高校1年になりました14
『こう?』
「そうよぉ、上手いわぁ」
「名前ちゃんはいい嫁さんになるのぉ」
あはは、とお世辞を流すと健介くんのおじいちゃんとおばあちゃんも笑ってくれた。
実は健介くんに連れられてこの二人に会ってから、気になって何度か様子を見に来ていたのだ。
その度に半ば強制的に家に上がらされ、お茶を飲みながらおしゃべりをしたりした。
するとドンドン仲良くなって、今では本物の孫のように可愛がってもらっている。
春休みになったので、また顔をみせにいくと、今日はおばあちゃんと一緒におはぎを作ることになった。
出来上がったおはぎをズラリと並べていると、そのなかから私が作ったものをおばあちゃんはお重に詰めて風呂敷で包んでくれた。
「はい、これ」
『え?…でも…』
「私たち二人じゃ食べきらないし、名前ちゃんのお家の人にも食べてもらいなさいな」
「喜ぶわよ」と笑うおばあちゃんに心がほっこり暖かくなる。
「ありがとう」とそれを受け取ろうとすると、「その代わり」とおばあちゃんは言葉を付け加えた。
「いつでも遊びに来てね」
『…ふふ、はいっ。また遊びに来るね』
「またね」と手をふって健介くんのおじいちゃんおばあちゃん家から帰路を歩く。
それにしても随分たくさん貰ったなぁ。
少しだけお重を掲げたとき
「おっと」
「わぁ」
『わっ!』
曲がり角で誰かとぶつかりそうになってしまった。
しまった、よそ見をしていたからだ。
慌てて謝ろうとすると目に入ったのは紫色と赤色。
『…む、紫原くんと征十郎くん?』
「あー!名前ちんだー」
「名前さん…?」
いつも通りの紫原くんとは違い少し驚いた顔の征十郎くん。
そういえば、彼らはどちらもバスケ部だったな。
征十郎くんに紫原くんを知っている理由を説明しようとすると「あー!」と何故か紫原くんが嬉しそうに目を輝かせた。
『?紫原くん?』
「名前ちん、甘い匂いがするねぇ」
『え?…ああ、これかな』
「それは?」
『おはぎが入ってるの』
「手作りなんだよ」と笑いながらお重を掲げてみせると、紫の彼の瞳が更に輝きが増した。
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。
そんな目でジッと見られてしまい、苦笑いしてしまうと彼の隣にいる征十郎くんが申し訳なさそうな笑みを浮かべてこちらを見てきた。
『…よ、よければ食べに来る?』
「!!!いいの!?」
パッと表情を明るくさせる紫原くん。
なんでだろう、こんなに大きいのにこんなに可愛いのは。
微笑んで頷くと紫原くんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
『征十郎くんもおいで』
「ですが…」
『こういうのは大勢で食べた方が美味しいのよ?』
「味の保証はできないけど」と冗談で付け足せば、征十郎くんはフッと笑うな頷き返してくれた。
「「お邪魔します」」
『どうぞ。今日はおじさんもおばさんもいないから』
「そこで手を洗って、椅子に座って待っててね」と二人に言ってから自分は一度部屋に戻って荷物を置いた。
それからリビングに戻ってくると、椅子に座って待っているのは紫原くんだけ。
あれ征十郎くんは?
不思議に思ってキッチンで準備をする前にリビングの隣にある和室を覗いてみると、
『あ…』
「…」
征十郎くんは仏壇に手を合わせていた。
“こっち”の私の両親の仏壇に。
「…勝手にすみません」
『ううん、むしろありがとう』
「…名前さんの…ご両親、ですか?」
『うん、そうなの。あ、けどね、私が物心つく前にはもぅ二人ともいなくてね。だから全然覚えてないの』
これは本当。
私は“こっち”の両親の記憶が全くないのだ。
チラリと征十郎くんを見れば、彼はフッと目を伏せた。
「…あの時、貴女が話していたのはご両親の事ではないんですか?」
『…うん、…ちがう人の事、だよ』
「そうですか……。けど、大切な方なんですよね。その方も」
『そう。…とっても、とっても大切な人なの』
愛しい愛しい和也さん。
ソッと目を細めて指輪を見つめると、征十郎くんが何かを言いたそうにして私を見ていた。
「ねぇーまだー?」
『あ、ごめんごめん。今用意するから』
ヒョッコリとこちらに顔を出してきた紫原くんに促されて戻ろうとしたとき、征十郎くんと目があった。
「ほら、征十郎くんも行こう」「…名前さん、」「うん?なぁに?」「…いえ、ご馳走になります」「ふふ、はい」
彼は本当に聡明な子だ。
征十郎くんが先にリビングに戻るのを見てから、私もその後を追いかけた。
そのあと二人は「おいしい」と言っておはぎを食べてくれた。
良かった。お口に合ったようだ。
帰り際に残りのいくつかを紫原くんに持たせるとヘニャリと笑ってくれた。
その時も征十郎くんがジッと指輪を見ていたのは気づかないふりをしておいた。
prev next