高校1年になりました8
新しく始めたコンビニバイトは帝光中に近い所で、私も何度か利用したことがある。
「ありがとうございました」と二人組の学生に挨拶をする。
今の二人が居なくなってしまうと他にお客さんは居なくなったので、もう一人のパートのおばさんは休憩を取るために裏へ。
喫茶店のバイトとは違って忙しいときは忙しいのだけれど、暇なときは暇だ。
うーん、と小さく伸びをしていると
ピコーンピコーンと誰かが入ってきた。
『いらっしゃいませ』
「ちょっ!!匿って欲しいっス!!」
『え?ちょ、ちょっと!?キミ!?』
入ってきたのは金髪の長身くん。
帝光中の制服を着ているし、中学生なのだろう。
焦った様子の彼は何故かお客様カウンターの内側へ。
呆気にとられていると金髪くんはソコへしゃがみこんだ。
その時またピコーンピコーンと入口に数人の女の子が入ってきた。
「あのっ!ここに黄瀬くん来てませんか!?」
『き、黄瀬?……あ、あー…この店の前通って行ったような…』
「なんですって!?」
「行こう!!」と外へ出ていく女の子たち。
まるで嵐のようだなぁ、と出ていくのを見届けてからチラリと視線を下げた。
『行ったよ』
「……ありがとうございますっス」
くだけた敬語の様な話し方はこの子の口癖なのだろう。ちょっと可愛いな。
「どういたしまして」と笑うと、立ち上がった金髪くんが不思議そうに首を傾げた。
『なぁに?』
「お姉さん、俺のこと知らないんスか?」
『え?……何処かで会ったことあるかな?』
「いや、そうじゃなくて…」
ちょっとだけ眉を寄せた後、あっと何かを思い出したのかカウンターの内側から出て雑誌コーナーへ。
するとすぐに一冊の雑誌を持ってきて、パラパラとページを捲るとあるページを開いて見せてきた。
『…わぁ、君だね。これ』
「…なんかビミョーな反応っスね」
『いやいや十分驚いてるよ』
「モデルさんだったんだねぇ」と笑うとまた不満気な顔をされてしまった。
正直モデルだろうがなんだろうが、年下の男の子には変わらないのでそんな顔をされたら可愛いと思ってしまうのが私である。
『モテるのも大変だね』
「え、……いやそれはもぅ慣れたんで…」
『そっか』
渡された雑誌を置いて飲み物コーナーへ行くと、されを不思議そうに見られた。
「何が好き?」「え?」「飲み物」「……」「ほら、何?」「ミネラルウォーターっスけど」「了解」
どうぞ、というように取ったペットボトルを差し出すと、少し迷った顔をしてから受け取ってくれた。
「あ、お金…」
『いいよいいよ。お疲れの後輩くんに先輩からのプレゼントです』
「…せんぱい?」
『そっ。元帝光生です』
キョトンとした顔の金髪くんにクスクスと笑っていると、ハッとした彼はちょっと頬っぺたを赤くして視線を下げた。
やっぱり中学生だな、可愛いわ。
「帝光…だったんスね」
『まぁね。ところでキミは、楽しい?中学生生活』
「…キミじゃなくて黄瀬涼太なんスけど」
『ああ、ごめんごめん。黄瀬くんね。それで黄瀬くん、どう?学校は』
「…どうって…別に…」
あれ?
黄瀬くんは一気につまらなそうな顔をした。
ちょっと意外だ。
今時の子ってこんな感じなのかな?
いや、でも私の天使たちはそんな事ないし。
『…学校、つまらないの?』
「え…まぁ…やったらなんでも出来ちゃうし、女の子にだってモテちゃうし。特に楽しい事もないし」
冷めている、という言葉がピッタリの言い方だった。
「もったいないね」と苦笑いをすると黄瀬くんが何がと言いたげにこちらを見た。
『好きな子とかいないの?』
「好きにならなくったって付き合えちゃうし」
『そうじゃなくてね。好きでもない人とのお付き合いと好きな人とのお付き合いは違うんだよ』
「…そういうもんスかねー…」
『そういうもんだよ』
コンビニの制服の下にある指輪を服の上から触る。
「寂しそうに笑うんスね」
『…え、』
黄瀬くんの意外な言葉に目を見開いて彼を見ると、黄瀬くんも自分の言ったことに驚いたような顔をしていた。
「いや、今のは…」
『…そうだよ。私、寂しいの』
「え…」
『だから、またここに来てね。この時間はお客さん少ないし』
「ねっ、」と笑顔を向けると、黄瀬くんは少し面食らったような顔をした。
それからすぐに「…暇が、あれば」そう返してきた。
「ありがとう」と笑うと黄瀬くんはまた頬っぺたを赤くしたのだった。
ちなみに彼はまだ一年生らしい。
最近の子の成長って怖い。
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