはいはいご馳走様って感じだよね!」


「だから今日は2人で楽しもう!」そう笑うと、私の手を掴んだ美優ちゃん、沢山の屋台が並ぶ通りへと歩き出した。
「何食べる?」「んー…りんご飴!」「あ、いいね!!私も!!」
2人で手を繋いだまま、人混みの中でりんご飴の屋台を目指して歩く。気の良さそうな顔をしたおじさんの屋台でりんご飴を買って、「次次!」美優ちゃんに手をひかれるままに今度はたこ焼きの屋台へ。
あれも美味しそう、これも美味しそうと次々屋台を回って、漸く満足したらしい美優ちゃんは、買ったものを持って屋台の通りから外れた所にある1つのベンチに腰掛けた。


「よし!食べよう食べよう!!」

『美優ちゃんたくさん買ったね』

「夏祭りで食べないなんて損だよ損!」


冷めないうちに、と早速たこ焼きを食べ始めた美優ちゃん。そんな彼女に倣って、自分もわたあめをを食べ始めたとき「そういえばさ」美優ちゃんが思い出したように口を開いた。


「名前、木兎と付き合った?」

『っえ!?な、何言ってるの!?』

「え?だって名前と木兎、最近メチャクチャ仲良いじゃん。昼休みによく一緒に図書室にいるし」


美優ちゃん、なんで知ってるの。
そう口には出さなかったものの顔に出ていたのか、ケラケラおかしそうに笑った美優ちゃんが「前に見かけたんだよ」と答えてくれた。


「木兎はともかくさー、まさか名前まで木兎のこと好きになるとは思わなかったけど…でもまあ、馬鹿だけど良い奴だもんねー。去年同じクラスだったけど面白かったし」

『……うん…そう、だね。木兎くん、凄く優しいよ』

「…ははーん。そこに惚れちゃったわけですか??」

『…でも、もう、諦めるから……』


からかうようにニヤニヤと見てくる美優ちゃんに、視線をわたあめへと落とす。
思っていた反応と違ったのか、美優ちゃんは「なに?どうしたの?」と首を傾げた。


『…木兎くんは、優しいから、私とも、仲良くしてたんだと思う』

「…はい?」

『私、口下手だし、地味だし…一緒にいても楽しくなかったと思う。でも、木兎くんは優しいから、だから、っいた!!』


だから、一緒に居てくれたんだよ。
そう続けようとした言葉は、額に感じた痛みによって遮られた。え??なに??
吃驚して、ヒリヒリ痛むそこを押さえて美優ちゃんを見ると、呆れた顔をした彼女が大きくため息をついた。


「ネガティブ過ぎ」

『う…』

「……あのね名前、いくら木兎が優しいからって、つまんない相手と話すために、わざわざ図書室に通ったりなんてしないよ?てか、木兎なら絶対しない。アイツはそういうおべっか的な事できないだろうし」

『…でも、木兎くん、本読むの苦手なのに、「オススメの本教えてくれ」って言ってくれたりしたし…』

「……あんた、なんで木兎がそんなこと言ったかマジで分かんないの?」

『…ひ、1人で図書室にいる私に、気を使って…?』

「絶対ない」

『え??でも……』


でも、じゃあ、なんで。
なんで、本を読みたいなんて言い出したんだろう?
浮かばない答えに頭を抱えていると、またため息をつかれてしまった。どういうこと??
ハテナマークを浮かべて、美優ちゃんに尋ねようとしたとき、美優ちゃんの携帯が音を鳴らす。
「ちょっとごめん」と言って携帯をとった彼女は、少し何か話してから切ったあと、申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめん名前!!親が急に帰ってこいって言ってきた…」

『え?あ、そっか…』

「名前、どうする??」

『…もう少し休んでから帰るよ。美優ちゃん、気を付けてね』

「ほんっっっとうにごめんね!!今度何か奢るから!!」

『あはは、大丈夫。気にしなくていいよ』


慌てて広げていた食べ物を片付けた美優ちゃん「マジでごめんね!!!」と勢いよく頭を下げてから、踵を返した美優ちゃん。けど直ぐに「あ!」と声を出して、振り返った。何か忘れ物でもしたのだろうか?
どうしたの、と声をかけようとすると、それをかき消すように美優ちゃんが叫んだ。


「諦めるなら!せめて!理由くらい聞いてから諦めなさいよ!!」

『え、』

「じゃあね!!」


今度こそ人混みの中に消えていった背中。それを目で追いながら、頭の中に浮かんできたのは、あの日の木兎くんの姿だった。

“お、オススメの本!教えてくんねえ!?”

顔を真っ赤にしてそう聞いてきた彼に驚いたものの、同時に、嬉しかったのも覚えてる。

“……あんた、なんで木兎がそんなこと言ったかマジで分かんないの?”


『…分かんないよ…分かんない、けど、』


知りたいとは、思うよ。


ベンチから腰をあげて、美優ちゃんが走り去った方へ歩き出す。慣れない下駄の筈なのに、足取りが、驚くほど軽かったのは、向かう先に彼がいてくれるかも、と少しでも期待しているからかもしれない。

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