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高校1年になりました9


『はい、どうぞ』

「ありがとうっス!!」


「どういたしまして」と笑った名前さんは俺がコンビニに来たとき人がいないと、少し話をして、帰るときになるとミネラルウォーターをくれる。

彼女と出会ったのは約一月ほど前だった気がする。


「いい加減払うっスよ」

『だから大丈夫。好きであげてるんだから。それより、最近肌寒くなってきたよね』


あ、話反らされた。
「風邪引かないようにね」そう笑う名前さんは俺の知っている女の子というものと全然違う。
そりゃ三つも上なわけだから少しは大人びてるかもしれない。
でも、俺のファンには女子高生だっているけれど、彼女はそういう感じじゃない。

「はい」と頷いてみせると満足そうな笑顔を向けられた。


『ところで黄瀬くん、』

「?なんスか?」

『ここ数日連続でここに来てくれてるけど大丈夫?無理して来なくていいんだよ?』

「いや、無理なんて…」


無理なんてしてない。
俺がこのコンビニに来るのは、ただ単に彼女に会いたいからだ。
他の子と違う柔らかい雰囲気や微笑み。
モデルの俺ではなく、黄瀬涼太としての俺を見てくれる。
家族以外の人。

黙ってしまった俺を不思議に思ったのか、「黄瀬くん?」と首を傾げる名前さん。
慌ててなんでもないと首をふるとそれなら良かったと安心したように笑った。

良かった。笑ってくれた。
名前さんが笑ってくれると俺も嬉しくなる。


“寂しそうに笑うんスね”


初めて会ったとき彼女が胸元にソッとてを添えたのを見て思わず口に付いてしまったのだ。


“…そうだね。私、寂しいの”
“だから、またここに来てね”


もしかしたら冗談で言ったのかもしれない。
けどその数日後、何気なく彼女いるコンビニに寄ると、名前さんは笑った。


“来てくれたんだね。ありがとう!”


周りに綺麗な子なんていくらでもいた。
けど、その時に見た彼女の笑顔は今まで見たことがないくらい綺麗なのに、少し儚げだった。
それからも時折、彼女は胸元に手を添えると寂しそうに目を伏せる事があった。その顔を笑顔に変えたいと思ってしまった。

チラリと伺うように名前さんを見る。
あ、まただ。
目を伏せた名前さんは胸元に手を添えている。


「名前さん」

『…えっ…あ、なぁに?』

「…名前さん、よくそんな風に胸元に手を添えてますけど…ネックレスでもつけてるんスか?」

『…ああ、』


ふっと懐かしそうに笑った名前さんはコンビニの制服のジッパーを少し下げると服のしたからキラリと銀色に光るものを取り出した。


『これだよ』

「…これって…」


指輪だ。しかも路上で売っているような安物なんかじゃない。
多分、ちゃんとしたもの。
所謂、“結婚指輪”というものだ。


「…彼氏、から貰ったんスか?」

『彼氏はいないの』

「え?」

『今はね』


今は?じゃあ元カレか何かから貰ったのだろうか?

「じゃあ元カレっスか?」「まさか」「??じゃあそれっていったい…」「そうだなぁ…」

困ったように笑って「うーん」と少し考える素振りをした名前さんはフンワリと笑って手のひらに乗せる指輪を見つめた。
それは俺が好きな笑顔だった。


『永遠の愛の証』

「え、」

『かな?これは…』


愛しそうに目を細める名前さん。
こんな彼女は初めて見た。とても綺麗な笑顔なのに何故だろう、まるで胸が締め付けられるような感覚がするのは。

ジッと彼女を見つめていると、指輪から視線を此方に向けた名前さんはニッコリと笑った。


「…永遠の愛の証…」

『…分かりにくい、よね』

「いや、それは…」

『ふふっ。…分からなくていいんだよ』

「え?」

『分からない方がいいの』


それは多分、「俺には理解できない」という意味なのだろう。
優しい彼女はそれをオブラートに包んで言ってくれているのだ。

「ところで黄瀬くん、新作のスイーツとか興味ない?」「…どれっスか?」「これなんだけど」「美味しそう、っスね!」

半ば無理矢理に話を反らした名前さん。
そのままそれに従って話していると名前さんは指輪をまた服の中へとしまった。
とても大事そうにしまっていた。






初めて自分から知りたいと思った彼女は、とてもとても綺麗に笑うのに、とてもとても寂しそうで、それなのに自分の周りには必要以上に近づかせてくれない優しくて残酷な人だった。

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