夢小説 完結 | ナノ
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fifth


テスト期間に入ると、どの部活も活動禁止となる。
バレー部ももちろん朝練も放課後練もなし。空いた時間でテストに向けての勉強をしなければならない。


「…で、なんで俺までここにいるんですか?」

「まあまあ、赤葦なら木兎に英語とか現代文とか古典とか…そんくらいなら教えられるだろ」


諌めるように言ってくる木葉さんにため息をつく。俺は2年のハズなのに、どうして3年生に混じって勉強しなければならないのか。その上、先輩である木兎さんに勉強を教えろだなんて。まあ、木兎さんになら教えられるかも、なんて思ったけれど。

放課後の空き教室に集まって、机をくっつけ、教科書を開く先輩たち。これ以上文句を言っても無駄なことは分かりきっている。諦めて、自分も教科書とノートを開くと、隣に座る木兎さんがやたらソワソワしていることに気づく。


「…木兎さん、ちゃんと勉強して下さい」

「お!?お、おお…ベンキョーな!ベンキョーしなくちゃだよな!」


…ダメだ。全く落ち着く様子がない。挙動不審もいいところだ。
教科書を読む振りをする木兎さんの視線の先には、向かい側で真面目にテスト勉強をする苗字さんがいる。小見さんが呼んだらしいが、これ逆効果ではないだろうか。木兎さんは彼女が気になって勉強所ではない。
「あのさー、苗字、ここってさー…」「え?あ、そこはね、確かこのページに解き方が…」「あ、ホントだ。ありがとー」「ううん」
猿杙さんと苗字さんのやり取りを羨ましそうに見ているあたり、多分木兎さんも彼女に教えて欲しいのだろう。
ため息をついてから「あの、苗字先輩」と声をかけると、先輩の視線が教科書からあがった。


『?なにかな?』

「…あの、出来れば場所を代わって貰って、木兎さんの勉強を見てあげてもらえませんか?」

「!!!!あ、赤葦っ!!」


顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに表情を明るくさせた木兎さん。本当に分かりやすいなこの人。これ、苗字さんが気づくのも時間の問題なのではないだろうか。
「ダメでしょうか?」ともう一度尋ねると、少し困ったように眉を下げた苗字さんは、ソッと顔を俯かせた。


『…ぼ、木兎くん、赤葦くんじゃなくていいの?』

「へ?」

『…だって木兎くん、赤葦くんのこと大好きだから…』

「…はい?」


ちょっと待って下さい。それ、変な意味じゃないですよね?
苗字さんの発言に、肩を揺らして笑う先輩たちをジト目で見ると、隣の木兎さんがガタと音をたてて立ち上がった。


「お、俺は!赤葦と同じくらい苗字が好きだぞ!!!」

「(いや、なんで同じくらいとか言ってんすか!!)」

『…赤葦くんと同じくらいって…それって凄いね。嬉しい』


この人たちの中で俺は一体どんな立ち位置にいるのだろうか。なんだか不安になってきた。
とりあえず、場所を代わって貰うのは大丈夫なようなので、荷物を持って苗字さんと位置を交代すると、隣に座る彼女に木兎さんが目を輝かせた。


『えっと…それじゃあ、あの…どれが分からないの?』

「へ?…あー…え、英語?」

『そっか。英語なら先ずは単語を覚えればいいよ。出来れば教科書の頻出単語は全部覚えて欲しいけど、難しそうなら、赤い字で書かれた重要ってなってるやつだけでもいいよ』

「お、おう。分かった」


木兎さんが素直に頷いたのを確認すると、「分からないことがあったら声かけてね」と言って、苗字さんは、またシャーペンを動かし始めた。
そんな彼女を見た木兎さんも、言われた通りに英語の単語を覚えるために、ノートに単語を書き始める。
…まさか木兎さんが文句も言わずに勉強をするだなんて。小見さん、ファインプレーでしたね。
2人の様子を気にしていた俺や先輩たちも、真面目に勉強する2人に倣って、漸く自分の勉強を再開させることにした。










「…うし!覚えた!!」

『え?ホント?』

「おう!バッチシだ!!」


木兎さんが単語を覚え初めて1時間がたった頃、シャーペンを机に置いた木兎さんが大きく声をあげた。その声に顔をあげた苗字先輩は、木兎さんのノートを覗き込んで嬉しそうに微笑んだ。


『単語、いっぱい書いたね』

「おう!書けば覚えるって赤葦が言ってたからな!」

『ふふ、そっか。じゃあ次は…』

「…なんか、いい匂いすんな」

『え?』


木兎さんの言葉に苗字さんは首を傾げる。教科書やノートも睨めっこをしていた先輩たちも顔をあげ、俺も単語帳を落としそうになった。


「いや、なんか苗字、いい匂いすんな」

『っえっえ?そうかな…?』

「おう。飴とか食ってる?」

『う、ううん。お菓子とか持ってないけど…』

「ふーん…じゃあこれ、苗字の匂いか!」

『へ!?』

「「木兎おおおおおおおおおお!!!」」

「グエッ!?!?」


白福さん、雀田さん、ありがとうございます。
マネージャー2人に襟首を引っぱられて木兎さんは苦しそうだが、自業自得だ。女性に顔を近づけてスンスンと匂いを嗅ごうとするなんて、普通はしない。
頬を赤く染めて俯いている苗字さんに申し訳なく思い、「すみません」と謝ると、慌てたように首をふられた。


『お、怒ってるわけじゃないよ!ちょっとビックリしただけで…』

「…今白福先輩と雀田先輩が注意しているので、許してやって下さい」

『う、うん。大丈夫』


苦笑いをこぼした苗字先輩は、チラリとマネージャー2人の前に正座をして怒られる木兎さんを見た。心配そうに木兎さんを見ている彼女に「アレは気にしなくていいですよ」と言うと、苗字先輩は何故かクスクス小さく笑い始めた。


「おれ、何か変なこと言いましたか?」

『ふふ、ううん。なんだか赤葦くんが木兎くんの保護者みたいで、面白くて…』

「…まあ、確かに木兎さんは大きい子供みたい所がありますが…あんなに聞き分けのない子を育てた覚えはありません」


怒られている木兎さんの姿に眉を寄せてそういえば、苗字先輩はまた笑った。ああ、なるほど。木兎さんが言っていた意味が少し分かった。
確かに、彼女の笑顔は綺麗だ。


「…あの、苗字先輩は、木兎さんのことをどう思いますか?」

『え?木兎くんのこと?』

「はい」

『……真面目で真っ直ぐな人だと思うけど…』

「…真面目…?あの、こんなこと言うのもアレですが、木兎さん、決して真面目ではないですよ。授業中は寝てばかりですし、それに課題だってよく忘れてますし」

『あはは、うん。知ってる。木兎くんよくそれで「センセーに怒られたー」って言ってたから。でも、木兎くん、バレーボールに関して、凄く真面目じゃない?』


苗字さんの言葉に少し目を丸くする。
そんな俺に気づかない彼女は、正座をして、決してカッコイイとは言えない木兎さんを見て、穏やかに微笑んだ。


『何かに、一生懸命になるって、案外難しいことだと思う。けど、木兎くんはバレーには真摯に向き合ってるでしょ?そういう所、真面目だなって思う』


俺の心配は杞憂に終わりそうだ。やっぱり彼女は、木兎さんのことを嫌いではない。
ハッとした顔をして顔を真っ赤にする苗字さんに思わず笑っていると、それに気づいた木兎さんが凄い勢いで間に入ってくるのはそのすぐあとだった。

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