夢小説 完結 | ナノ
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高校1年になりました3


チリンチリンとなった鈴。
「いらっしゃいませ!」とカウンターを拭いていた手をとめて振り返ると、入ってきたのは最近よくみるお客さんだった。


『あ、今吉くん』

「どうも、」


高校に入学し、喫茶店でバイトを初めてから3ヶ月。
彼がここに来るようになったのは確か1ヶ月程前だった気がする。
テスト勉強だと言ってここで珈琲を飲みながら勉強をする今吉くんはとても中3には見えなかったな。

「部活は?」「午前練やったんです」「お昼食べたの?」「…」「マスター!今吉くんが食べるものも欲しいそうでーす」

「了解」と笑うマスター。うん、素敵だ。
今吉くんにニッコリと笑顔を向けるとカウンターに座った彼にため息をつかれた。


「ここの飯、美味しいんですけど、中学生には高いんですわ」

『普通の中学生はこんなところに珈琲飲みに来ません』

「…まいったなぁ」


フフッと笑っているとマスターに珈琲を出すようお願いされた。
あ、しまった。ついお喋りに夢中になってしまった。
慌てて客席側からカウンターの中へ入ると、今吉くんがおかしそうに笑っていた。
珈琲を激甘にしてしまおうか。まぁしないけど。


『どうぞ』

「おおきに」

「今吉くん、ハンバーグで良かったかな?」

「マスターの作って下さるものなら、なんでも構いません」


「嬉しいこと言ってくれるね」と笑ったマスターは出来上がったばかりの煮込みハンバーグとパンを今吉くんの前に置いた。
うん、やっぱりマスターのご飯は美味しそうだ。

「マスターは何でもできるねぇ」「いやいや、」「うちの娘にも料理を教えて欲しいよ」という常連さんの吉井さん(61)とのやり取りを見て笑っていると、「せや、」今吉くんが何かを思い出したように口を開いた。


「今度後輩連れてきてもええですか?」

『後輩?今吉くんの?』

「そうです。バスケ部の後輩です」

『お客さんが増えるのは嬉しいことだし、いいと思うよ?』

「ほんなら、名前さんのシフト聞いてもええ?」

『え?なんで?』


思わず首を傾げてしまうと、今吉くんはその後輩くんを私に会わせたいのだと言った。
特に嫌な理由もないので、1つ頷いてからスケジュール帳を取りに行くことに。


「…今吉くんもやるねぇ」

「何のことで?」

「はは、せっかく来たのに名前ちゃんが居ないと君も面白くないだろうしね」

『何の話ですか?』


スケジュール帳を手に戻って来るとマスターと今吉くんが話していたので何を話していたのか尋ねると「ちょっとした世間話をね」とマスターはどこか楽しそうに笑った。
ちょっと気になるけど、ここで食い下がっても教えてくれないのがここのマスターなので諦めて今吉くんにシフトを教えることにした。


「どうも」

『いいえ、後輩くんが来るの楽しみにしてるね』

「…あんまり可愛げないですよ?」

『あはは大丈夫。どんな子でも年下なんて可愛いものだよ』


「今吉くんもね」と笑いかけると、なぜか複雑そうな顔をされた。
あれ?気にさわってしまったかな。
ちょっと首をかしげる私の横ではマスターが意味深な笑みを浮かべていて、その前に座っている吉井さんは「若いねぇ」と目を細めて笑っていた。
不思議に思いながらもいつの間にか食べ終わっていた今吉くんの皿を片付けると、今吉くんに深いため息をつかれた。失礼だな。


それから珈琲のおかわりを頼んだ今吉くん。
特に他のお客さんが来ることもなかったので、そんな彼と話をしながら過ごしていると、今吉くんの携帯がなった。
どうやらお母さんらしい。


「…じゃあそろそろ帰ります」

『うん』


レジの方へ移動して、お会計をすると「はい?」と今吉くんにしては珍しいポカンとした顔を見せられた。
こういうときは年相応で可愛い。


「…安ない?」

『ご飯代は私の奢り』

「…自分で払います」


ちょっと拗ねたように眉を寄せた今吉くん。
そんな彼に思わず苦笑いしてしまう。
子供扱いされたくないのだろう。
やっぱりまだ中学生だな。


『いつも来てくれるお礼ともうすぐある部活の…バスケの最後の試合頑張ってっていう気持ちだよ』

「…」

『受け取っていただけます?お客様?』


中3にしては背の高い今吉くんを見上げて笑うと、諦めたように彼も笑った。


「ほんま、敵わんなぁ」

『これからもこの店を御贔屓にして下さいよ』

「分かりましたわ」


今吉くんは財布から千円札を出して渡してきた。
そのおつりを渡して「気をつけて帰ってね」と言うと「餓鬼やないんやし大丈夫ですわ」とムッとしたように返された。
そういう所がまだまだ可愛いんだよね。
「はいはい」と返して高い位置にある頭を撫でると眼鏡の奥にある目が少し開いて、驚いような顔をした。


「せやから、餓鬼やないんですけど…」

『ごめんごめん。
じゃあ…またね、翔一くん?』


手を離してニヒヒと言うように笑うと、また驚いたのか少し固まってしまった今吉くん。
あれ?と思って首を傾げると「…また来ます、」そう言って彼は鈴を鳴らして出ていってしまった。

どうやら怒らしたわけではないようだ。
振り返るときに見えた真っ赤な耳に笑ってしまったのは内緒にしよう。

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