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高校1年になりました13


幸くんの合格祝いから返ってくるとすぐに春休みを向かえた。
春休み、と言ってもバイトに出るのは変わらないので今日はコンビニの方へ出ていると、ふと頭を過ったのは幸くんの言葉。


“どうしたら、お前は俺を”
“男として、見てくれるんだよ!!”


『男、ねぇ… 』

「は?」

『っ!…て、青峰くんか…』


ぼんやりとしていたせいで背後に立たれても気付けなかった。
「ビックリしたなぁ」と青峰くんを見上げると「わりーわりー」と平謝りが返ってきた。
明らかに思ってないね。


『それで?今日は何を買いに?』

「ん?そうだなぁ…」


肉まんを奢ってあげたあの日から、カラフルな後輩たちはよくここを訪れるようになった。
その頻度が特に高いのがこの子と紫原くん。
この二人はよく来るので、たまに奢ってあげると青峰くんは屈託のない笑顔を紫原くんはフニャッとした笑顔をくれるものだから、ついつい甘やかしてしまうのだ。

「今日は腹減ってんだよなー」とパンコーナーを見ている青峰くんは背は高いけれど、カラフルな子達の中で多分一番単純だと思う。
学校の成績も悪いみたいだし(さつきちゃん談)。


『今日はアイスはいいの?』

「おっ、そう言われればアイスもいいな!」

『(…お腹減ってるのにアイスはないでしょ)』


小さく笑ってしまうと、それを不満に思ったのか青峰くんは唇を尖らせた。

「なに笑ってんだよ」「え?いや、別に」「別にじゃねぇよ、明らかに馬鹿にしただろ」「…あ、青峰くんお腹減ってるんだよね、肉まん奢ってあげようか?」「誤魔化したな。まぁ奢ってもらうけど」

あ、やっぱり単純だ。
今度は顔には出さずに心の中でクスクスと笑いながらレジに行って肉まんを袋に入れてあげると、「サンキュ」と言いながら、奪うようにして取っていった。


「苗字さん、今日はもぅいいよ」

『あ、はい』


いつの間にか来ていた交代のパートさんに返事を返すと肉まんにキラキラと瞳を輝かせていた青峰くんが顔をあげた。


「あれ?今日はもぅあがりなのかよ??」

『うん、今日はちょっと早いの』

「ふーん…じょあ、そこまで一緒に帰ろうぜ」

『え』


「入り口のとこで待ってるな」そう言って店から出ていく青峰くん。
パチパチと数回瞬きをしていると「苗字さん?」とさっきのパートさんに不思議そうに声を掛けられて、慌てて帰り支度を始めた。









『あ、青峰くん』

「お、来たな。んじゃ帰ろうぜ」


支度を終えて入り口から出ると本当に待っていた。
待っている間に肉まんは食べ終えてしまったのか、そのゴミをゴミ箱に捨てるとさっさと歩き出してしまった。
誘ったわりにはマイペースだなぁ、と呆れながら追いかけて隣に並ぶと何故か視線を感じる。


『えっと…なに、かな?』

「…いや、こうして見ると女子高生っぽいなって」

『それって中学生に見えるってこと?』

「はぁ?いや、逆だろ」


逆、それはつまり上に見えるということか。
まぁあながち間違いではないな。


『普段の私はいったいいくつ位に見えるの?』

「見た目は別にあれだけど…なんつーんだっけ、ほら、雰囲気ってヤツ?あれがなんか違うんだよな」


“違う”
その言葉に一瞬ドキリとしてしまった。
それを隠すように「どこが?」と尋ねると青峰くんは少し首を捻った。


「…なんつーか、年相応じゃねぇよな」

『…』

「特に今とか」

『え?』

「それ、触ってるときだな」


青峰くんの言葉に目を丸くして自分の手を見ると、無意識に指輪に触れていた。
「いつもそれ触ってたんだな」と妙に納得した顔をする青峰くんに、ああと私も納得した。
コンビニで働いてるときはコンビニの制服の下に着けてるので見えないのだ。

スッと指輪から手を離すと、青峰くんの視線がじっとそれに向けられた。


「それってあれだろ?結婚指輪ってヤツだろ?」

『青峰くんでも結婚指輪って分かるんだね』

「ケンカ売ってんのか」

『売ってないよ』


ふふっと笑って彼から視線を下へずらすと、首にかかった指輪が自然と目に入った。


「高校生が持つもんじゃねぇだろ、それ」

『…そうだね』

「男からだろ?」

『まぁね』

「…彼氏か?」


この質問は何度目だろう。
「違うよ」と首を振れば、青峰くんはほんの少しだけ驚いたように目を見開いた。


「…ちげーの?」

『うーん…合ってるといえば合ってるけど、でも今は彼氏はいないんだよね』

「なんだそれ?」

『なんなんだろうね』

「…まぁ別にいいや」


あれ?思ったよりも普通に引き下がってくれた。
ちょっと驚いたまま青峰くんを見ていると「でもよ」と真剣な顔をした彼の視線が私を射抜いた。


「外した方がいんじゃねぇの?それ」

『ぇ…』

「いや、だってよ。それを触ってる時、メチャクチャ辛そうな顔してんじゃん」

『それは…』

「いちいち触れるたびにそんな顔されたら周りの奴らだって気になるだろ」


ああ、そういうことか。

今まで幾度となくされてきたこの指輪に対しての質問。
私は今までそれを、若い私が着けるものにしては不自然なものだから皆聞いてくるのだと思っていた。
でも、私の考えはハズレていたらしい。


『…ありがとう、青峰くん』

「は?」

『心配して、くれたんだよね』

「っ、い、いやそれは…まぁ…」


暗いから少し分かりにくいけれど、彼は照れている。この反応はやっぱりそうなのだと思う。
多分、今まで私に同様の質問をぶつけて来た子達も同じように心配してくれたのだろう。

それはとても嬉しいことだ。けれど、


『…でもね、青峰くん。私はこの指輪を離せないの』

「は?」

『離したくないの。多分離しちゃったら私は…』


“死んじゃうから”


笑ってそう言うと、青峰くんの目がこれでもかというくらい見開かれた。


「死ぬって、んな大袈裟な…」

『大袈裟じゃないよ』

「けど」

『青峰くんにとっては大袈裟に聞こえるかもしれない。でも私には普通の事なの』


ちょっと冷たい言い方になってしまったかな。
チラリと隣の彼を見ると、困ったような悲しんでいるようななんとも言えぬ顔をしていた。

「ごめんね」と謝って頭を撫でようとしたのだけれど、いかんせん背が高くて届かないので、仕方なく頬に手を添えるとギョッとした目で見られた。
そんな彼に柔らかく笑ってからその手を離して「帰ろうか」と歩き始めると、流石の彼もそれからは指輪について触れることはなかった。

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